14.20-20 損失20
『(どことなく親近感が湧きますが……いえ、今は目の前の問題に集中しましょう)』
虫の形をやめることによって、ポテンティアへの調度品からの攻撃は止んだ。しかし、その代わり、彼の目の前に現れたのは、メイド型のゴーレム。メイド服を身に纏ったマネキンのような見た目のゴーレムが、ポテンティアの前に立ち塞がる。
対するポテンティアの姿は、床に転がる石ころ。メイドゴーレムにとっては、排除の対象だ。
両者の関係は、排除する側と排除される側。ゆえに、不可避の戦いが始まることになる。
最初に動いたのはメイド側だ。落ちているものを拾おうとするように、石ころ状のポテンティアへと手を伸ばす。
一方、ポテンティアに動きは無い。メイドに掴まれれば、その行き先は間違いなく屋敷の外。ミレニアやマグネアの様子を見るというミッションは失敗になることだろう。
とはいえ、彼は、諦めたわけではない。その出来事は、メイドゴーレムがポテンティアのことを摘まんだ瞬間に起こる。
ドロッ……
ポテンティアは身体の形状を変えて、液状化したのだ。
『…………!』
『(ゴーレムが僕のことを捕まえるなど、不可能です)』
ポテンティアは液化したまま、床に敷かれていた絨毯の繊維の隙間に入り込む。マイクロマシンだからこそ出来る芸当だ。
これでメイドゴーレムから逃げ切れる……。そう思ったポテンティアだったが、その考えは少々安直だったようだ。
『……フリーズ』ピキッ
『なん……?!』
メイド服を着たただのゴーレムだと思っていたゴーレムメイドが、魔法を使ってポテンティアのことを凍らせようとしてきたのだ。染みこむ前に凍らせることが除去のための最適な方法だと瞬時に判断したらしい。
自分で考える能力、魔法の行使能力、そして独立稼働が可能な人型の身体……。それは最早、ある種の生き物と言えるほどの完成度をもつ人造ゴーレムだと言えた。
そんなゴーレムを前に、ポテンティアは凍えそうになりながらも、しかし動きを止めない。彼は液体ではなく、液体のような振る舞いが出来るマイクロマシンだからだ。
『(寒っ!冷たっ!)』
内心で驚きながらも、ポテンティアは絨毯を貫通し、絨毯の裏側へと身を隠すことに成功する。床に達した彼は、平たく伸びて絨毯の裏側を移動しながら、内心、頭を抱えていた。
『(不覚……!不覚です!まさか、ただの潜入ミッションで、これほどまでに難儀しなければならないとは……。これは、舐めていたことを認めなければならないでしょう。ここからは本気で行かせてもらいます……!)』
ポテンティアは考えを改めた。ここから先は、能力の出し惜しみをせず、全力で潜入ミッションをこなそう、と。やはり、人の姿になって来訪するという選択肢は無いらしい。
結果、彼が採った行動は単純。
『(近くに別働隊はいないですか?!ヘルプをお願いします!)』
分体たちに助けを求めるというものだった。
『(こちらブラボー。現在、屋敷外壁にて日向ぼっk……待機中です)』
『(チャーリーは屋根の上におります。デルタも一緒です)』
『(エコーは屋敷外部で害虫と交戦中!ヘルプは出来ません!)』
『(アルファは床下で害獣と交戦中です。警備がガバガバですね。この屋敷)』
『(なるほど。では、ブラボー、チャーリー、デルタは、僕、フォックストロットの眼になってください。窓の外などから、廊下の様子が見られるでしょう)』
『(それは構いませんが……何かあったのですか?何やらドタバタと暴れているような音が聞こえたのですが?)』
『(実はですね……)』
ポテンティア"F"は状況を分体たちに事情を説明した。彼らはすべてポテンティアの一部とはいえ、常に情報を共有しているわけではないのだ。
『(なんと……)』
『(この家すべてがゴーレムだというのですか?!)』
『(さすがは学院長のお宅)』
『(そんな訳なので、侵入に手間取っております。おっと、メイドゴーレムが絨毯を剥がし始めました。ここから動かなければ見つかる可能性大です。至急の援護をお願いします!)』
『(事情は分かりました)』
『(特にタスクは入っておりませんから、サポートします)』
『(こちらブラボー。フォックストロットの進行方向に多数の調度品を確認。回避経路の計算に入ります)』
『(助かります!)』
そしてポテンティアFは、仲間たちの援護を受けながら、廊下を駆け抜けた(?)。
ポテの日常なのじゃ。




