表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3233/3387

14.20-17 損失17

「じゃぁ、会わせろ」


 ラリーのその言葉は、もちろん、ハイスピアに会わせろ、という意味である。ポテンティア(弟)に会わせろ、と言う意味ではない。


 対するワルツは——、


「今度ね。今は無理よ」


——と即答した。


 今のハイスピアは魔法を使えない状態であり、姿を誤魔化す事が出来ない状態にあった。ゆえに、彼女を見る角度によっては、大怪我の跡がハッキリと見て取る事ができるのである。


 黒板のマイクロマシンたちによって映し出されたハイスピアは、首元を長い襟によって隠されたコートのような服装をしていて、手も白い手袋をしている状態。外から見える怪我は、顔の一部にしか見られず、パッと見る限りは、元気そうに見えていた。


 しかし、反対側から見れば、決して無事には見えない。彼女が大怪我を負っているのは明白で、目の色や髪の色などが以前の彼女とは大きく異なっていた。まるで別人だ。彼女をよく知っている者たちが見れば、卒倒してしまうに違いない。


 ゆえに、今こうしてハイスピアの映像を撮影しているポテンティア(弟?)は、できるだけハイスピアの怪我が見えなくなるよう、怪我の少なめな横顔を撮影していたのである。エルフ特有の長い耳についても、横から見れば人間種の耳のように見えていて、彼女がエルフである事に気付いた者はいなかったようだ。 


「なぜ会わせられない?」


「なぜって……当然でしょ?大怪我を負った怪我人に会わせろという方がおかしいと思うだけど?それとも、面会拒絶という概念はこの国には無いのかしら?大怪我や大病を患って免疫力が下がっている人に、健常者が風邪の菌や病気を持ち込むとか、今のハイスピアを殺しにいくような者だと思うのだけど?……あ、そういう知識は無かったわね……この国と言わず、この星自体に……」


 そう返答するワルツには、ラリーの無知さを馬鹿にするつもりも、レストフェン大公国の科学力を馬鹿にするつもりも、あるいはこの星自体の文明を馬鹿にするつもりも無かった。むしろ、文明のレベルを考えていない自分の発言を反省して、ゲンナリとしていたようである。


 それから彼女は、ポテンティアに目配せをして、黒板からマイクロマシンたちを退避させた。そして、黒板に幾何学模様の何かを記入していく。


 それは脳に直接知識を植え付ける強制学習の術式。れっきとした科学技術である。


 内容は生物学。かつて、ルシアやカタリナたちに見せたような、顕微鏡の向こう側に広がるミクロな世界についての説明である。小さな生物、細菌、ウイルスの他、人の身体の免疫機能について説明する。


 人はなぜ風邪を引くのか。人はなぜ病気になるのか。そして人はなぜ回復をするのか……。生物学の基礎を、皆の脳に刻み込む。


 その際、言葉は無い。黒板を見れば、原理が自ずと理解出来るのだ。文字通りに瞬く間に、ラリーたちは、ワルツが伝えたかった生物学の基本的な知識を身につけた。


「分かった?」


「…………」


「分かったみたいね」


 ラリーが普段の寡黙な彼へと戻った様子を見て、ワルツは安堵した。なお、その隣にいたユリアは、呆れたような表情を見せていたようである。その際、彼女はこう思っていたようだ。……自分はこの教室の教師としてやっていけるのだろうか、と。


 しかし、現実は非情。ワルツから無茶振りが飛んでくる。


「じゃぁ、ハイスピア先生の話は一旦ここで切り上げて……。現状の説明をお願いしますね?ユリア先生」


「あ、はい……」


 急に話が変わるが、生徒たちの理解は付いて来ているのだろうか……。ユリアはそんな不安を感じながらも、職員会議の際にまとめた情報について説明を始めた。


「おっほん。では、現状、レストフェン大公国が置かれている状況について説明します」


 そして話し始めたユリアの説明を聞いて、生徒たちはすっかりとハイスピアのことなど忘れることになるのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ