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14.20-44 損失44

 ミネルバの言葉を信じるのであれば、今後彼女は、ミレニアのことを操らないはずだった。ゆえに、ワルツは、もうミレニアの意識を刈り取る必要はない、と考えて、ミレニアの側から離れようとする。


 しかし、その直前。ワルツは、とある可能性に気付いた。


「あっ……目覚めたときに暴走しないか、確認するのを忘れてた……」


 ミレニアが操られなくなったっということは、彼女が暴走する可能性もなくなるのだろう——とワルツは思い込んでいた。しかし、よく考えてみると、ミレニアは、操られる以外にも、意識が無い状態で暴走することがあったのである。


 聞きそびれたことをもう一回、ミネルバに問いかけようか、とワルツがポテンティアのことを呼び寄せようとした時。


   ガラガラガラ……


 誰かが医務室へとやって来る。パーティションに隠れていて、誰がやってきたのかは直接伺えなかったが、その足音を聞いて、ワルツはすぐに人物を特定する。


「マグネア?」


「えぇ……孫の顔を見に来ました。しかし……こんな壁、ありましたかね?」


「あ、これ?さっき作ったやつよ?」


「ええと……まぁ、いいです。ワルツさん。この度は、我が家の醜態に巻き込んでしまい、大変申し訳ございませんでした」


 ワルツたちの所にやってきたのは、孫娘であるミレニアの様子を見に来たマグネアだった。彼女は本当に申し訳ないと思っているらしく、ワルツに向かって深く頭を下げた。


 対するワルツは、ミネルバに回答した際と同様に、素っ気ない態度で返答する。


「いや、別に構わないけれど?」


「許していただけるのですか?」


「いや、ほんと、気にしてないし……」


 実際、ワルツはあまり気にしていなかった。気にしていたことは、苦手なミネルバと顔を合わせる事くらいのものだ。


 それからワルツは、話題を変えて問いかける。彼女にとって、この場にマグネアがやってきたことは、好都合だった。なにしろ、ミネルバに対して直接、疑問を確認しなくても済むからだ。


「ところでさ、今のミレニアのことを聞きたいのだけれど……彼女の事、放置しておいても大丈夫?目を覚ました瞬間に暴走するんじゃないかと思って、目を覚ましそうになったら意識を刈り取っていたのよ。つい数分前もそう。目が覚めそうだったから、こう、ビリッと電流を流してさ?」


「…………」


「……?何かあった?マグネア。急に黙り込んで……」


「……いえ、ちょっと不憫に思っただけです」


「?」


「うちの娘は、もうこの子を操らないと言っていましたか?」


「え?えぇ……。一応ね」


 そう相づちを打つワルツは、アーティファクトについて言及しなかった。マグネアもまたミネルバと同じカインベルク家。アーティファクトのような魔力の塊を渡してしまえば、研究者魂(?)に火が付くかもしれないと心配したのだ。……アーティファクトをマグネアに渡せば、彼女もミネルバと同様に、倫理無視の研究を始めるのではないか、と。尤も、ポテンティアがアーティファクトの存在をマグネアにも明かしているので、ワルツが隠してもあまり意味は無いのだが。


 そのマグネアからは、ワルツに対してアーティファクトの情報を出すよう要求するようなことはなかった。今回の事件で反省しているのか、あるいは娘のミネルバとは異なり、大きな魔力を必要としないアプローチで死霊術の研究を進めているのか……。いずれにしても、今のマグネアには、アーティファクトの話題に触れるつもりはなかったようだ。


「でしたら、この子が暴走する可能性は低いと思います」


「でも、操られるのと暴走するのって、別の現象なんじゃないの?」


「確かに別のことですが、この子が暴走するのは、この子を操る魔道具が起動しているからです。その魔道具を操作できるのはミネルバだけ。うちの娘が魔道具を操作しないと言うのでしたら、暴走することも無いはずです」


「口約束だったけど大丈夫かしら?アーt……研究が上手く行かなかったら、またミレニアのことを操りそうな口調だったけど……」


「……自信は無い、と?」


「ミネルバがどれだけの魔力量を必要としているのか分からないからね。ゲームの世界と違って、MPとか魔力量を数値化できるわけでもないし」


「えっ?ゲーム?MP?」


「いえ、こっちの話よ。せめて、ミレニアを操る魔道具を破壊できれば良いのだけれど……」


 と、ワルツが零した直後の事だ。


『ワルツ様。よろしいでしょうか?その魔道具の件でご報告したいことがあります』


 ポテンティアの分体が部屋のどこかに現れる。彼の姿は無い。声の方向から察するに、戸棚の裏辺りだろうか。


「貴方……まともに姿を見せる事って、殆ど無いわね」


『えっ?』


「いえ、何でもないわ?で、報告って何?」


『ミレニアさんの事を操作していたと思しき魔道具ですが、先ほどミネルバ先生が、自ら破壊されました』


「ふーん?」

「あの娘が?自分で?」


『はい。多分、僕の存在に気付いていたのでしょう。壁と同化していた僕を一瞥した後で、それはもう嬉しそうに、魔道具を壊していました』


「そう……」


 ワルツがホッと息を吐くのと同時に、マグネアも胸をなで下ろす。


「……それは良かったです。あの娘にとっても、娘を利用するというのは、心が痛む事だったのかも知れません。娘の事も理解出来ない私も、母親として失格……なのでしょうね……」


 マグネアはふぅっと深く溜息を吐いて、眠るミレニアの顔を見つめた。孫の姿だけでなく、娘の姿、あるいは自分の姿をミレニアに重ねて見ていたのかも知れない。


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