14.19-43 強襲?43
そして今。
「……あれだけの魔法を受けて死んでないって言うのが……」
「……不思議なのじゃ……」
「この方が特別頑丈……というわけではないんですよね?」
『えぇ、魔力が強いだけの女の子です』
「…………」ぽかーん
「ちょっと、なんか、みんな酷くない?回復魔法だから大丈夫って言ったのに……」
ルシアは憤慨した。誘導式圧縮回復魔法を連射してミレニアの意識(?)を完全に刈り取った後、彼女のことを皆の前に連れてきたのである。すると皆、ミレニアが死んでいるというのだ。回復魔法をぶつけていたのだから、傷を負っているわけがないというのに、なぜ皆はそのような誤解をするのか……。ルシアとしては納得がいかなかったらしい。
「大丈夫だと分かっていてもねぇ……」
「まぁ、実際、生きておるゆえ、そのことは良いじゃろう。それよりも——」
あまりルシアの事を憤慨させると、後が面倒だと思ったのか、テレサが話題を変える。
「果たして、先ほどのミレニア殿は、本当にミレニア殿だったのじゃろうか?まるで別人みたいだったのじゃ」
強力な魔力を暴走させていたミレニアのことを思い出しながら、テレサが率直な意見を口にする。するとワルツとルシアは、返答する前に、周囲の惨状を見渡した。
そこには、2人が助けた敵兵たちの哀れな最期の姿が散見された。皆、ミレニアの魔法を受けて、瞬間冷凍されてしまったのである。身体の芯まで冷凍されてしまえば、細胞レベルで破壊されるため、救命は困難。もう、彼らの命は諦めるしかなかった。
幸い、ハイスピアは、身体の一部が凍っていたものの、ポテンティアが操るナノマシンたちの頑張りによって、どうにか一命を取り留めていたようである。そもそも生きていると言えるのか難しい状態ではあるが、ポテンティアが何も言わないところを見るに、生命活動は維持しているらしい。
そんな周囲の状況を改めて確認した後、ワルツとルシアはミレニアへと向き直った。
「そうね……。普段の彼女とは思えない行動だったわ」
「ハイスピア先生まで巻き込んで攻撃するって……やっぱりおかしいと思う」
「なるほど、これが学級崩壊……」
「「えっ?」」
「ううん。なんでもない。ま、とにかく、ミレニアが異常な状態だったというのは同意見ね。誰かに操られているのか、それとも多重人格なのかは分からないけれど、このまま放置しておくと、彼女が目を覚ましたときに、また暴走する可能性はあるでしょうね」
「どうにかならないかなぁ?」
「原因が分からないことには、対応は難しいわね……。あまり魔法に詳しくないから、人を操る魔法にどんなものがあるのかよく分からないし……」
ワルツはそう言いながら、テレサやマリアンヌを一瞥した。テレサの場合は言霊魔法を。マリアンヌの場合は臭気魔法を使って人を操る事が可能なのである。そう考えると、どこかの誰かが、ワルツたちの知らない魔法を使って、ミレニアのことを操っていた可能性は十分に考えられた。
しかし、考えても分からないので、まずは棚上げ。
「とりあえず、保護者に連絡すべきかしら?」
「そだね……」
ワルツたちが知っているミレニアの保護者は、学院長のマグネアか、母親のミネルバである。ただ、ワルツとしては、ミネルバがなんとなく苦手だったので——、
「じゃぁ、マグネアを呼びましょうか」
——ということにしたようだ。
「ちょっと、そこに隠れてる4人?学院長を呼んできてもらえる?」
少し離れた場所にあった大木の影には、依然としてジャックたちが隠れていた。ワルツは彼らのことを伝令として使うことにしたらしい。今、ミレニアから目を離すと、また彼女が暴走するかも知れないと考えたのだ。
ワルツが呼びかけると、4人は恐る恐るといった様子で顔を出す。完全に怯えている様子だ。ただし、ミレニアが魔法を乱射していたことで怯えていたわけではない。
「う、撃たないよな?」
ジャックが問いかける。彼が怖れていたのは、ルシアの魔法。空を吹き飛ぶミレニアのことを、カクンカクンと直角以上の角度で急激に曲がりながら執拗に追いかける回復魔法を見ていた彼らは、ルシアの回復魔法に言い知れぬ恐怖を覚えていたのだ。
「撃ちはしないわね。……敵対しない限り」
「「「「…………」」」」
大木の影に隠れていたジャック、ラリー、双子の姉妹たちは、一様に黙り込んだ。4人からすれば、ワルツたちがミレニアのことをほぼ一方的に蹂躙したことや、ハイスピアがその場で気絶していることにも気付いていたので、事情を問い詰めたかった。しかし、下手な事を聞けば、ルシアから魔法が飛んでくるかも知れないのだ。思わず黙り込んだとしても仕方がないと言えるだろう。
そして4人は顔を見合わせた後、その場を立ち去って学院の方へと向かった。ここは大人しくワルツたちの指示を聞くべき。あとは学院長のマグネアがどうにかしてくれる……。そう考えて。




