14.20-13 損失13
ジャックの次にやってきた人物は、薬学科の双子だった。ただ、彼女たちは教室には入らず、扉だけを開けて、その影から——、
「「……じぃ……」」
——と部屋の中を観察していたようである。その様子を見る限り、何かを警戒しているのは確か。2人とも、昨日の出来事——特に、ルシアがミレニアのことを蹂躙している(?)光景を思い出して、警戒しているのだろう。
「えっと……」
2人の視線が真っ直ぐに自分へと向けられていることを感じ取ったルシアは、ここにきてようやくテレサの口から手を離した。そして魔力の強制注入により、モフモフの塊と化していたテレサの尻尾からも下りて、そして、何事も無かったかのように言った。
「お、おはよう?2人とも」
と言いながら、テレサに向かってジェスチャーをするルシア。その意味は——、
「(ほら、テレサちゃん!尻尾を隠して!)」
——と言っているらしい。
対するテレサは、1時間近く口を押さえられていた上、魔道具による不可抗力とは言え、無理矢理魔力を注ぎ込まれていた事に憤っていたためか、ルシアに向かってジト目を向けていたようである。なお、前を見ているルシアは、テレサから睨まれていることに気付いていない。
それからテレサは何を思ったのか、ニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべた。そして、自身の尻尾の1本をカチャッと取り外すと、それをルシアの頭の上に——、
ブスッ!
——と突き立てた。
「ほひゃっ?!な、何コレ?!……テレサちゃんの尻尾?!」ググググ「と、取れない……」
「お返しなのじゃ」
突然の出来事に、ルシアは慌てるが、テレサに気にした様子は無い。
一方、アステリアやマリアンヌなども、テレサのその反撃に目を丸くする。2人から見たルシアは、テレサに対する日頃の所業から、傍若無人な人物のように見えていた。しかも、ルシアは強大な魔力の持ち主。そんな人物に攻撃などすれば、その人物は、次の瞬間に塵も残さず消されるはず……。アステリアたちはそんな認識でいたために、テレサによるルシアへの反撃を見て、驚いてしまったのだ。
ルシアたちと比較的長い時間を共に生活しているアステリアたちですら意外に思っているのだから、廊下にいた双子や、教室にいたジャックにとっては、意外どころの騒ぎではなかった。彼らから見たルシアという人物の認識は、やはり"力の権化"。反撃したテレサが消し飛ばされるのではないか、と3人ともが考えたらしく、皆、慌てて物陰に身を隠した。
が、当然、ルシアがテレサに報復するなどと言うことは起こらない。
「ア嬢?『今日一日、その格好で暮らすのじゃ』」
「ちょっ?!こ、言霊魔法まで?!」
今のテレサは、ルシアから無理矢理に魔力を注ぎ込まれ、尻尾の数が数え切れないほど増えている状態。テレサが使う魔法の特殊性を考えれば、今のルシアがテレサに勝つ方法は無いと言えた。まさに、自業自得。もちろん、ルシアにもテレサにも、お互いを害するつもりも喧嘩をするつもりも無く、お互いにただの戯れ程度にしか考えていないのだが。
だが、そんなことなど知らない双子やジャックたちは、泣きそうな表情を浮かべて狼狽えるルシアの姿を前に、拍子抜けしていたようである。
「あ、あれ?」
「想像してたのと……違う……」
「………?」
戸惑う3人に対し、ワルツは言った。
「何を想像していたのかは知らないけれど、別にルシアも私たちも、怖い存在じゃないわよ?怖いと思うのは貴女方がそう思い込んでいるだけ。基本、私たちは、明確な意図をもって害され無い限り、力の行使をする事なんて無いわ?(……多分ね)」
と胸を張って説明するワルツ。ただ、心の底までそう思い込んでいたわけではなく、多少は後ろめたいこともあったようだ。100%とは言い切れなかったらしい。
その後、双子はワルツの説明に納得したのか、教室の中へと入ってきて、いつもどおり朝の挨拶をした。ただ、2人はルシアを見て……。そしてブフッ、と吹き出しながら、すぐに顔を背けてプルプルと震え始めた。理由は——そう、不明とだけ言っておこう。
それから、学生たちが次々に教室へとやってきたのだが、皆、そのたびにルシアを見て、彼女から慌てて顔を背けてプルプルと震えていたようである。そのたびにルシアが泣きそうな顔をしたり、顔を赤くしたり、テレサに向かって憤りの色を込めた視線を送ったり……。それでもテレサは、ルシアからの無言の抗議には反応しなかったようだ。
その結果、アステリアとマリアンヌの中で、ルシアとテレサに対する考えが変化したのは、当事者2人には知る由も無い事である。
モフられる覚悟のある狐だけが、モフって良いのじゃ。
なお、妾にはア嬢のことをモフる勇気は無い模様。




