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14.21-07 色々な力07

 冒険者ギルドからは人っ子一人いなくなっていた。事情を知らない者たちも、他の冒険者たちの顔色を見て、只事ではないと思ったらしく、一緒に逃げていったらしい。


 職員たちも例外ではない。ドサクサに紛れるようにして、彼らの姿も消えていたのである。とはいえ、出口から遠い場所にいた彼らは、冒険者たちと一緒に逃げる事が出来なかったのか、大半がカウンターの裏や机の裏に隠れているようだが。


 そんな職員たちの存在にいち早く気付いたのはアステリアだ。


「いかがいたしますか?ワルツ先生。そこに隠れている者も、逃げ出した者も、すべてワルツ先生の前に連れてくることが出来ますが?」


 彼女の特殊能力と草木魔法を併用すれば、町の中にいる"冒険者ギルドの職員"だけを選別して、ワルツの前に並べることは不可能ではなかった。逃げ出した者も、非番の者も、そして隠れている者たちも、たった一人の例外もなく強制的に連行してくるに違いない。


「いやいや、そこに隠れている職員さんに話しかければ良いだけだから、無理矢理連れてくる必要はないわ?」


「そう……ですか。ワルツ先生がそう仰るのであれば……」しゅん


 ワルツの力になれなかったことが悲しかったのか、アステリアはシュンとして、獣耳を倒した。


 ワルツは、そんなアステリアに対し苦笑を向けた後、カウンターへと向かい……。そして「よいしょ」と言ってカウンターを乗り越えてから、その真下に隠れていた職員へと話しかけた。


「隠れているところ申し訳ないのだけれど、ちょっと良いかしら?」


「ひっ?!」ガタッ


 まさか話しかけられると思っていなかったのか、カウンター裏に隠れていた受付嬢が、慌ててその場から飛び退き——、


   ゴンッ!


「あう゛っ?!」


——後ろの机に後頭部をぶつけて、悶絶する。


 ワルツとしては、悪気も悪意もない単純な問いかけのつもりだった。だというのに、事態は悪化していく。


 受付嬢がぶつかった机の上には、丸い水晶のようなものが置いてあって、それがコロコロと転がり始めたのだ。恐らくは、他の冒険者から買い取った魔石か魔道具の類いなのだろう。その丸い物体が机の上から地面に落ちるまで、そう長い時間は掛からなかった。


 ……が、その様子に気付いていたワルツによって、魔石のようなものは、地面に落ちる直前で、彼女の手により受け止められる。彼女の反応速度は、人と比べものにならないほど早いのだ。慣性などの物理法則も、重力制御システムがあれば、存在しないも同義。カウンターの上にいた彼女は、瞬間移動とも言えるような速度で、落下中の魔石(?)の所まで移動する。


「おっとっと……」しゅたっ


「ひぃっ?!」ガタッ


 しかし、その行動が拙かった。ワルツは、机の影に隠れていた別のギルド職員を驚かせてしまったのである。彼は驚きの余り飛び跳ねた訳だが、すると当然、机が下から上に押し上げられる形になり——、


   バンッ!


「っ…………!」


——彼もまた悶絶することになる。


 それと同時に、机の上にあった書類が飛び跳ねた。どうやら魔法陣が書かれたスクロールらしく、放物線を描いたスクロールの()が空中で解け、中身が露わになる。


 その中身を見たワルツは目を見開いた。彼女には魔法陣に何が書かれていたのか理解出来てしまったのだ。転移魔法陣について学んできた今の彼女だからこそできたようである。


「(へぇ!空気を一気に加熱させて小さな爆発を引き起こす魔法陣じゃない!なるほど……。こう書けばいいわけね!)」


 などとワルツが高速思考空間内で、納得げに魔法陣を解析していると、更なる悲劇(?)が生じる。放物線を描いたスクロールの行き先が、下級の魔石が大量に並べられた机の上だったのだ。


 ちなみに、魔法陣というものは、それ単体では効果を持たない。外部から魔力が充填された瞬間に、効果を発揮するのである。スクロールが魔石の上に落ちれば、ギルドの中で爆発するのは不可避。近くには、非戦闘員のギルド職員たちが隠れているので、大惨事に発展するのは確実だろう。


「ちょっ?!」


 ワルツは慌てて重力制御システムを行使し、落下するスクロールを、魔石まで間一髪、といったところで停止させることに成功する。本当にギリギリの所だった。あと少しでも彼女の反応が遅れていれば、いまごろ冒険者ギルドの中は、火の海になっていたことだろう。


 なんとか窮地を脱することが出来たワルツは、ホッと内心で溜息を吐くが、それは彼女が高速思考空間内で物事を判断しているためである。しかし、一般的な人間にとっては、いまだスクロールが魔石の上に落ちているかのように見えていたらしい。


「ひぃっ?!にげっ……」ガンッ


 また別の場所でギルド職員の悲鳴と、頭をぶつけた音が上がる。


 そんな彼が倒した者は、火の付いた燭台。そしてその近くには、大量の書類が積み上げられていた。


「(ちょっ……またなの?!)」


 ワルツは、高速思考空間の中でも慌てながら後始末を続けた。しかし、何の因果か……。彼女が一つ危機を乗り越えるたびに、新たな危機が彼女に牙を剥く(?)。


 しかし、それはワルツから見ればの話。傍から見れば、彼女が独り相撲をしているか、あるいは誰もいないことをいいことにイタズラをしているように見えていたに違いない。


 そんな状況がおよそ30秒ほど続いたところで——、


「おい、何をしておる?!」


——ギルドの上の階段から、見知った人物が顔を出した。レストフェン大公国の冒険者ギルドのトップ。グランドマスターのロズワルドだった。


ありのまま、いま起こった事を話すぜ…・…が通じないやつなのじゃ。

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