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14.20-22 損失22

 マグネアの屋敷内を、メイドゴーレムが歩いて行く。


 顔は、造形されておらず、のっぺりとしていて、表情が浮かべられるような作りにはなっていない。ゴーレムなのだから、感情などなく、表情を作り込む必要がなかったというのも理由なのだろう。


 しかし、今。もしも彼女(?)に表情が表現出来るというのなら、きっとある表情を浮かべていたに違いない。……困惑。彼女(?)は今、その意思とは関係無く、身体を動かされているのだから。


『制御不能』


『(この声、どこから出ているのでしょうね?)』


 ゴーレムの身体を動かしていたのはポテンティアだ。彼()がメイドゴーレムに取り憑いて、動きを乗っ取っていたのである。


 理屈は簡単だ。ゴーレムは筋肉やモーターなどで動いているわけではなく、魔法的な力で関節を動かしているのである。そこにポテンティアたちが入り込み、関節を無理矢理に動かすことで、ゴーレムの動きを乗っ取ったのだ。


 それはポテンティアたちらしい乗っ取り方だと言えた。単に関節一部分だけを乗っ取っただけなら、うまく動けず、その場でジタバタとするだけ。まともに歩けないはずだった。しかし、ポテンティアたちであれば、特に意識することなくお互いが連携でき、メイドゴーレムのそれぞれの関節に取り付くだけで、その身体をまるで自分の身体のように動かす事が出来たのだ。


『(最初からこうしていれば、怪しまれることはなかったのです)』


 メイドゴーレムの身体の動き具合を確かめた後、ポテンティアは前へと歩き始めた。その歩き方は極めて滑らか。むしろ、メイドゴーレムが自身の意思で動くよりも、ずっと人らしい動きをしていると言えた。


『制御不能』


『(……この声だけはどうにか隠さなければ、周囲にバレそうですね)』


 メイドゴーレムを乗っ取った後から、メイドゴーレムが警告を発し続けていた。前述の通り、口は無いというのに、だ。


 このままでは、誰か人や、警備のゴーレムに会うと、乗っ取っていることがバレてしまうかも知れない……。そう考えたポテンティアは、メイドゴーレムの声がどこから聞こえてくるのか、その発生源を探し始めた。


 結果、のっぺりとした顔の内側から、声が聞こえてきていることを突き止める。


『(この感じ、魔法陣の類いでしょうね……。流石に書き換えるのは無理なので、声を出させないようにするのは諦めますか……)』


 潜入ミッション中のポテンティアが自分に課したルールは、非破壊。彼はそのルールに則り、メイドゴーレムの発声器官をそのままにする事にしたようだ。


 代わりに——、


『あー、あー、あー……こほん。制御が可能になりました』


——メイドゴーレムと同じ声を発して、逆の意味の発言をすることにしたようだ。


『制御不能』

『制御が可能になりました。……あ、いや、復帰しましたの方がいいかな』

『制御不能』

『制御が復帰しました。……うん。こっちの方が良さそうですね』

『制御不能』

『制御が復帰しました』

『制御不能』

『制御が復帰しました』


 傍からメイドゴーレムを見れば、壊れかけのように見えていた。一人でブツブツと喋りながら、廊下を歩いているのだ。事情を知らなければ、ホラーと言えるかも知れない。


 ポテンティアはそのままの状態で、屋敷内を歩き回った。たまに同じタイプのメイドゴーレムと出会うが、特に挨拶などは必要無いらしく——、


『制御不能』

『制御が復帰しました』


『…………』


——そのまま素通りしても、怪しまれる事はなかったようだ。第三者から見れば、どう見ても怪しいメイドゴーレムだが、メイドゴーレムたちにそこまで判断できる知性は備え付けられていなかったようである。


『(さーて。建物の中はくまなく探し回りましたが、地上部分には誰もいなさそうですね……。あとは地下……ですか。ワルツ様もそうですが、研究者というものは、地下に工房を作りたい衝動か何かに駆られる生き物なのでしょうか?)』


 地上に人の気配はなく、ポテンティアが探していないのは、地下だけとなった。入り口は既に発見しており、階段裏の隠し扉の裏に、地下へと延びる会談がある事は判明していた。


『制御不能』

『……行きますか』


 ポテンティアはメイドゴーレムの腕を動かして、隠し扉を開けた。そして、その先の暗闇に繋がる階段へと足を踏み入れたのである。


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