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14.20-07 損失7

「えっと……」

「アステリアさんは……」

『無力ではありませんね』

「もがもが」


 皆が同時に同じ事を思う。アステリアは何を言っているのだ、と。


 事あるごとに、新しい能力や魔法に目覚めるアステリアは、比類無き天才だと言えた。彼女に足りないものは"力"などではない。ほんの少しの工夫と、自分に対する理解だ。自分の力を把握した上で、魔法や能力の使い方を工夫すれば、彼女は強大な力を振るえるはずだったのだ。所謂、器用貧乏、というやつである。


 ……と、皆は思ったわけだが、どういうわけか、皆、アステリアに対し、直接考えを伝えることは無かった。皆、口を噤んで、顔を見合わせるだけ。その視線は、一様にこう語っていた。……誰かアステリアに、事情を説明しろ、と。


 しかし、その場にいる者たちは、半数ほどが口下手。ワルツは論外。ルシアにも説明できる自信は無く、テレサはルシアに口を塞がれている状態。ポテンティアも他人のプライベートなことに足を踏み入れるほど言葉選びに自信は無く、マリアンヌはつい先ほどまで凹んでいたので、他人のことを気に掛ける余裕は無い状態だった。


 例外はユリアとハイスピアくらいのものだ。だが、ユリアはアステリアのことを詳しく知らないために助言が出来ず、ハイスピアはユラユラと揺れていて心ここにあらずといった様子。ゆえに、アステリアの言葉に対して、誰も適切な返答ができずにいた。


 そんな知人たちの様子を見て、アステリアがどう思ったのかは彼女にしか分からない。ただ、彼女はしょんぼりとした様子で、獣耳をぺたりと倒していた。皆が、自分の発言によって黙り込み、チラチラと顔を見合わせるという状況で、気分を良くする者はそういる者ではないはずだ。


 アステリアの沈んだ表情が、尚更に、皆の間にあった不可視のプレッシャーを上げて行く。このままだとアステリアは、心に大きな傷を負ってしまうのではないか……。皆、そんな危機感を抱き始めていた。


 そんな中で、口を開いた人物がいる。センシティブな話題の中、一番口を開いてはいけない人物——ワルツだ。


 ワルツはなぜか、目をキラッキラと輝かせて、アステリアのことを見上げていた。傍から見れば、年長者に憧れる子ども、といった様子だが、もちろん、そんな事は無い。


「アステリア。貴女は力を欲するのね?」


 それが言いたかっただけらしい。故郷にいるワルツの兄姉たちが今の彼女の言葉を聞いていたなら、彼女の後頭部に容赦の無い高速チョップを炸裂させていたことだろう。


 しかし、アステリアは、ワルツの言葉を聞いて、ギュンッ、と振り向いて目を輝かせた。


「はい!その通りです!」


 そのド直球な返答に、ふざけ半分だったワルツは、この期に及んでようやく後悔する。


「そ、そう(あ、うん……。本気で悩んでいたのね……)」


 もはや、いつもの展開だ。今更、後に引くことは出来ない。


 結果——、


「……仕方ないわね」


——ワルツはアステリアの願いを叶えることにしたらしい。アステリアは大切なルームメイトであり、仲間でもあるのだ。そんな彼女の願いを聞かなかったことにするというのは、ワルツには出来ないことだった。


 一方、ワルツのことをよく理解していたルシアは、心配そうに姉へと問いかける。


「お姉ちゃん……本当に大丈夫?」


 ルシアは分かっていた。ワルツは格好の良い言葉(?)を使いたかっただけなのだろう、と。


 テレサやユリア、それにポテンティアなども、ルシアと同じことを考えていたためか、怪訝そうな反応を見せていた。逆に、ワルツのことをよく知らない者たちは、大きな勘違いをしていたようである。具体的には、アステリア、マリアンヌ、それに——、


「へっ……?アステリアさんが……ルシアさんみたいになる……?!」


——ふと我に返ったハイスピアが。


「えっ……アステリアさんが、ルシアさんみたいに?!」

「わ、私が……ルシアちゃんみたいに……」


「えっ……ちょっ……」


 どうして、皆、そんな思考に至ったのか……。アステリアに対して適当に戦闘訓練でもして誤魔化そうと考えていたワルツは、思わず頭を抱えて悩んでしまう。しかし、どんなに考えても、アステリアたちの思考を理解することはできなかった。まさに、寝耳に水状態である。


 ちなみに、なぜアステリアたちが、そんな短絡的な思考に陥っていたのかというと、ワルツの周囲にいるルシアやテレサ、ポテンティアなどが、強大な力を持っているように見えていたからである。そこにはきっと、何か特別な理由があるに違いない……。アステリアたちは、そんな考えに辿り着いてしまったらしい。


「是非、お願いします!私をルシアちゃんみたいに強くしてください!」


「えっ?!えっと……」


 ワルツの視線が、助けを求めるように、ルシアたちへと向くが、皆、申し合わせたようにスッと視線を逸らす。どうやら誰も助けてくれない上、手伝ってもくれないらしい。


 結果、ワルツの出した結論は——、


「……ま、どうにかなるでしょ。ルシアみたいになるのはちょっと難しいと思うけれど……」


——とりあえず、やってみる、というものだった。それがどんな結末に繋がっているのか、この時のワルツは予想だにしていなかったようだ。


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