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14.20-31 損失31

『話はもう少し複雑なのですが——』


「どんな背景があるにしても、ようするにミレニアのことを止めれば良いのでしょ?」


『……はい。そういうことです』


 ミレニアの母親であるミネルバが、事件に関わっているかも知れないことを説明しようとしたポテンティアだったが、彼は一旦、説明を止めた。今、優先すべき事は、ミレニアの暴走を止める事。彼女が暴走すれば、周囲に被害が及ぶだけでなく、ミレニアが自らの魔力で自滅しないとも限らないからだ。


「で、この状況って、私が止めに入る必要あり?」


 直接、ワルツが介入せずとも、ポテンティア一人だけでミレニアのことを止められるのではないか……。ワルツはそんな副音声の疑問をポテンティアへと向けた。


 対するポテンティアは、その場に姿を見せないまま、声だけで苦々しい反応をする。


『僕の方でも色々と試しましたが、どんな方法を使っても、ミレニアさんに触れられないのです』


「触れられない?」


『彼女の身体を拘束しようとすると、身体の周りに魔法の障壁を展開するのです。それ自体は僕ら自身に影響はありませんが、ミレニアさんの身体が……』


「怪我をする、と。トンデモない暴走ね。でも、それって、私が止めても同じなんじゃ……」


『どうか、お願いします』


「……仕方ないわね」


 あまり気が進まなそうな様子で相づちを打つワルツだったものの、彼女は既に行動を始めていた。暴走するミレニアから無差別に放たれていた魔法の数々を、窓の外に広がる空へと向かって飛んでいくよう、射線をねじ曲げていたのだ。


 その上で、ミレニアの身体を重力の力場で捕まえる


「まぁ、こんなものでしょ」


『さすがワルツ様です』


 重力制御システムに対抗手段を持たないミレニアのことを拘束するなど、造作も無いことだった。ミレニアは、巨大な手に掴まれたかのようにその場から動けなくなり、棒立ちの状態になる。


 しかし、そこでで、ワルツたちにとって予想外の出来事が生じる。


   ゴゴゴゴゴ……


 ミレニアの周囲にあった塵や瓦礫などが、重力に逆らって宙に浮き始めたのだ。


「ちょっ……重力制御魔法を使えるの?!」


『いえ、そのような情報はありません!』


「だったら、何が——」


 ミレニアの身体に起こっているというのか……。ワルツがそう口にしようとした瞬間。


   ドゴォォォォ!!


 ミレニアから爆風のような何かが放たれ、彼女はワルツの重力制御システムによる拘束に抗った。


「やっぱ、重力制御魔法を使えるじゃん!」


 ワルツは慌てて周囲の被害を抑えようとする。ミレニアから放たれたのは、ワルツの束縛に抗えるほどの大きな力。それが校舎に与える影響は凄まじく——、


   メキメキメキ……

   バキバキバキ……


——と、壁や床、柱などを、粉砕していった。


「ポテンティア!このままだと、校舎が倒壊するわ!補修を頼むわよ!」


『ワルツ様は?!』


「そんなの、決まってるじゃない!」


 ワルツは重力制御システムの出力を上げた。最早、対人戦闘に使用できるレベルの出力ではない。


 結果、ミレニアは、校舎の外へと吹き飛ばされることになる。その際、彼女がどこにもぶつからずに、キレイに外へと吹き飛んだのは、ワルツによる配慮があったためか。


  ◇


 一方、教室では——、


   ドゴォォォォン!!


「な、何だ?!」

「今のは大きかったぞ?!」

「また食堂で魔導コンロが爆発したのか?!」

「いや、それは冗談だってワルツ先生が……」

「それにしては、すごい魔力を感じるぞ?」

「誰か、魔導コンロに、ドラゴンの魔石でも使ったんじゃないか?」


——音と魔力を無視できなかった生徒たちが、混乱状態に陥っていたようだ。とはいえ、それほど大きく混乱しているわけではなく、冗談が言えるほどには落ち着いていたようだ。


 そんな生徒たちに、教室を預かっているユリアが言う。


「みなさん、落ち着いて下さい。この教室にいる限り、皆さんの身に危険が及ぶことはありませんので」


 その一言を聞いた生徒たちは、皆一斉にルシアたちの方を向いた。どこかで起こっている魔力の爆発に比べれば——、


「……うん?」ゴゴゴゴゴ……

「……やっぱり、尻尾2本は拙かったかのう……」


——ルシアから放出されていた魔力の方が、圧倒的に大きかったからだ。


「これが安心感か……」

「いや、この大きさの魔力に安心できたら、もう人生、終わりだと思う……」

「あぁ……そうだな……」


 特別教室の生徒たちは、皆、遠い視線を窓の外へと向けた。


 その直後の事だ。窓の外を、凄まじい勢いで、ミレニアとワルツが飛んでいく姿を目撃したのは。


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