14.21-01 色々な力01
ワルツの一存で、午後は休講となった。元々、他のクラスでは休講が多かったので、問題は無い。ユリアを通して、教員たちへの根回しも完璧だ。
しかし、午後になっても、ワルツの姿は教室にあった。なぜか。
「じゃぁ、これから特別授業を始めるわねー」
もちろん、授業をするためである。ただし、その授業の対象は特別教室の学生たちではない。主にアステリアと、その他、ルシアたちなどいつものメンバーが対象だ。
ワルツは、力が欲しいと訴えたアステリアのために、授業を行うことにしたのだ。これまでのワルツの経験から、魔法の強さには、物理学を始めとした科学の知識の有無が大きく関係すると分かっていた。ゆえにワルツは、アステリアのために、学院では教えないような現代世界の科学の知識を覚えさせようと考えたのだ。
問題は、何の知識を覚えさせるのか……。科学のすべてを覚えさせるなど不可能。何か分野を絞って教える必要があった。
「で、早速アステリアに希望を聞きたいのだけれど、貴女はどんな力が欲しいのかしら?」
「皆さんのお役に立てる力が欲しいです!」
「まぁ、そうなんでしょうけれど……もっと具体的に」
「具体的に……」
「そうねぇ……例えば、誰かを癒やしたいとか、強い魔法を身につけたいとか……それか、もっと別の、こんなことがしたい、って思うことがあれば良いのだけれど?」
「……実は、一つあるのですが……」
そう口にするアステリアは、どこか恥ずかしげだった。その場には気の知れた仲間たちしかいないにも関わらず、次の一言が出てこないといった様子だ。
アステリアがグッと手を握り締めて考え込むこと約5秒。ようやく決心したのか、彼女は顔を上げた。
「お、お金を稼ぐ力が欲しいです!」
「お金……なるほど」
今までワルツの近くにいた者たちは、もっと直接的な力を求める者が多かった。物理的な力、医療の力、精神操作の力、力を抑える力などなど……。しかし、金を求める力を欲する者は、今のところいなかった。
ゆえに、ワルツとしては、少し興味が湧いたようだ。
「なんで、お金が欲しいと思ったの?」
金を使って何がしたいのか……。アステリアは金そのものが欲しいわけではないはず……。むしろ、その最終的にやりたいことを、金を使わずに直接やればいいだけなのではないか……。ワルツがそんなことを考えていると、アステリアは予想外の事を口にした。
「え、えっと、しゅm……いえ、お金も力そのものだと思うんです」
「今、趣味って言わなかった?」
「いえ、気のせいです。魔力があれば、直接力に変換できますが、お金もまた同じで、人を動かす力に変換することが出来ます。それ以外にも、欲しいものを買うためにも使えますし、時間を買うことも出来ると聞いた事があります」
「まぁ……そりゃね」
と相づちを打ちつつ、ワルツは考える。ワルツは、欲に塗れている人間が苦手。金が欲しいと言う者は、大抵、欲に塗れていることが多く、アステリアもまた、その一人なのではないかと疑ったのだ。
だが、内気なアステリアを見る限り、彼女が強欲であるようには見えなかった。
「一応、聞きたいのだけれど、世の中にはお金で買えないものがたくさんあるけど、それでも力より、お金が欲しいの?権力とかも、単にお金だけでは手に入らないわね」
例えば、ルシアのような強力な魔力。例えば、カタリナのような人を癒やす力。例えば、ユリアのような人を惑わす魅力……。それらは金でどうにかなるものではなかった。もしも彼女たちを金の力で動かそうとしても、金に困っていない彼女たちを動かすのは不可能なはずだ。
それはアステリアも分かっているはずだった。にも関わらず、なぜ金を求めるのか……。
「……ダメですか?」
「理由は言いたくない?」
「言いたくない訳ではないんですが……恥ずかしいと言いますか……」
「恥ずかしい?」
「負けたくないんです……妹に」
「……えっ?」
ワルツの表情にクエッションマークが浮かぶ。アステリアに妹がいることは知っていたが、金の話と、妹に負けたくないというアステリアの言葉が、どう考えても繋がらなかったらしい。
そんなワルツに対し、アステリアはようやく事情を話し始めた。
「私の種族はノクセン。その名前の由来は、かつて夜の世界を支配していたという大商人からきていると言われています。そんな私たちの種族の中で、上下関係を決めるのは、お金を集める力。妹は……正直に言うと、お金を集める天才でした。姉としては、妹に負けるわけにはいかないんです……。そんな理由がきっかけではダメですか?不純な理由だとは分かっていますが……お金があれば、皆さんの役にも立てると思うんです」
「もちろん、ダメではないわ?でも……そう。お金で妹に負けたくない、か……」
第三者からすれば、信じがたい話だが、ワルツはアステリアの話を信じたようである。この世界は異世界。想像出来ないような不思議な話が存在する……。ワルツはそんな柔軟な考えをもって、アステリアの話を聞いていたようだ。




