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14.20-49 損失49

「ユリアおね……ユリア先生。質問良いですか?」


 そう問いかけるルシアは、どこか不機嫌そうだった。ユリアの授業に気にくわない事があったらしい。


「はい、何でしょう?ルシアちゃん」


「先生、もしかして……授業中、魔法を——」


「おっと、ルシアちゃん。それ以上、口にしてはいけません。これも、円滑に授業を進めるためなのです」


「……そうなんですか」ムスッ


「(ん?魔法?)」


 ルシアとユリアのやり取りが理解出来ず、ワルツは眉を顰めて考え込む。いったい、ルシアは何を言っているのか……。授業に参加していなかったワルツには、まったく分からないことだった。


 そんなタイミングで、正午を知らせる鐘が鳴る。


「(まぁ、細かい事は、あとで聞きましょうか)」


 時間が来た上、授業自体は大盛況で終わったようだったので、ワルツは余計に首を突っ込むのをやめた。そんなワルツとしては、学院の近くで戦闘をしているというのに、授業を継続できたユリアのことを褒めたいほどだったようだ。すくなくとも自分にはできない……。そんな確信があったらしい。


  ◇


 そして、ユリアが教室から立ち去った昼休みの時間。クラスメイトたちが思い思いに食堂へと行ったり、弁当を広げたりしている中で、ワルツは気配を消すのをやめて、ルシアたちへと近付いた。


「お疲れ様」


「あ、お姉ちゃん。戻ってきたんだね?」


「えぇ、さっきね。ようやく一段落付いたわ?」


「ミレニアちゃんは?」


「無事よ?明日は授業にも出られるんじゃないかしら?」


 ルシアの問いかけにワルツが答えると、ワルツより先に教室へと戻ってきていたジャックが、近付いてくる。彼もまた、ミレニアがどうなったのか気になっていたらしい。


「その話、本当か?!」


「えぇ。家庭内のことだから、事情は詳しく言えないけれどね?詳しくは、私に聞くよりも、ミレニアに聞いた方が良いと思うわ?」


「そうか……そうか!良かった……」


 ジャックはそう言って、嬉しそうに胸をなで下ろした。彼はミレニアのことを、自分の事のように心配していたらしい。


「(なんか、ジャックはジャックで、色々大変そうね……)」


 果たしてミレニアの瞳に、ジャックの姿は映っているのだろうか……。色恋沙汰とは無縁のワルツでも、ジャックとミレニアのすれ違いについては、何となく感じられていたようである。まぁ、他人事だったこともあってか、それほど気にしていなかったようだが。


 そんな事よりも、ワルツには気になっていたことがあった。


「ユリアの授業で何かあったの?」


 授業の最後に、ルシアがユリアに質問を投げかけていたことが気になっていたらしい。


 対するルシアは、「ん゛ー」と考え込んで、言おうか言うまいかを悩んでいる様子。そんなルシアの反応を見る限り、彼女の質問は、ユリアの沽券に関わることのようだ。


「……あまり、人の前で言えなさそうなこと?」


 ワルツが問いかけると、ルシアはコクリと頷いた。


 とはいえ、その口は止まらない。その代わり、声の大きさが一段階下がる。


「ユリアお姉ちゃん、授業を進めるのに、魔法を使ってみんなを誘導していたんじゃないかなぁ、って」


「……なるほど」


 ユリアはサキュバス——つまり魔族。この大陸において魔族とは、忌み嫌われる存在である。


 そんな彼女が、円滑に授業を行うために、幻影魔法、あるいは魅了魔法などの精神操作系の魔法を使うというのはあり得ない話では無かった。実際、ルシアは、ユリアが何らかの魔法を使っていると感じ取り、警戒をしていたようだ。ルシアたちに影響が出るような強力な魔法ではなかったようだが、彼女たちもユリアの魔法の影響下に入っていたらしい。


「ルシアは嫌に感じたの?ユリアが使う魔法」


「んー、嫌って言うか……何か魔法を使ってるってことは分かってたんだけど、それが何なのか分からなかったことが、嫌だったかなぁ?」


「よく分からない魔法?」


「多分、幻影魔法とも魅了魔法とも違う何か別の魔法だったと思う。それが分からないせいでモヤモヤするのが一番気持ち悪い?」


「ふーん。あとで直接聞くしかないわね」


 教員としての務めが終わったら、ユリアも自宅に戻ってくるのだろう……。そう考えたワルツは、帰宅後に聞くことにしたようである。


 それからワルツは、話題を変えた。


「そうそう、午後の授業だけど、今日はお休みにしようと思うのよ」


「「「えっ?!」」」ガタッ


 ワルツがそう口にした瞬間、教室にいたクラスメイトたちが、一斉に立ち上がる。やはり皆、学生。"休み"という単語には敏感に反応するようだ。


パブロフの学生。

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