14.19-44 強襲?44
ジャックたちがマグネアのことを呼びに行った後。ワルツたちは、ミレニアやハイスピアの他に、命を救える者がいないか、周囲を探し回った。
しかし、皆、ミレニアの魔法によって完全な冷凍状態。流石のルシアでも救えないほどにカチコチに凍っていた。
ゆえに、救った兵士たちに食料などの物資を与えようと考え、その物資をミッドエデンから調達しようとしていたテレサは、せっかく呼び寄せたユリアに対して頭を下げることになる。
「すまぬ、ユリアよ。先ほどの話……兵士たちへの食料提供は、無かったことにして欲しいのじゃ。見ての通り、渡す相手がいなくなってしまったからのう……」
対するユリアは、「いえいえ問題ありません」と相づちを打った後で、テレサに対して逆に問いかけた。
「こちらでは……今回のような出来事が頻繁に起こるのですか……?」
ミッドエデンの情報局長とはいえ、ユリアの耳に届かない情報というものはたくさんある。例えば、ワルツたちのプライベートな事などはその代表例だ。もしもプライベートなことを知ろうとすれば、一瞬で消されても文句は言えない相手だからだ。
ゆえに、自分たちの与り知らないところで、ミレニアの暴走や、兵士たちの襲撃事件のようなことが、実は頻繁に起こっているのではないかと、ユリアは心配したらしい。もしもそうだとすれば、ミッドエデンで悠々自適なスパイ活動生活(?)を謳歌している場合ではなく、ミッドエデン情報局レストフェン支局のようなものを作り上げてでも、ワルツたちの側にいなければならない……。ユリアはそんな事を考えていた。
対するテレサは、「無い」と返答しようとして、ふと考え込む。
「(ふむ……。そういえば、冒険者たちに襲撃を受けたことはあったかのう。エムリンザ帝国がレストフェン大公国の首脳を傀儡にしようとした事件もあったのじゃ。ということは、ユリアへの返答は——)」
そして結論は——、
「まぁ、日常茶飯事かの」
——という、肯定だった。
「そんな……」
ユリアは絶望した。その場に崩れ落ちるほどに絶望した。自分の情報収集能力の無さ——無能さを突きつけられ、立っていられなくなったのだ。
普段の彼女は、情報を集めてきた部下たちからの報告を聞いたり、あるいは机の上にあるモニターに表示される情報を見て、それだけで、世界中の情報を集めた気でいたのである。世界中の主要な町には、部下たちが入り込み、逐次情報を報告してきて……。そして、空高く——宇宙空間では、エネルギア級3番艦のストレンジアが、衛星軌道上をグルグルと回って、惑星中のデータを集めているのである。それら情報にアクセスする権限を与えられていたユリアは、そのデータに目を通すだけで、世界中の情報を知った気になっていたのだ。
……一番知っておくべき、主たちに関する情報が、すっぽりと抜け落ちているとも知らずに。
そしてユリアは決断する。
「……私もワルツ様やテレサ様の側にいるべきですね」
ユリアは、国の盾。ミッドエデンの首脳陣や国を守る立場にある人間である。その役目が果たせないというのであれば、もはや情報局長の椅子など無意味。ただの座り心地の良い椅子でしか無い……。彼女はそう思ったらしい。
そんなユリアに、テレサが困った様子で返答する。
「まさか、学生として学院に入学するつもりかの?ユリアの年齢では無理だと思うのじゃが……」
「が、学生として入るのは無理かも知れませんが——」
「では、教師として入るのかの?まぁ、確かに、コルはたまに魔法科の教師になりすましておるみたいじゃからのう……。しかし、ユリアは何の先生になるのじゃ?諜報学など、ここの学院では教えておらぬのじゃ?あるいは、魔法科の教師になろうにも、お主、幻影魔法しか使えぬじゃろ?」
「…………」
ユリアは考え込んだ。それはもう必死に。
そして出した結論は——、
「……学院長の秘書とか、難しいですかね?」
——テレサの予想とは異なり、意外とまともな内容だったようだ。
「ふむ……なるほど……」
その現実的な提案に、テレサが感心していた——そんな時。
「ミレニア?!」
学院の方からマグネアたちがやってきた。




