6後-04 再出発2
後で、少しだけ修正予定なのじゃ。
「お姉さまが粗相をしたと聞いて・・・」
「・・・そんな話してないわよ」
「気配を感じたのですよ。・・・そう、犯罪の気配をね」
「いや、そんな傍迷惑な探偵みたいなの要らないから。っていうか、犯罪じゃないし・・・」
ビクセンの王城で、テーブルマナーが分からなかったために凹んでいたことを悟られまいと、猛抗議をするワルツ。
「そうですか。お姉さまが素直に話さないのなら・・・仕方がありませんね。ユキ様を拷問しましょう」
『は?!』
「実はここに怪しげなスイッチがございまして・・・」
そう言いながら、何やら毒々しい赤色のスイッチをポケットから取り出すテンポ。
スイッチの部分に、カタリナのサインで『危い』と書いてあるのは、やはりスイッチが小さかったからだろうか・・・。
「コレを押すと、ユキ様の全身に・・・」
「・・・ま、まさかっ?!」
手術の際、身体を襲った激痛のことを思い出すユキ。
「・・・毛が生えるのです」
「・・・なんか・・・地味な拷問ですね・・・」
「・・・どんな拷問よ・・・それ・・・」
どちらかと言うと、毛深い雪女を作り出すことで、周りの者達に憤りを感じさせる類の拷問だろう。
「試しに押してみます?」
「やめていただけると助かります」
「そうですか・・・」
そう言って残念そうにスイッチをポケットにしまうテンポ。
それでは、拷問の意味が無いのだが・・・まぁ、元々深く追求する気は無いのだろう。
「で、結局、何しに来たのよ・・・」
「おや。夕食を摂りに来てはダメでしたか?」
「いつもは、カタリナと一緒に食べてるのに?」
そんなワルツの問いかけに、テンポは溜息をついてから言った。
「分かってないですね、お姉さま。皆で食べる食事ほど美味しいものは無い、と、よく言うではないですか?」
「下位レベルのボッチが多用していそうね」
「というわけで、カタリナが3日間に及ぶ徹夜で負ったダメージを回復すべく現在睡眠中なので、代わりに言伝を持って参りました」
「全然、食事と関係無いし・・・。っていうか、カタリナが寝てるから、独りで食事をするのが寂しかっただけじゃない・・・」
ワルツのツッコミを他所に、テンポは席につくと、何の気なしにワルツの皿からデザートを奪い取りながら言った。
「・・・相手が逃走する際の転移魔法を止める方法は、残念ながら無いようです」
「・・・」
そんなテンポの発言と行動に眼を細めるワルツ。
すると今度はユキが口を開く。
「・・・確かに、カペラが移動に使った魔法は転移魔法ではないので、転移防止結界や都市結界では防ぐことは出来ないでしょね」
「転移魔法じゃ・・・ない?じゃあ、空間制御魔法ってやつ?空間を捻じ曲げるような・・・」
「はい。カペラは空間制御魔法を使って、大河周辺の空間を捻じ曲げ、河渡しを営んでいました。空間に魔力的な穴を開けるような転移魔法と違って、離れた場所への距離を短くしてしまう空間制御魔法なら、魔法の使えない大河でも問題なく越えられるようです」
と、嘗て大河を超えた際のことを思い出しながら語るユキ。
移動するという意味では、転移魔法も空間制御魔法も似たような魔法だが、移動の原理が全く異なっていたのである。
算数や数学でよくある『同時に家を出ない兄弟』の問題で例えるなら・・・。
転移魔法の方は、『兄は朝7時に時速4kmで20km離れた学校に向かって出発し、弟はその1分後に、テレポートして学校へ行きました。さてこの時、弟は何時何分に学校に着くでしょうか』といった感じである。
一方、空間制御魔法の方は、『兄は朝7時に時速4kmで20km離れた学校に向かって出発し、弟はその1分後に、学校から徒歩0分にある別邸から出発しました。(以下同文?)』といったところだろう。
要するに、テレポートか、ショートカットか。
それだけの違いである。
・・・なお、兄が出てくる意味は無いが。
まぁ、それはさておき、話を戻そう。
「・・・転移魔法を防止するために作られた転移防止結界では、空間制御魔法に効果がない。そして、空間制御魔法を止める方法もない・・・。だから、カペラたちの逃走を阻止できない。そういうことです」
と、250年以上に渡って培ってきた知識を駆使して、テンポ(カタリナ)の言葉を補足するユキ。
「・・・じゃぁ、どうすればいいの?」
「そうですね・・・どうにかする方法が無いわけではないです」
しかし、ユキの表情は冴えなかった。
「空間制御魔法には物体を送った後もすぐに魔法が収束しない、という特徴があります。つまり・・・」
「・・・魔法が消える前に、カペラたちの後を追いかければ、なんとかなる・・・そういうわけね」
「はい。・・・ですが、その先でどうなるかは・・・」
もしかすると、移動した先で、銃弾の雨霰が待ち構えている・・・そんな可能性を否定出来ないのである。
初回でケリを付けられるなら、その可能性は小さいかもしれないが、それでも、彼の者の隠れ家など、敵のど真ん中に出てしまうことは間違いないだろう。
「なるほどね・・・。でも、今のユキなら大丈夫じゃない?・・・くっ・・・テンポ!諦めなさい!」
「えっ・・・」
最後に残ったデザートのヘルチェリーの一粒をかけて、テンポと取っ組み合いをするワルツの言葉に、ユキは色々な意味で戸惑いの表情を浮かべた。
「3日までのユキとは違うんだから。チャンスがあったら、今の自分を見せつけてやりなさ『あぁ?!』」
「はあ・・・」
最後のひと粒が乗った皿を狩人に片付けられて、項垂れるワルツとテンポ。
そして、そんな彼女たちに、どう反応していいのか分からない様子のユキ。
結局、どうやってカペラとロリコンを見つけるのか、という問題は解決しなかったが・・・転移魔法(?)への対処については、目処をつけることが出来た。
・・・そして夕食の後。
議長室前の薄暗い廊下までやってきたワルツは、一人悩んでいた。
(・・・菓子折りを用意しなくても良かったかしら・・・)
緊急事態だったためにボレアス土産も用意していなかったワルツ。
果たして、扉の向こうに居るだろうコルテックスは、そんな気の利かない彼女のことを、赦してくれるのだろうか・・・。
(っていうか、ユキの手術中は眼を瞑ってくれていたってことよね・・・・・・怖いわね・・・)
実は嫌がらせに、ユキの身体にいらない改造を施しているのではないか・・・。
そんな懸念を抱きながら、ワルツは議長室の扉を開いた・・・。
「コルテックス!ごめ・・・・・・え?」
『あ・・・』
・・・その瞬間、固まる空気。
キー・・・パタン・・・
ワルツは、何も言わずに扉を閉めた。
・・・議長室の中で一体何が起こっていたのか。
『姉貴!誤解だって!っていうか、ホントもう嫌・・・』
扉の向こう側で泣きべそをかくアトラス。
『ダメですよ〜、お姉さま。扉を開けるときは、ノックをしませんとね〜?』
と、異様な気配を漂わせたコルテックス。
どういうわけかこの二人が・・・
ガチャッ・・・
「・・・なんで、食べさせっこしてるのよ・・・」
まるで恋人がするように、『あ〜ん』というやつをやっていたのである。
具体的には、コルテックスが、アトラスに、である。
「いや、手が痛モガッ?!」
何かを言いかけていたアトラスに対して・・・
「良いではないですか〜。弟を可愛がる姉の気分を味わっていただけですよ〜?」
と言いながら、夕食の春巻きを口にねじ込むコルテックス。
「いや、肉体年齢を考えれば逆でしょ・・・」
ちなみに、正確な兄妹の順序は、アトラス>コルテックス>ストレラである。
まぁ、常日頃から、コルテックスが皆を尻にしいているが・・・。
すると、今度はコルテックスが
「あ〜」
・・・アトラスに対して、エサを待つひな鳥のように、口を開けて食事を要求した。
「おまっ・・・」
と文句を言いたそうな表情を見せつつも、仕方がなさそうに、フォークで春巻きを一口サイズに切ってからコルテックスの口の中に放り込むアトラス。
「あ〜ん」モグモグ
「マジで助けて・・・姉貴・・・」
「やっぱり、食べさせてもらう食事は一段とおいしいですね〜」
「・・・随分仲が良さそうね・・・」
「違っ・・・」
アトラスの様子を見る限りでは、どうやらコルテックスに強要されているようである。
・・・まぁ、その構図自体は、いつものことなので問題ないだろう。
「コルテックス。そのままでいいから、聞いてくれるかしら?」
再び、コルテックスがアトラスに食べさせる番になった頃、ワルツが徐ろに話を切り出した。
「なんですか〜?」
「コルテックスの鉱石ラジオ、捨てた・・・というか壊しちゃったの実は私だったのよ・・・。ごめん!」
と言って頭を下げるワルツ。
そんな彼女に対して、コルテックスは、笑みを浮かべながら答えた。
「そうですか〜。分かってましたよ〜?妾か水竜に聞いたんですね〜?でもできれば、その前に謝罪して欲しかったですね〜」
バキッ・・・
「ひぃ・・・?!」
持っていた箸をへし折ったコルテックスを前に、小さな悲鳴を上げるアトラス・・・。
「う・・・うん・・・ほんと、ごめん」
荒ぶるコルテックスに、ワルツも為す術が無かった・・・。
それからコルテックスは、新しい箸を用意しながら言った。
「では・・・一つお願いを聞いていただけますか〜?」
「えっ・・・」
「一つ、お願いを聞いていただけますか〜?3度目は無いですよ〜?」
「は、はい・・・」
暗黒微笑を浮かべながら繰り返すコルテックスに、思わず返事をしてしまったワルツ。
するとコルテックスは急に笑みを止めると・・・・・・眼を伏せてから、小さく呟いた。
「・・・このことを秘密にしておいてくれませんか〜?」
『・・・?!』
予想外の一言に、驚きの表情を隠せないワルツとアトラス。
「特にルシアちゃんに・・・ですね〜」
「貴女・・・」
「おいコルテックス・・・お前、マジか・・・」
そんな問いかけに、
「よく、分からないのですよ〜・・・」
コルテックスは溜息を吐くかのように、言葉を返した。
それから、何故そのようなことを口にしたのか、理由を話し始める。
「恐らくですが、ルシアちゃんはアトラスのことが好きなんだと思います」
「いや・・・確かに、あの態度を見てたらそうかもしれないって俺も分かってたけどな?だけど、俺にそんな気は無いし、それが心変わりすることがないっていうのも知ってるだろ?兄妹なんだから・・・」
「はい。それはよく分かっています。・・・ですが〜」
そしてコルテックスは、机に上にあったランタン型の魔道具に、どこか遠い視線を向けながら、ゆっくりと話し続けた。
「最初は、ルシアちゃんにアトラスのことを諦めて貰うという意味合いで、私がアトラスのことを好いているといった態度を取ってきました〜。でも、ルシアちゃん、全然諦めないんですよね〜。それで気付いたら、いつの間にかミイラ取りがミイラになっていたというか〜・・・」
『・・・』
「でも、こうして、本人の前で話しているということは、もしかしたら恋心・・・ではなくて、それこそ、弟(兄)を思う姉(妹)の気持ち・・・なのかもしれないですね〜」
『・・・』
そんな彼女の言葉に、難しい表情を浮かべながら聞き入るワルツとアトラス。
そしてワルツは、そのままの表情で頭を掻いた後、仕方ないといった様子で口を開いた。
「・・・ま、誰が誰と恋をするとか、別に自由だと思うわよ?特に、コルテックスの場合、(ニューロチップの頭脳なのに睡眠を取るとか)イレギュラーなことが多いしね。公序良俗の範囲なら、誰を好きになっても嫌いになっても良いんじゃない?」
「・・・そうですか〜。では、お姉さま公認で、アトラスとお付き合いできるということですね〜」
『ちょっ・・・』
「冗談ですよ〜?」
「冗談に聞こえねぇ・・・」
結局、姉に救われることのなかったアトラスは、一人、頭を抱えることになったのだった・・・。
・・・ところで。
「で、なんで、アトラスは、そんな包帯を手に巻いてるわけ?」
「これなぁ・・・」
そう言いながら、包帯にまかれた両手のひらを上に向けるアトラス。
「実はさ。シラヌイちゃんが延々と折り紙を要求してくるんだよ。それで、廃紙からひたすら正方形の紙を作ってたら、手が腱鞘炎になっちゃってさ・・・。何であいつ、腱鞘炎にならないんだろ・・・」
そのせいで手が痛くて、箸が持てず、代わりにフォークを持っていたのだろう。
コルテックスに食事を食べさせられていたのも、それが発端だったようだ。
「腱鞘炎って・・・カタリナに治してもらえばいいじゃない」
「いや、3日前から、みんなで手術室に引き籠もってたじゃん・・・」
「あ、そっか。じゃぁ、後で伝えとくわ」
「頼むぜ、姉貴」
軽い気持ちで、アトラスから言伝を受けたワルツ。
・・・果たして彼女は、アトラスの腱鞘炎のことを、忘れずにカタリナへと伝えられるのだろうか・・・。
ともあれ。
こうしてコルテックスに対する謝罪は、予期しない例外(?)が発生したものの、どうにか無事に終えることが出来たのである。
(っていうかシラヌイ、何してるのかしら・・・)
そしてワルツの足は、シラヌイのところへと向けられることになったのである。
時間が無いので手短に、なのじゃ。
コルが妾を呼ぶ時の呼び名が『妾』なのは、『もう一人の私』という意味に取ってもらえればよいのじゃ。
『テレサ』と呼び捨てにするのも良いかと思ったのじゃが・・・なんか違うような気がしたのじゃ。
同じように略して『テレ』っていうのも、なんか・・・のう?
さて、明日明後日と再び大移動があるから大変なのじゃ。
というわけでじゃ。
zzz・・・




