14.19-40 強襲?40
ギュォォォォ!!
ミレニアから吹き出していた魔力が突然、強くなる。まるで箍が外れたかのように、暴走が強まったのだ。
そのせいで、空の高いところで、不可視の人工太陽がいくつか爆発してしまう。しかし、その爆風や熱風などのエネルギーは、ワルツによってコントロールされ、事なきを得る。
「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん……」
「ううん。気にしなくても良いわよ」
ルシアが単独行動をする事は殆ど無い。彼女自身が誰かに声を掛けて共に行動するか、あるいは誰かが自発的に彼女に付いて回るか……。何かがあった時に対処できるよう、ルシア本人も、そして彼女を知る者たちも、気を付けて行動していたのである。ルシアと共に行動する者たちは、言わば安全装置。ルシア本人は意識して誰かと行動していたわけではないようだが、無意識のうちに誰か自分のことを止めてくれる人物と行動することを心掛けていたのである。
それが影響してか、今のミレニアの姿を見たルシアとしては、色々と思うことがあったようだ。
「ミレニアちゃん……なんか、可愛そう……」
暴走しても誰も止める者がいないミレニアの姿と、自分の姿を重ねてしまったらしい。
悲しそうにポツリと呟くルシアに対して、今まで考え込んでいたテレサが問いかける。
「のう、ア嬢」
「なに?」
「一瞬だけ言霊魔法を使いたいのじゃが、人工太陽が爆発せぬよう頑張ってはもらえぬか?」
とテレサが問いかけると、ルシアではなく、ワルツが返答する。
「いや、別に爆発したところで、私が弾くから問題無いわよ?」
どうやらワルツも、テレサが何を考えているのか、理解したらしい。
それはルシアも同じだった。テレサは言霊魔法を使って、ミレニアのことを止めようというのだ。しかし、現状、その場の魔力が乱れすぎていて、ルシアのオートスペルによる不可視の人工太陽は、どれも爆発寸前の不安定な状態。そこで魔法を使おうものなら、先ほどのようにバンバンと人工太陽が爆発してしまうのである。……なお、何個、不可視の人工太陽が存在しているかは不明である。1000を越えるのは間違いないだろう。
そんな人工太陽が爆発したとしても、ワルツが制御するというのだから、ルシアとしては否やは無かった。
「まぁ、お姉ちゃんがそう言うなら、魔法を使っても良いよ?」
「うむ。あと……」
「魔力の供給、ね。仕方ないなぁ」
と言いつつ、ルシアは考え込んだ後、なぜかその場でクルリと回って——、
バシッ!モフッ!
——と尻尾でテレサの顔を叩いた。それだけで、テレサの魔力が回復し、彼女の尻尾の数が増える。
「……もう少し、まともに魔力を渡しては貰えぬのか?」
「具体的には?」
「……こう、もうちょっと、やさしく?」
「尻尾で叩くのって、十分に優しいと思うけどなぁ……。痛いとも思えないし」
「いや、それはそうなのじゃが……」
不満げなテレサだったが、ルシアの言葉に反論できなかったのか、言葉尻が小さくなっていく。
「ほら、早く!ミレニアちゃんを止めてあげて」
「う、うむ……」
と、テレサは、煮え切らない様子で相づちを打つと、ミレニアの方を向いた。
するとミレニアからはなぜか魔力の放出が止まっていた。とはいえ、普段の彼女とは異なるのは明らか。異様なその雰囲気を前に、テレサは効果的にミレニアのことを抑える言霊魔法の内容を考える。
一方、ミレニアは、ニヤァと口が裂けそうな程に口角を吊り上げた。
「悪くない……。私の研究も捨てたものでは——」
と、ミレニアは、普段の彼女の発言とは思えないような言葉を呟くが、彼女の表情もその言葉も、テレサたちには届かない。距離が離れすぎているからだ。
それがある種の不幸を生む。
テレサはどこからともなく拡声器を取り出すと、『あー、あー』とマイクのテストをしてから、ミレニアへと呼びかけた。
『では、ミレニアよ。"魔力の9割を強制放出するのじゃ"』
その瞬間——、
「ギャァァァァァ!!」
ドゴォォォォ!!
——と断末魔を上げながら魔力を放出するミレニア。
その様子を見て、テレサが「あー……もしや、やり過ぎたかの?」と呟くと——、
「あ゛あ゛っ?!ちょっ?!」
ズドォォォォン!!ドゴォォォォン!!
——と空で人工太陽が爆発する。ミレニアが魔力を一気に放出したせいで、ルシアもフレアの制御が不安定になってしまったのだ。
尤も——、
「ちょっと……。どうにかするとは言ったけど、これは流石にやり過ぎでしょ?!」
——と、ぼやく(?)ワルツによって、すべて制御されたので、地上に影響が及ぶことは無かったようだ。




