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14.20-14 損失14

 ルシアたちが何だかんだとやっている内に、教室にはすべてのクラスメイトたちが集まっていた。そんな彼らが気にしていたことは、ルシアの頭でウネウネと動く銀色の尻尾のこと——ではなく、昨日の出来事の顛末と、珍しく顔を見せないミレニアについてだ。


 その内、後者については、ジャックが口にした「風邪じゃね?」という一言で片付く。昨日、ミレニアが、戦闘中に誰よりも気を張っていたことは皆が知っていた事。その反動が今日になってきたのだろう、と誰もが考えたらしい。


 ちなみに、ミレニアが暴走したり、彼女がルシアの魔法で蹂躙されたりしたことについては、目撃者たちが黙っていたので、広まっていない。保護者であるマグネアが口止めをしたからだ。


 ゆえに、皆が気にしていた問題は前者。昨日、ルシアが助けようとしていた敵兵たちはどうなったのか、何だったのか、なぜ攻めてきたのかという疑問。そもそも敵兵たちが駅の中に身投げをした理由も分からなければ、それをルシアが助けようとした理由も分からず……。更に言うなら、なぜレストフェン大公国が攻撃を受けたのか、どこから来た者たちなのか、誰にも分からなかったのだ。


 皆、情報が欲しかった。自分たちは今、どんな状況にあって、これからどんな未来に巻き込まれていこうとしているのかを。


 こういった場合、生徒に状況を説明する立場にあるのは、教師である。不確定な噂で皆を混乱させるのではなく、正確かつ適切な情報を生徒たちに伝えて落ち付かせる……。それが教師の義務だった。


 ゆえに、教師たちは、朝から会議を交わしていた。今、手元にある情報を突き合わせ、パズルを嵌め合わせていくように、自分たちが置かれた状況を整理していく……。それが、親から子供たちを預かっている教師たちの大切な仕事だったのだ。


 だからこそ、ワルツは会議に呼ばれなかった。彼女は肩書きこそ教員かも知れないが、教師たちからすれば子ども側の存在だからだ。


 だが、特別教室の学生たちからすれば、そんな大人の事情など関係ない事。皆、ワルツや、彼女の周辺にいる者たちが持つ情報に、興味を持っていたようである。


 尤も——、


「……なんでみんな、こっち見てくるのかしら?」


——都合の悪いことや、興味の無いことに無頓着なワルツにとっては、皆がどんなことを考えているのかは想像出来なかったようだが。


「や、やっぱり、私の頭を……」うねうね


「…………」


 ワルツはルシアの発言に返答できなかった。少なくない者たちの視線がルシアの方に向けられていたことは紛れもない事実。下手に否定できなかったのだ。


 ワルツが黙り込むと、ルシアも黙り込む。そんなルシアは今、言霊魔法の影響下。テレサに対し「外して」とは言えず、自ら取り外すこともできない状態。クラスの中で一人だけ笑いものにされながら、自分の行動を反省するしか、選択肢は無かったのだ。


 結果、ルシアが、普段の彼女に似合わず、しょんぼりとしていると——、


「どうかの?アステリア殿と、マリアンヌ殿。二人もア嬢と一緒に、頭に妾の尻尾を付けてみないかの?」


——とテレサが意味不明な発言を口にし始める。


「は?」

「えっ?」

「な、なぜですの?」


「まぁ、一言で言えば、データ取りなのじゃ」


「「「データ取り?」」」


「うむ。実はこの尻尾、本物の尻尾ではなくての?妾の魔力によって作られた魔力を溜めるタンクのようなものなのじゃ。じゃから、この尻尾を身体のどこかに付けておくと、魔力が普段より増えて、より多く、より強大な魔法を使えるようになるはずなのじゃ。そのデータ取りに協力して欲しい、というわけなのじゃ?」


 テレサがそう口にした瞬間、クラスの中の雰囲気が変わる。皆、戦慄したのだ。……今、ルシアが頭に銀色の触手のようなものを取り付けているのは、普段よりも強大な魔法を使えるようになるためなのだ、と。そこまでしてルシアはどんな魔法を使おうとしているのか……。皆、それぞれに想像を膨らませ、そしてカオスな未来を想像してしまったようである。


 なお、テレサの尻尾を装着すると、魔力が追加されるのは事実であり、装備者の魔力が無くなれば、自動的に尻尾から魔力が流れ込んでくるという仕組みになっていたりする。


 対するアステリアとマリアンヌは、魔力が強化されるという話を聞いて、少なくない興味を抱いたようだ。ただ、ルシアのような見た目にはなりたくなかったらしい。


「あの……頭に付けなければならないのでしょうか?」

「別に、腰でも良いですわよね?」


 実験に参加するのは吝かではないが、ルシアのようにふざけた場所に装着するのは勘弁願いたい……。副音声でそう口にするアステリアたちの前で、テレサは神妙な面持ちで頭を左右に振る。


「いや……ア嬢のように頭に付けねばならぬのじゃ。そうでなければ、実験にならぬ。頭から魔力を供給されるのと、腰から魔力を供給されるのとで、差があるか確かめねばならぬからのう。今日はもう既に、ア嬢が頭に尻尾を付けてしまったゆえ、頭に尻尾を付けねばならぬのじゃ」


 と言って、自身の尻尾を2本抜いて、アステリアとマリアンヌに手渡すテレサ。


 対して、尻尾を受け取ってしまったアステリアたちは、今更、返すわけにもいかず——、


「え……えいっ!」スポッ

「はぁ……」スポッ


——2人とも諦めて、頭にテレサの尻尾を付けることにしたようだ。


 そんな2人は気付いていたらしい。……テレサはルシアのことをクラスの笑いものにするつもりは無く、彼女のことを笑いものにさせないために、自分たちに一肌脱いで欲しかったのだろう、と。だからこそ、嫌々ながらも、アステリアとマリアンヌはテレサの提案に乗ることにしたのだ。


 尤も——、


「あれ?その尻尾って、扱いを間違えると、爆発するんじゃなかったっけ?」


「「「……あ゛っ」」」

「「「え゛っ」」」


——ワルツの一言で、すべてが台無しになってしまったようだが。


次回予告「ア嬢のだけ炸裂」。

乞うご期待なのじゃ。


……嘘なのじゃ。

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