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14.20-03 損失3

 その後、日常生活に支障が無いよう、ワルツは、ハイスピアの身体から各種チューブを取り除いた。その間、ハイスピアは、痛みや嘔吐感などを感じていたはずだが、ボンヤリとし表情のままで、特に反応を見せることは無かった。


 その様子はまるで人形のようだった。ワルツの問いかけに受け答えはするが、魂でも抜けたかのように、人らしさが感じられなかったのだ。普段のハイスピアであれば、ワルツの工房を見た途端、ニコニコとしながらユラユラと左右に揺れていたはずだが、今の彼女はボーッと何も無い目の前の空間を見つめるだけ。とはいえ、何かに集中しているわけでもなく、ただ目を開けているだけのように見えていた。


「(まぁ、あれだけの大怪我を負ったのだから、仕方ないわよね……)」


 死ななかっただけマシ、と考えるべきか……。ワルツが諦めにも近い考えに陥っていると——、


『おや、先生。お目覚めですか?』


——その場の地面に黒い水たまりのようなものができ、そこからポテンティアが生えてきた。もちろん、人の姿のポテンティアだ。


 今のハイスピアは、ほぼ全裸の状態でベッドに腰掛けていた事もあり、少年の姿で現れたポテンティアに対し、ワルツが苦言を呈しようかと考えていると——、


「あっ」


——ここで初めて、ハイスピアが、人らしい反応を見せる。


「その声、聞いた事が……どこか暗いところで……私の事を呼び止めた……」


『ほう?覚えていらっしゃいましたか』


 そんな2人の会話に付いていけず、ワルツは眉を顰めるが、彼女が言葉を挟むことは無い。せっかくハイスピアが人らしいまともな反応を見せたのである。様子を見ることにしたらしい。


「たしかあなたは……ポ……テンティアくん?」


『えぇ、その通り。ポ・テンティアです。でも、できれば、ポでは区切らず、ポテンティアと連続で呼んでいただけますか?切るところはそこではありませんので』


「(えっ、どこかで切れるの?貴方の名前……)」


「ポテンティア……。ハイスピア…………うっ!」


 と、ハイスピアが頭を抑える。何かを思いだし掛かっているのか、急な頭痛に襲われたらしい。


「ハイスピア……そう……私はハイスピア……」


「ふーん……名前を思い出したようね」


『えぇ、そうです。あなたの名前はハイスピア。職業は何をされていましたか?』


「……学校の……」


「『……学校の?』」


「……偉い人……」


「まぁ、偉いって言えば、偉いのかしら?」


『方向性は間違っていませんが、ちょっと違いますね』


 やはり短時間ですべてを思い出すのは難しかったらしい。とはいえ、それも時間の問題で——、


「……私は先生をしていました……。お薬の……先生……」


——自分の職業を思い出すことに成功したようだ。


「まぁ、そこまで思い出せるのなら、もっと詳しいことも、近いうちに思い出せるでしょ。きっと」


『ですね』


 ハイスピアの術後は良好と言えた。多少の記憶喪失や意識の混濁は見受けられるが、彼女が負った怪我からすれば、奇跡的とも言える回復だった。


 ワルツとポテンティアがハイスピアの回復に喜んでいると、ハイスピアが徐に周囲を見渡して、そしてワルツたちに問いかける。


「ここは……?」


「あぁ、ここですか?ここは私たちの自宅です」


「自宅……」


 そしてハイスピアは、再びボンヤリとし始める。傍から見れば、興味が無さそうにも見える反応だ。


「(まぁ、特別興味を出すような場所じゃないものね)」


 ハイスピアの反応は尤もだ、などとワルツが考えた——その瞬間。


「自宅?!」


 なぜかハイスピアは、急に驚いて飛び起きた。その様子は、普段の彼女のよう。そんなハイスピアの反応を前に、ワルツもポテンティアも目を丸くして、思わず顔を見合わせてしまうのであった。


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