14.20-27 損失27
タンク内には依然としてミレニアが浮かんでいるようにしか見えなかった。しかしそれは偽りのミレニアの姿。ミネルバが後ろを振り向いている隙に、ポテンティアたちが入れ替わったのである。本物はポテンティアたちが救出しており、タンクの後ろ側の壁にも偽物の壁を作り出すことで、その壁と本物の壁の隙間に、本物のミレニアを隠していたようである。
ミネルバは、そのことに気づけなかった。部屋の入り口で壁になりすました大量のネズミの亡霊たちに、気を引かれていたからだ。得体の知れないネズミの亡霊たちが、なぜか部屋を包み込むように壁を形成していたのだから、事情を知らないミネルバにとっては困惑しない方が難しい状況だったのだ。
しかし、問題はここから。ミネルバは娘のミレニアに対して何をしていたのか……。意識の無いミレニアを、ミネルバにバレないよう運びながら、ポテンティアたちは協議する。
『(バイタルに異常は無さそうですが、あの魔道具の効果が予想出来ません)』
『(誰か詳しい方に、魔道具を見て貰えば、分析できるのでは?)』
『(いえ、魔道回路が表に見えているとも限りませんし、回路がミネルバ先生のオリジナルだった場合、すぐにリバースエンジニアリングをするのは難しいはずです。例えコルテックス様でもある程度時間は掛かってしまうでしょう)』
『(……今、深く考えるべきではなさそうです。時間が勿体ないですから)』
とりあえず、ミレニアを健康なまま救い出すことが出来たのだから、もしこれから先で彼女の健康に問題が出るというのなら、それはその時に対応しよう……。そう判断したポテンティアたちは、深く考えるのを止めて、救出したミレニアと、彼女よりも先に壁の後ろに隠したマグネアを、建物の外に連れ出そうと作戦を進める。
もちろん、ミネルバにバレるわけにはいかない。ミネルバにバレた場合、屋敷内の警備が厳重になるなど、強硬手段を取られる可能性が否定できないからだ。その場合、ポテンティアも、強硬手段に出ざるを得なくなるので、悲惨な結末に繋がることだろう。
『(各位。撤収します。ミネルバ先生に対応している"僕ら"は、そのまま現状を維持。他の"僕ら"は、ミレニアさんとマグネア先生を、学院長室へ運んで下さい)』
『『『『(了解)』』』』
そしてポテンティアの作戦の残る半分が始まる。一見してズルズルと引きずられるようにして、ミレニアとマグネアが地下室の外へと運ばれていく。
しかし、そこには早速関門があり、メイドゴーレムが2体立ち塞がっていた。人造のゴーレムとは言え、家人が意識の無い状態で床に伏せっていれば、緊急事態として扱われる可能性は非常に高かった。
ゆえにポテンティアの分体たちは、メイドゴーレム2体の関節に取り憑き、彼女たちをクルリと回して、壁の方へと振り向かせる。
『『制御不能』』
『(そりゃ制御不能でしょうね)』
『(帰りはメイドたちにバレても問題はありません。多少力技になっても構いませんから、ミレニアさんとマグネア先生を運んでしまいましょう)』
『(しかし、問題は調度品ですね……)』
メイドゴーレムは、ポテンティアたちが関節部に取り憑くことで、無力化することが可能だった。しかし、ゴーレム化された絨毯などの家具については、ポテンティアたちだけでは対処することが出来ず……。彼らは、地下から地上へと繋がる階段を登りながら対応を考えた。
そして——、
『(やっぱ、アレしかありませんね)』
『(力技過ぎて、あまりスマートとは言えませんが……直接、対応をするよりは遙かにマシな方法でしょう)』
『(迷っている時間はありません。やりましょう)』
——ポテンティアたちは、調度品ゴーレムを避けつつ、非破壊を貫くための、とある対応手段を選んだのである。
◇
一方、ミネルバとしては、気が気ではなかった。魔法が一切効かない謎のネズミの亡霊たちが、周囲を取り囲んでいるのである。
彼女からすれば、正体の分からない謎の集団に理由も分からないまま囲まれている、という構図。時間が経つにつれて、打つ手が無い事に気付き始めたためか、ミネルバは段々と焦り始めていた。
「小賢しい……。一体何が目的なの?!」
ミネルバは問いかけた。謎の物質を使い、明確な意思を持って、壁を模擬していたネズミの亡霊たちと思しき者たち……。彼らなら何か返答できるのではないかと思った——かどうかは不明だが、問いかけざるを得なかったようである。
対するポテンティアたちは考えたようだ。……いまここでミネルバと会話をして、ミレニアたちに何をしたのか、聞き出すのもアリなのではないか、と。
そして悩んだ末、ポテンティアの分体の一人が口を開く。
投稿時刻が時間切れ、なのじゃ。
本来は、もう少し考えてから投稿するようにした方がいいのじゃろうのう……。




