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14.21-02 色々な力02

こうしてまた化け物が生まれるのじゃ……。

 アステリアの意向を聞いたワルツは、金が欲しいと言う彼女の願いを叶えるための方法を考える。とはいえ、アステリア個人だけが得をするような方法は考えない。ワルツが今まで知識を教えてきた者たちには、ワルツもまた得をするように知識を選んで教えてきたからだ。それはアステリアも例外ではない。


「(アステリアって、なんていうか、イブみたいに器用貧乏な雰囲気があるのよね……。特に得意な事って何かあったっけ?)」


 ワルツは思い出す。


「(確か、爆発系の火魔法と、獣に変わる変身魔法と、草木の生育を操作する草木魔法と……あぁ、あと、数を数える謎魔法が得意だったわね)」


 それらの魔法をどう組み合わせれば、効率よく金稼ぎが出来るのか……。あるいは、あと何を付け加えれば良いのか……。


「(そういえば、今まで、お金を稼ごうと思った事って、殆ど無かったわね……。この世界に来た最初くらい?いざ考えようとすると、中々出てこないわね……。直接、金銀財宝を作り出すのであれば、ルシアに頼んで精錬して貰えば良いわけだから、わざわざアステリアに覚えて貰う必要はないし……)」


 ルシアのように、一次産業的な金稼ぎの方法ではない、別の方法が無いかをワルツは考えた。


「(たとえば、冒険者?)」


 爆発系の火魔法と、早く走ることの出来る変身魔法があれば、俊足の爆発系冒険者(?)が出来上がるのではないか……。しかし、その考えも、すぐに否定することになる。


「(でも、あまりに中途半端だし、勿体ないのよね。草木魔法と、数を数える魔法が役に立っていないし……)」


 アステリアを今のまま冒険者にしても、彼女はそれなりのランクの冒険者になるはずだった。しかし、それでは彼女の能力の半分も生かせず、また、"それなり"の冒険者にしかなれないのである。しかも、ワルツにとって得は無い。


「(うん。冒険者として活躍するって選択肢は無しね。一旦、頭をリセットして……って、あれ?そういえば——)」


 ふと疑問を抱いたワルツは、アステリアに問いかけた。


「ねぇ、アステリア?貴女の妹さんって、どうやってお金を稼いでいたの?」


 ワルツの急な問いかけに、アステリアはきょとんと首を傾げながらも、返答する。


「えっと、あの子は……お金の気配にとても敏感でした。広い町でも、どこかに金貨が落ちていれば、その気配を察する事が出来たんです」


 アステリアのその話を聞いて、ワルツとマリアンヌは怪訝そうな表情を浮かべた。そんな都合の良い能力があるとは思えなかったのだ。


 しかし一方で、ルシアとテレサは、納得げな表情を見せていたようだ。


「あー、分かる。その感覚」


「……寿司かの?」


「そうそう!」


 ルシアは自身を中心として半径50km以内(?)に稲荷寿司があれば、それを即座に探知するという謎の特技があるのだ。多分、魔法ではない。


 そんな2人の会話を耳にしたワルツは、苦笑しながらも、アステリアに対して改めて問いかける。


「アステリアにはそういった特技は無いの?」


「……残念ながら。強いて言えば、数を数えるのが特技、でしょうか。数を数えるのは魔法ではないので……」


「(へぇ?魔法だと思っていたのだけれど、違うんだ……)」


 そしてワルツは、ふと思う。


「ちなみに、どうやって数えているの?」


「えっ?えっと……普通に?」


「……ちょっと、貴女の普通がよく分からないから、もっと具体的に」


「えっと……ひとつ、ふたつ、みっつ……と、数えていますね」


「それを一瞬でやる、と。じゃぁさ、その能力って、何がどこにあるのか、把握できる能力でもあったりする?」


「……えっ?」


「いや、だって、数を数えているんでしょ?見ただけで数字が目の前に浮かんでくるわけではないわよね?」


「たしかに……言われて見れば……」


「それさ……貴女が気付いていないだけで、貴女の能力って、妹さんの上位互換の特殊能力なんじゃないの?妹さんは金貨の在処(ありか)を察知できるかも知れないけれど、貴女は……金貨だけじゃなくて、任意のものがどこにあるのか、一瞬で探り当てる能力を持っているんじゃない?」


「…………」


 アステリアは黙り込んだ。ただし俯いている訳ではない。ワルツの言葉に目を丸くして、そのまま固まっている、といった様子だ。何かトンデモないことに気付いてしまったらしい。


「そんな……そんなことって……」ガタッ


 アステリアは急に立ち上がった。そして周囲を見渡す。


 そんな彼女の目に何が映っているのかは分からない。しかし、今の彼女には、これまで見えなかった世界が見えるようで、その目はキラキラと輝いていたようだ。しかし、まもなくして彼女の目から輝きが失われる。


「……落ちている金貨は無さそうですね……」しゅん


「いや、別にそこ、金貨を探す事だけに能力を使わなくても良いんじゃない?」


「?」


「例えば、森の中のどこに魔物がいるか、分かるんじゃない?」


「魔物……」


 アステリアは再び周囲を見渡した。ここは教室の中である。周囲を壁に囲まれており、窓から身を乗り出してじっくり森を観察しない限り、魔物を見つける事など出来ないはずだった。


 しかし——、


「見える……見えます!魔物の姿が!そんなに遠くまでは見えませんけど、木陰に身を潜めている魔物が見えます!」


——どうやら壁などの障害物に関係無く見えるらしい。


「貴女のその能力……数を数える魔法と言うより、千里眼……いえ、レーダーみたいな能力かしら?(なんで今まで気付かなかったのよ……)」


 まさか、数を数えることだけしか能が無いと思い込んでいたのだろうか……。アステリアの特殊能力を見つけ出したワルツだったが、なんとなく遣り切れない気持ちになったようだ。


 ただ、ありえない話ではなかった。自分で自分の限界に線を引いてしまい、その先の可能性を自ら潰してしまうというのは、アスリートなどでもよくある話だからだ。


 ワルツはそう自分を言い聞かせて、思考に整理を付けると、アステリアに対して行った。そう、アステリアの能力を発掘して、ワルツの授業は終わり、というわけではないのだ。


「さて……これで、貴女の能力を開花させられそうね」


「えっ?」


 ワルツの授業は、むしろ、これからが始まり。揃った材料(のうりょく)料理(かいはつ)する時間がやってきた。

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