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14.20-41 損失41

「あなたがワルツね?」


 予期しないミネルバの登場に、ワルツの頭の中は真っ白になる。苦手な人物を前にして、言葉が見つからなかった——というわけではない。むしろ、その逆。


「(……意味なかったじゃん。私のパーティション作り……)」


 わざわざ転移魔法陣を改造しまで作成したパーティションが、まったく意味を成さなかった……。そのショックが、ワルツから言葉を奪ったのだ。


 結果、ワルツが無言で頭を抱えると、彼女が話を聞いてくれないと思ったのか、ミネルバは——、


「ねぇ、あなたがワルツで良いんでしょ?だったら、頼みがあるんだけど——」


——と口にしつつ、ワルツへと近付いていく。


 しかし、ミネルバの歩みは、ワルツとあと3mほどの距離まで近付いたところで、スゥッ、と遅くなって止まった。何か、やわらかい壁にぶつかったような、そんな止まり方だった。


「ん?なにこれ……」


 自分を包み込む不可視のやわらかい壁のようなものに興味をもったのか、ミネルバは前や横に向かって手を伸ばす。


 ちなみに、その壁は、ワルツが作り出した重力障壁で、必要以上にミネルバが近づけないようにするため、展開していたものである。不用意に近付こうとすれば斥力が働き、ミネルバのことを押し返す、というシンプルな障壁だ。


 そんな障壁に押し返された人物が、研究者ではない一般的な人物だったなら、その人物は障壁に体当たりなどしていたことだろう。あるいは、未知の力を行使するワルツに対して、ある種の恐れを抱いたかも知れない。


 しかし、そこにいた人物はミネルバ。研究者である。それもかなりの変人だった。


 彼女は体験したことの無い未知の感覚に——、


「ふふーん?」キラキラ


——目を輝かせながら、何やら分析を初めてしまう。目の前にいるワルツやミレニアなどはお構いなしだ。


「魔力は一切感じない……どういう原理?魔力が外部に流れ出さないように循環させているのか、隠蔽しているのか……。変換効率100%ってことはあり得ないし……」


 なにやらブツブツとつぶやきながら、自分の世界に入り込んでしまったミネルバを前に、ワルツはようやく顔を上げた。ショックから立ち直ったらしい。


 そんな彼女がミネルバに向ける視線はジト目。ワルツから見ても、ミネルバは怪しい研究者にしか見えなかったらしい。……同じ穴の狢と言ってはいけない。一応、彼女にも、小指の爪先ほどのプライドはあるからだ。


 とはいえ、第三者——例えば、ミネルバと一緒に医務室へとやってきた学院長のマグネアからすれば、ワルツもミネルバもそう大差があるようには見えなかったことだろう。ワルツはワルツで、虚空に向かって、ブツブツと呟き始めたからだ。


「ちょっとポテンティア?これ、どういうこと?」


 ワルツが問いかけると、電波経由で、ポテンティアの声が聞こえてくる。


『はて?ワルツ様の重力障壁に、ミネルバ先生が興味を持たれただけでは?』


「いや、そっちじゃなくて、なんでここにミネルバ……先生がいるのか、って話。説得(物理)しに行ったんじゃないの?」


『えぇ、()()してきましたよ?ミレニアさんの身体を魔力タンク代わりに使うのではなく、彼女以上に魔力を溜められるアーティファクトを使えば、ミレニアさんを利用する必要が無くなるのではないか、と提案しました。それを聞いたミネルバ先生が、すぐにアーティファクトがどういったものなのか見てみたいと仰いまして……』


「あ、うん……(説得の意味が違ったのね……)」


 ワルツは深く溜息を吐いた。自分の考えが粗暴すぎたことに気付き、頭が重くて仕方がなかったらしい。


 それから彼女は、いまだ重力障壁と戯れている様子のミネルバに対して話しかける。


「えっと……ミネルバ……先生?」


 一応、まともな会話をするのは今回が初めてだったためか、ワルツはミネルバの名前に敬称を付けて呼んだ。


 対するミネルバは、呼びかけられてようやく我に返ったようだが、重力障壁の調査自体は止めず……。障壁を分析する手は止めずに、ワルツに対して意識を向けた。


「やっぱり、あなたがワルツね?あの黒い子(ポテンティア)たちから、魔力を大量に溜められる魔石のようなものをあなたが持っていると聞いたのだけど、ちょっと貸してもらえないかしら?」


「……アーティファクトを使って、何をするつもりなのか、説明してもらえるなら検討します」


 この時のワルツは、敵意とも言える雰囲気を言葉に載せていた。彼女にとって、ミレニアを操るミネルバという人物は、敵と言っても過言ではない人物だからだ。もし、敵対心を見せるというのなら、即時、断ってやる……。


 ……と考えていたワルツだったものの、ミネルバは素直だった。いや、むしろ、自分の研究を語りたくて仕方がない人物だったようである。


「ふふ……私が何をしようとしているのか、興味を持ったのね?えぇ、いいわ。話してあげる。私の崇高な研究の目的は——」


「(あー……この感じ、話が長くなるタイプのやつだわ……)」


「死んだ人間を生き返すことよ!」ドンッ


「…………えっ?」


 直前までミネルバのことを煙たがっていたワルツだったが、彼女のその一言を聞いて、180度、考えを変えたワルツにとっても、人を生き返させるという研究は、強く興味が惹かれることだったのだ。



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