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6後-03 再出発1

その日の夜の王城で。


突然だが・・・


ゴゴゴゴゴ・・・


・・・食堂が修羅場である。


「む・・・」


ムッとした表情のテレサ。


「・・・!」


ムッとした表情のシラヌイ。


「ぬ・・・」


そして、ムッとした表情のユキ・・・。

どういうわけか、この3人が夕食の席に着いた瞬間から、今にも爆発しそうな険悪な空気が漂い始めたのである。


なお、この食堂には他に、ワルツ、狩人(料理人)、水竜がいて、食事をしながらそんな光景を眺めていた。


「・・・何をしているのですかな?」


「さぁ?遊んでて喧嘩でもしたんじゃないか?・・・ところで、彼女は誰だ?」


そんな狩人の疑問を誤魔化すようにして、ワルツが声を上げる。


「あ、コレ美味しいですね狩人さん」


「そうだろ?ワルツの好物を作ってみたんだ」


(なんでかしら・・・狩人さんから、何かおばあちゃんの雰囲気が・・・)


最早、挨拶か定型文と化している『ワルツの好物』発言を口にする狩人に、苦笑を浮かべるワルツ。


・・・そんな時、事態は動いた。


「・・・・・・主は何者じゃ?妾の城で何をしておる・・・」


ゴゴゴゴゴ・・・


魔王のごとき気配を放ちながら、テレサが最初に口を開く。


「・・・・・・ライバルはもう要らないのですよ?そう、ここに貴女の席は無いのです」


ゴゴゴゴゴ・・・


鬼神にも近いオーラを纏いながら、シラヌイが言葉を続けた。


そんな2人に対して、


「・・・・・・弱肉強食。弱き者は淘汰され、強き者だけが生き残る・・・それが自然の摂理です。・・・小さき者どもよ・・・」


ゴゴゴゴゴ・・・


名実ともに魔王のユキは凄んだ。


そんな彼女に、


「ぐ、ぐぬぬ・・・し、身長・・・」

「か、勝てない・・・」


142cm(テレサ)138cm(シラヌイ)が苦しげな声を上げる。

どうやら、気配の勝負でも胸の大きさの勝負でもないらしい。


(どーせ、またしょーもないことなんでしょ?きっと・・・)


そんなことを考えながら、3人の中で、唯一勝ち誇ったような表情を浮かべているユキに視線を向けるワルツ。

そこで彼女は、とあることを思い出した。


「ユキ?そういえば、手術室で、コルテックスに何か吹きこまれていたわよね?」


手術室でワルツに振られて(?)凹んでいたユキは、コルテックスに何かを吹きこまれて復活したのである。

恐らく、今回の勝負とも何か関係があるのだろう。


そんなワルツの問いかけに、ユキは、にぱぁっ、と明るい笑みを見せながら振り向いた。


「ライバルを全員倒すと、ワルツ様の寵愛(ちょうあい)が得られるという話を聞きました!」


そんな彼女の言葉にテレサやシラヌイも頷いているところを見ると、どうやら共通認識らしい。


「なんかどっかで聞いたことのある話ね。・・・はっきり言っておくけど、そんなルールも特典も無いわよ?」


『えっ・・・』


ワルツの言葉に、まるで、お年玉の袋の中に500円の図書券しか入っていない事に気づいた子どものような表情を浮かべる3人。


「・・・なんでみんな、悲しそうな表情を浮かべるのよ・・・。っていうか、なんてこと広めるのよコルテックス・・・」


すると、隣にいた水竜が、難しそうな顔をしながら説明を始めた。


「あれは3日前の朝のことでしたかの・・・。コル様が、突然奇声を上げてご乱心されたのです・・・」


「ちょっ・・・」


「確か・・・鉱石ラジオが云々と叫んだ後に、『このうらみはらさでおくべきか〜』と笑顔で言っておりましたぞ?あんな恐ろしい表情がこの世にあるとは思いもしませんでしたな・・・。その後でコル様は、恐ろしい笑顔のまま、テレサ様に(くだん)の話を伝えておりました」


「・・・うん。後で謝っておくわ・・・」


どうやらコルテックスに、鉱石ラジオを(事故で)捨ててしまったことがバレたらしい。


(・・・でも何でバレたのかしら・・・?)


デフテリー・ビクセンの迷宮の核で、ワルツはユリアに対してこの件を(ほの)めかすことはあったが、それ以外には誰にも話していなかった。

なので、ユリアがバラした、と考えられるが・・・しかし、ワルツにとって不利なことを彼女が漏らすことは、たとえ拷問されたとしても、まずありえないだろう。


あるとすれば、王城のメイドに対して一人ひとり聞き取り調査を行ったか、あるいは・・・


(・・・もしかして証拠を押さえられた?!)


ということになるだろうか。

・・・・・・まぁ、そもそも、コルテックスの居ない無人の議長室に入るメイドなど、ワルツ以外に誰も居ないのだが・・・。


ワルツがコルテックスにどう釈明するか頭を悩ませている間も、情報提供をした水竜は、争いを続けるテレサたちと距離を取って、大人しく食事を続けていた。

そんな彼女にワルツは問いかける。


「・・・貴女は勝負に加わらなくて良いのかしら?まぁ、無意味で不毛な勝負だけど」


「はい。既に主様より十分すぎるほどの寵愛を受けております故・・・」


『?!』


満足げに口にする水竜に対して、今度は泣きそうな表情を浮かべる3人。


「ふーん。いい心がけね、水竜」


「はっ、ありがたきお言葉・・・」


ワルツと水竜がそんなやり取りをしていると、もう一人の例外(狩人)も、3人に向かって口を開いた。


「・・・お前たち、知ってるか?本当の愛とか友情っていうのは、力じゃ得られないんだぞ?」


『・・・』


遂には、眼から徐々に輝きが失われていく3人・・・。


「いいことを言いますね・・・狩人さん・・・」


ワルツはそんな狩人の言葉に尊敬の念を抱く・・・。

・・・ただし、最後の一言がなければ、だが。


「・・・胃袋を掴む。これが本当の勝利条件だ」


と、ドヤ顔で告げる狩人。


『!』


「何でそこで、水竜も反応するのよ・・・」


・・・こうして仲間内で、料理ブームが始まったのである・・・。




「・・・で、結局誰なのじゃ?」


「え?魔王よ?」


『・・・』


ぽかーん、といった表情で固まる一同。


「あの・・・ワルツ様?ここは私から・・・」


ワルツの紹介があまりに適当すぎたためか、ユキが改めて自己紹介をすることになった。


「・・・皆様、お久しぶりです。ユキです」


『・・・誰?』


それでも、やはり説明が短すぎて、誰も姿の変わったユキに気づかないようだ。

しかたがないので、ワルツが追加で補足する。


「私が帰ってきてから、ずっと工房に引き籠もってたじゃない?あれ、ユキを作り直してたのよ」


「・・・つまり、ユキさんは、ワルツ様の作った新しいホムンクルスですね?」


とシラヌイ。

そもそも、ユキと殆ど接点の無かったシラヌイは、ユキという名を聞いても、彼女のことを思い出せなかったらしい。


「ちょっと違うわね。ユキは生きて()()人間よ?(あれ?生体反応が無かったんだから、元々死んでたのかしら?)」


「はあ・・・」


すると、今度は別の場所から声が上がる。


「ユキ・・・ユキ・・・そうじゃ!ボレアスからの使者じゃったかのう?」


「そういえば、そんな名前の御仁がおりましたな」


テレサと水竜は気付いたようだ。

狩人も、あぁ、と相槌を打っている所を見ると、どうやら思い出したようである。


「実は、死にかけたところを、ワルツ様とビクセ・・・カタリナ様方に救っていただいたのです。その際、少し姿形(すがたかたち)が変わってしまいましたが、紛うこと無く、ボクはユキでございます」


そう言いながら頭を下げるユキ。

2度目の自己紹介、といったところだろう。


「そうじゃったのじゃな・・・ここに来た時は、妾と同じくらいの背丈じゃったのに、ずいぶん大きくなったものじゃのう・・・」


チラッ・・・


視線だけで、ワルツに副音声を飛ばすテレサ。


「え?テレサはまだ成長途中じゃない。これから嫌でも身長が伸びていくわよ?」


「そうかのう・・・。尻尾は段々と立派になってゆくのじゃが、身長の伸びる気配が無い気がするのじゃ・・・」


と言いながら、季節の変わり目か最近ふっくらしてきた3本の尻尾に、テレサは手をやった。


「それを言うのでしたら、私はどうするんですか?テレサちゃん」


と、更に小さくて、年齢も高いシラヌイが抗議の声を上げる。

そして2人同時に・・・


チラッ・・・


・・・何かを期待する視線をワルツに向けた。


「・・・っていうか、2人とも、最近まで身長の事なんて気にしてなかったじゃない・・・。何で急に背を伸ばしたいなんて思ったの?」


そんなワルツの言葉に、テレサが言い難そうにして理由を答える。


「・・・皆の間で噂が流れておるのじゃ。最近ワルツが、ユリアとシルビアばかり連れ回しておるのは、身長の高い者が好みじゃから、と・・・」


そんなテレサの疑問に苦笑を浮かべながら、ワルツは言葉を返す。


「いや別に、身長が高いほうが好みとか、そういうの無いわよ?今回は単に、ユリアがボレアス出身だったってだけだし、シルビアはその付き添いだっただけだし・・・。っていうか、3日間しか開けてないじゃない・・・」


「む?・・・そうじゃったかのう?」


どうやらテレサの中では、日数感覚が麻痺しているようだ・・・。


「でも、たまには、妾もデーt・・・息抜きがしたいのじゃ。皆でどこか遠くへ行くとか・・・」


「そうですね・・・」


はぁ・・・と今にも溜息を吐きそうな2人に、ワルツは首を振る。


「でも、今回のボレアスはやめておいたほうがいいと思うわ(ロリコンとか言う変態もいるらしいし)」


それから少し考えた後で、再び口を開いた。


「・・・なら、今、抱えてる問題が解決したら、みんなで一緒に何処かへ行きましょう?」


するとワルツに並ぶようにして、


「・・・皆様、申し訳ございません」


ユキが再び頭を下げる。


「皆さんとは正々堂々と勝負(?)をしたいのですが、今は我が民の命が掛かっているので、もう暫くワルツ様をボクにお貸しいただけないでしょうか?」


「ふむ・・・」

「そうですk・・・え?」

「それは仕方がn・・・え?」

「国民思いですのう・・・」


「仕方ないのう・・・。ならば、妾たちで取り決めたルールがあるから、コレに則って正々堂々と勝負するのじゃ!」


そう言って和服の胸元から、何やら分厚い書類の束のようなものを取り出すテレサ。


「なにそれ・・・」


「な、何でもないのじゃ。(くれぐれもワルツには見られぬよう注意するのじゃぞ?)」


「(は、はい。ありがとうございます!)」


こうして、国のトップの間で、密約(秘密の約束)が交わされることになったのである。

・・・主に、ワルツだけを対象にしたものだが。


(一体どんなルールよ・・・・・・ま、いいけど)


恐らくは、ワルツ(魔神)教の教典のようなものだろう・・・。


「さ、食事が冷める前に、早く食べてしまいましょ?」


謎のやり取りが一段落したようなので、ワルツは食事を促した。

・・・が、まだ食事は継続できそうに無かった。


「ちょっ・・・ワルツ!もしかして本当に魔王なのか?!」


「そうですよ?狩人さん。さっき、説明したじゃないですか。短かったですけど」


「魔王さまがこんな所に・・・」


「シラヌイ?そんなに気にしなくても大丈夫よ?人畜無害な魔王だから。昔は世界最強って言われてたらしいけど」


『えっ・・・』


「それ、ヌル姉様(ユキF)の話ですね。私は単なる劣化コピー(?)にしか過ぎないので、そんなに強くないですよ?」


と、ワルツとカタリナの魔改造で黄泉帰った魔王シリウス(ユキ)が釈明する。


「流石はワルツだな。神にも魔王にも勇者にも知り合いがいるとは・・・」


「全然うれしくないですけどね。特に神様の知り合いが」


「ぜひ私にも、世界を股にかける(すべ)の伝授を・・・」


「いや、股には掛けてないからね?シラヌイ。むしろ、面倒事は向こうから勝手にやってくるだけよ?」


・・・一方。

そんな混乱の最中、驚いていない者が2人いた。


「・・・テレサと水竜は驚かないのね?さっきまでは、何者か、って問いかけてたのに・・・」


そう、議長と秘書の凸凹コンビが、どうってことはないといった表情で、食事を進めていたのである。


「うむ。コルに色々と教わったからのう」


「はい。日々、難しい書物などを通じて、勉学に勤しませていただいております故」


なお水竜は、まだ絵本から卒業できていなかったりする。


「ふーん。どんな事を教わったか知りたいわね・・・」


「そうじゃのう・・・例えば、今回のユキ殿のことじゃが、驚いていない、というわけではないのじゃぞ?」


「ふーん・・・じゃぁ、外交上、相手に弱みを見せつけないため・・・とか?」


「うむ。それも理由の一つじゃな。じゃが、もっと大きな理由があるのじゃ」


そしてテレサは、ニヤッとした人の悪い笑みを浮かべて言った。


「コルに聞いたのじゃ。ワルツなら、例え不利な状況に陥ろうとも、最後のギリギリまで『ぽーかーふぇいす?』を貫くと・・・」


そんな言葉に、ユキが反応する。


「・・・もしかして、会食の時の一件もそうだったのですか?」


「会食?何の話じゃ?」


「えっと、ビクセンにある城で、ワルツ様方を夕食会にお呼びしたn」


「はいはい。その話はおしまい!この話は無かったことにしなさい」


突然、有耶無耶にしようとするワルツ。


「テレサもダメよ?そんなことばっかり真似してたら、黒歴史まみれになるんだから。っていうか2人とも、それ以上話したら本当に嫌いになるからね?」


「なん・・・?!」

「えっ・・・?!」


嫌いになるという言葉に、凍りつく2人。


そんな時、


ギギギギ・・・


食堂の扉が開かれる音が聞こえてきた。


「・・・お姉さま?・・・何かとても面白そうな話をしていらっしゃいますね?」


「・・・うわぁ」


・・・カタリナの所で手伝っていたはずのテンポが現れたのである。

因みにじゃ。

A案じゃと、ぽーかーふぇいす以降が以下の様な感じじゃったのじゃ。


・・・


「コルに聞いたのじゃ。ワルツなら、例え不利な状況に陥ろうとも、最後のギリギリまで『ぽーかーふぇいす?』を貫くと・・・」


「・・・」


「じゃから、妾も、ワルツを見習ってみようかと思うてのう?・・・じゃがなんというか・・・」


するとテレサは、表現に困った表情をしながら言葉を続けた。


「・・・自分の考えが他人にバレないようにするというのは、中々、居心地が悪いものじゃのう・・・」


「・・・うん。全くその通りだと思うわよ?正真正銘、不毛なだけだから、あまりオススメはしないわね」


「じゃがのう?決してマイナスなことだけでは無かったのじゃ。例えばじゃ。城を抜けだして町中で迷子になっておったときに、近くにあった椅子に座って黙っておると・・・」


そしてテレサは、ワルツが思いもかけなかったことを口にした。


「・・・ロリコンという名の者が、丁寧に道を教えてくれたのじゃ」


「ちょっ・・・?!」


・・・どうやら、ロリコンが市中に紛れているようだ・・・。


・・・


と言った感じじゃ。

こちらの方が面白そうじゃったのじゃが・・・やはり町の中にロリコンが潜んでるとか精神的に耐え切れ無かったのじゃ・・・。

その上、ロリコンに世話になったなどということになったら・・・もう国家元首(ひと)としてどうかと・・・。

そもそも王都の中で迷うとか、ありえんからのう。


というわけでじゃ。

B案のテンポ展開を採用したのじゃ。

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