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14.20-46 損失46

 ポテンティアの名乗り(?)を聞いてからというもの、ミレニアは、ぽかーん、と口を開けたまま空を見上げて固まっていた。そんな彼女の視線は、空飛ぶ巨大な戦艦のポテンティアへと縫い付けられたままだ。


 自分の事を見つめたまま、何も言わないミレニアを前に、ポテンティアは内心、後悔する。


『(あぁ……やはり早すぎたでしょうか?もしくはTPO?)』


 ミレニアに姿を見せるタイミングと場所を間違えただろうか……。ポテンティアが何かフォローする言葉を探し始めていると、ようやくミレニアに動きがあった。彼女はスゥッと自分の頬まで手を上げると、その頬をギュッとつねったのだ。


「……うん。やっぱり痛くない。夢だ、これ……」


 自分を納得させるためか、眼前に広がる光景を、改めて夢だと思うことにしたらしい。


 ただ、現実逃避とは違っていた。むしろ彼女は、現実(?)と真っ向から対峙することにしたようである。


「ってことは、私の深層意識では、あんなおっきなポテンティアくんを求めてるって事?我ながらすごい好みね……」


『えっ?あ、あの……』


 ミレニアがブツブツと思考を呟いていたために、彼女の思考はポテンティアにも伝わっていた。それゆえにポテンティアは、焦っていたようである。現状の展開は、彼が想定していたものと、異なりつつあったからだ。


「ポテくん!」


『あ、はい』


「私はポテくんがどんな姿でも大好きです!」


『えっと……ありがとうございます……(おかしいですね……。予想では、嫌われるか、怖がられるはずだったのですが……。このままだと、目を覚ましたときに、ミレニアさんの思考に影響が出るかも知れません)』


 ポテンティアは悩んだ。この場——あの世とこの世とを繋ぐ"回廊"に、ミレニアの魂がやってきてからというもの、ずっと悩みっぱなしだ。


 ポテンティアとしては、ミレニアが自分に対して好意を抱くことは避けたかった。正体が人間ではない自分に好意を持たれても、どう対処して良いか分からないからだ。恋愛経験ゼロ——というより、興味すら湧かないポテンティアとしては、ただただ戸惑うだけ。書籍で見たことのある恋人や友人の付き合いを"再現"することはできても、それは彼の本心にはなりえなかったのである。


 だからといって、ポテンティアには、ミレニアのことを突き放す事はできなかった。繰り返しになるが、ここは"回廊"。あの世とこの世との境界なのだ。そんな場所でミレニアを突き放せば、彼女の魂は()()()()に渡ってしまうことだろう。


『(ここは、ミレニアさんの思考にブレーキを掛けるべきでしょうね……)』


 そう考えたポテンティアは、身体の形を変えて、地上へと降り立った。サイズは人ほどの大きさ。形も人間そのもの。ミレニアが知っている普段のポテンティアの姿である。その過程で、巨大な翼を失った彼が、一瞬、天使のように見えたことは、まぁ、些細な事だろう。


 そんなポテンティアの所へと、ミレニアが喜々として駆け寄ってくる。いや、駆け寄ってくるというレベルではない。タックルを仕掛けてくるレベルだ。タックルと違うのは、両手を広げていることくらいか。


 ポテンティアとの距離はあと僅か。今にも飛び跳ねて、ポテンティアへとダイビングしようとしていたミレニアのことを、彼は手を掲げて制止させる。その上でポテンティアは、宥めるように問いかけた。


『好意を向けていただけることは大変、嬉しい事です。しかし、本当に良いのですか?僕は——』


 そしてポテンティアは再び姿を変えた。


()にもなれる、あやふやな存在なのですよ?』


 ポテンティアが次に変身したのは、少女の姿だ。元々、彼——いや彼女には、性別が存在しないのである。その時の気分でバラバラ。そのすべてを知った上で、ポテンティアに恋愛感情を抱くというのは、よほどの変人でなければ難しいと言えた。


 しかし……。しかしである。ポテンティアはこの時、よく考えるべきだった。


 ここはある意味で、夢の世界。ミレニアの深層意識までの距離が極めて近い、特別な世界なのである。


 そんな場所で、好意を持ったミレニアのことを試すような真似をすれば、どんなことが起こるのか……。


「……そう……そうなのね……。私、女の子でも好きになれちゃうんだ……」


『えっ?!ちょっ?!』


 元々、勘違いをしていたミレニアが、余計に勘違いをして、心を歪めて(?)しまうのである。なお、言うまでもない事だが、ミレニアは最初からそういった特殊な趣味趣向を持っていたわけではない。……はずだ。


『(こ、これ以上は拙いですね。余計なことは言わずに、ミレニアさんの意識を覚醒させなくては……)』


 ポテンティアは、再び普段の少年の姿へと戻ると、ここまでのやり取りをすべて無視して、ある方向を指差した。


『あ、あちらに行けば、この夢は覚めます。もう、ミレニアさんの覚醒を妨げる方はいませんので』


 その瞬間だった。ミレニアが目をカッと見開く。


「わ、私……もしかして、身体の中に、眠っている力を持っていたりするの?!」


『えっ?ど、どうしてそう思われたのですか?』


「だって、さっきポテくんが、あっちに行けば"覚醒"する、って言ってたでしょ?それに、おとぎ話の中でも、よく、隠された能力が"覚醒"するって話を見たことがあるし……」


『(……あー、これは、やってしまいましたね……)』


 ポテンティアは、また後悔した。彼は、ミレニアの中で、とある病気が発症したことに気付いてしまったのだ。


 即ち——、


「私ね……実は、ポテくんの強さに付いていけるか心配だったの。だから、力を手に入れて、ポテくんの横に並べるよう頑張る!見ていて?私……覚醒してくる!」


——中二病。


 嬉しそうに駆けていくミレニアの背中に向かって、ポテンティアはこれ以上下手な事は言えず……。彼は、ただミレニアの背中を見送る事しか出来なかったようだ。


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