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14.20-08 損失8

 ワルツによるアステリアの特別訓練についてはさておいて……。


「ねぇ、お姉ちゃん」


「ん?」


「ハイスピア先生のこと……どうするの?」


 今は朝。そろそろ学院に登校する時間である。


「そうねぇ……」


 ハイスピアは見た目こそ、かつての姿を失ってはいたものの、中身は紛れもなくハイスピアのままだった。ゆえに、ワルツとしては、引き続き学院の教員として、彼女に勤めてもらいたかったようである。そうでなければ、特別教室は、ワルツだけで受け持たなければならないからだ。そう、ワルツは教わる側の人間ではなく、教える側の人間なのだから。


 だからといって、今のハイスピアの姿を皆の前にさらすというのは、かなりリスクが高かった。ハイスピアは、前述の通り、パッチワークのような見た目であり、さらにはエルフとしての特徴が出たまま——つまり、耳が長い状態のままだったのである。


「先生、幻影魔法で、耳とか肌とか、隠せないですか?」


 ワルツが問いかけると、ハイスピアは不思議そうな顔をする。


「はい?肌?」


「えっ?……あ。まだ鏡を見せていませんでしたね……」


 ワルツは致命的なことを思い出した。ハイスピアに対し、まだ彼女の身体がどういう状況にあるかを説明していないことを……。


「……ポテンティア。教えてあげて」


『わかりました。僕が介抱いたします。では、先生。こちらへどうぞ』


「えっ?あ、はい……」


 ハイスピアは、ポテンティアによって、大きな鏡のある洗面所の方へと連れていかれた。その後——、


『ひえっ?!』


   ドスンッ!!

   バタンッ!!

   ガシャンッ!!


——という小さな叫び声や、何かが倒れたような音が聞こえてくる。ハイスピアが卒倒して、棚か何かを倒したらしい。まぁ、ポテンティアが付いているので問題は無いだろう。


「お姉ちゃん、教えてなかったんだ?」


「えぇ、すっかり忘れていたわ?」


「そっかぁ……(教えるのが面倒臭くなったんだね……)」


 ワルツの性格を知っているルシアは、ワルツがなぜハイスピアに対し、彼女の姿の話をしなかったのか、何となく予想が付いたようだ。そして実際、その予想は、当たっていたりする。


 そんな中——、


「あの……ワルツ様」


——なぜかその場にいたユリアが、会話に割り込んでくる。


「そういえば貴女、なんでこんな朝からここに?」


「えぇ、その話なのですが、私がハイスピア先生になりすます、というのは如何かと思いまして」


 ユリアはそう口にすると、幻影魔法を展開した。ワルツには幻影魔法が見えないので、ユリアはユリアにしか見えないのだが、他の者たちには違う姿に見えていたらしい。


「これで如何でしょう?」


「へぇ……」

「もがぁ……」

「す、すごい……」

「幻影魔法もここまで極まれば、もはや別物ですわね……」


「……よく分かんないけど、ハイスピア先生の姿を、ユリアが模している、ってことね」


 ワルツのその言葉に、ユリアはガクッと項垂れそうになるが、ワルツの幻影魔法耐性(?)を思い出して、どうにか踏みとどまる。


「ま、まぁ、そういうわけなので、私がハイスピア先生の代わりになろうと思うのです」


「それは助かるけれど……貴女、国は大丈夫なの?」


 ユリアはミッドエデン情報局のトップ。おいそれと仕事を投げ出せるような立場には無いはずだった。……というのはワルツの先入観で、実際の所、ユリアが情報局で何をしているのか、ワルツは詳しく知らない。


「えぇ、問題はありません。コルテックス様の許可は頂いておりますし、後輩ちゃんや新入りちゃんが、私の座を狙ってそれはもう死に物ぐr——頑張ってくれていますから」


「何か今、とても不穏な言葉が聞こえたような気がしたのだけれど……まぁ、いいわ。貴女が大丈夫というのなら、大丈夫なのでしょう」


「はい!」


 というわけで。ハイスピアの精神が安定して、幻影魔法で自身の姿を誤魔化せるようになるまでの間、ユリアがハイスピアの代わりに学院教師として働く事が決まったのである。


べつに変身せずにそのまま働いても良いような気がしなくもないのは、きっと妾の気のせい……。

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