14.20-40 損失40
またサブタイトルのナンバリングを間違えたゆえ、修正したのじゃ。
ワルツはミレニアのことを医務室へと運んでいた。ミレニアが目を覚ましたとき、すぐに彼女の意識を刈り取らなければ、再び操られたり、暴走したりしてしまう恐れがあるからだ。ミレニアに付き添い、彼女の神経に電流を流し、再び眠りにつかせる……。そんなことを繰り返していたのである。
ミレニアの意識は、外部から操られていたこともあってか、意識を失ったと、異常とも言える早さで、何度も覚醒しようとしていた。その覚醒の頻度に、ワルツは最初の内、舌を巻いていたが、覚醒の度に意識を刈り取れば良いことに気付いてからは、普段通りの落ち着きを取り戻していたようだ。
「(ポテンティア……まだかしら?ミレニアの覚醒が止まってから、それなりに時間が経っているのだけれど……)」
医務室に来てからおよそ15分。今では、頻繁にミレニアが覚醒するという現象も止まり、彼女は今、ただ眠っているだけの状態になっていた。外部からの操作が無くなったのは確か。ワルツの知らないところで進展があったらしい。
「(どんなやり取りをしたのかしら?やっぱり……ミネルバと戦闘になった、とか?あり得ないとは言えないわね……。さっきのやり取りを聞いている感じだと、なんだか強情っぽい人だったみたいだし……)」
ミレニアが眠るベッドの横で、ワルツは丸椅子に座りながら、ミネルバという人物について考えていた。
結論から言って、ワルツはミネルバのことが苦手だった。自分の事しか考えていなさそうな人物とまともにコミュニケーションが出来るとは思えなかったのだ。可能なら、ポテンティアとマグネアだけで対処して欲しい……。そんなことを考えながら、ワルツは丸椅子の上で、暇そうに足をブラブラと揺らした。
ちなみに、今日の彼女は、先日自作したばかりの試作機動装甲を身につけてはいない。ゆえに、今の彼女の見た目は、幼い少女のような姿だ。学院内に機動装甲を持ち込むには、もっと小型化をするか、あるいは壁を通過出来る何か特殊な機能を追加しなければならず……。すぐには学院内で運用するのは難しかったらしい。
「(ん?でも、ちょっと待ってよ?流石にミネルバのことを殺害するなんてことは無いはずだから、多分、説得(物理)するのよね?ってことは、怪我を負わせるって事?その後、彼女の事を、どこに寝かせるのかしら?マグネアの屋敷の中ならいいけれど……まさか、こっちに来るなんて事は無いわよね……?)」
最悪、ミネルバが医務室に来るのではないか……。そんな事を考えたワルツは、無意識のうちにお腹をさすった。胃は存在しないので痛むことは無いが、痛むような気がしたらしい。小心者の彼女らしい反応だと言えるだろう。
「(確率は高いわね……。何か対策を考えた方が良いかしら?あぁ、そうよ。パーティションを作れば良いのよ!)」
医務室には、8床ほどのベッドが置かれていた。カーテンなどの仕切りは無い。ゆえに、ミネルバが運ばれてくるようなことがあれば、彼女とワルツが顔を合わせるのは明らか。そのためワルツは、医務室の中にパーティションを設置することにしたようである。第三者から見れば、まったくもって無駄な行動に見えるかも知れないが、コミュニケーションに難のある彼女にとっては、被鋤雲に重要なことなのだ。
「(材料はどうしよう?まさか、医務室の床を剥がすわけにもいかないし……)」
パーティションを作るにしても、医務室の中には材料になるものが無かった。そして、ワルツはミレニアの側を離れられない状態。ポテンティアの分体もその場にはおらず、ルシアたちは教室で授業中……。ワルツの代わりに材料を確保してくれる人物は近くにいなかった。
かと言って、無線機を使い、誰かを呼び寄せるというのもどうかと思ったのか……。ワルツは手持ちの道具を使って、どうにかパーティションを作ろうと考える。
「……あ、そうよ!」ぴこーん
ワルツは思い付いた。自分には転移魔法陣があるではないか、と。
幸い、医務室には窓が付いていて、外の景色を見ることが出来た。学院の外には、大量の巨木が生えており、その一部を転移魔法で切り取れば、パーティションを作るのも容易なはずだ。
「(でも、乾燥はどうしましょ?……あぁ、水分子だけを転移させないように調整すれば良いのね。ってことは、これをこうして……)」
ワルツは即席で木材加工用の転移魔法陣を完成させる。木材を材料として使う場合、乾燥は必須。しかし、ただ転移させただけでは乾燥させることができないので、選択的に木材を転移させられるようにしたらしい。
結果として出来上がったのは、大木の伐採から、乾燥、製材までを全自動で行う転移魔法陣だった。転移魔法陣の機能が優秀すぎると言うべきか、それとも単に才能の無駄遣いと言うべきか……。
ワルツはそんな転移魔法陣を起動した。その魔力源は、言わずもがなアーティファクト。彼女はアーティファクトをいくつか持ち歩いていて、頻繁に使用する転移魔法陣の魔力源としていたのだ。
ブゥン……
「うん、良い感じね」
転移魔法陣(?)を起動した瞬間——、
ドゴォォォォォン……
——と、どこか遠くで大木が倒れる。そしてワルツの目の前に、パーティション作成用の板が数十枚現れた。
「あとは、これをこうして……っと!」
ワルツは木材に切り込みを入れて、釘などの固定具無しでパーティションを組み上げる。作業はほぼ一瞬だ。ワルツの指が木材に触れるだけで、木材がキレイにカットされていくからだ。
そして組み上げは重力制御システムを使って行い——、
「うん!完成!」
——ベッドを仕切るパーティションが完成した。
そんな時のこと。
ガラガラガラ……
誰かが医務室へとやって来る。パーティションの向こう側なので、誰が来たのかは分からない。
「(ふぅ……。ギリギリだったわね)」
ワルツは再び丸椅子に腰を下ろしながら、胸をなで下ろす。もう十数秒遅ければ、医務室の改造を誰かに見られていた事だろう。
「(でも、誰が来たのかしら?怪我人?大変ねぇ……)」
授業の最中に足首でも挫いたのだろうか……。ワルツがそんな事を考えていると、医務室に入ってきた足音は、段々とワルツたちの所まで近付いてきて……。そしてパーティションの隙間から顔を見せたのは——、
「……え゛っ……」
「あなたがワルツね?」
——怪我など一つも負っていない、ピンピンとした様子のミネルバだった。
この物語らしい展開……かの?




