14.19-35 強襲?35
"修正中"という前書きを消すのを忘れておったのじゃ。
駅の周辺で爆風が吹き荒れたのは一瞬の事。今では、何も無かったかのように、駅周辺を夜闇と静寂が包み込んでいた。
しかし、ワルツたちも、そして特別教室の学生たちも、心中穏やかではなかった。上空で生じた大爆発そのものも然る事ながら、爆発の瞬間、魔力の乱れによって、ワルツたちが隠そうとしていたすべての事が露呈してしまったからだ。
だが、なぜ、空で大爆発が起こったのか……。ワルツは原因と思しき人物に問いかけた。
「え、えっと……ルシア?」
ワルツが戸惑い気味に問いかけると、ルシアは今にも泣きそうな表情を見せながら、事情を説明する。
「ミレニアちゃんとか、テレサちゃんとか、ユリアお姉ちゃんとか、それにお姉ちゃんの転移魔法陣とか……近くで色々な人が魔法を使ってるから、空中に隠してる人工太陽の制御が上手くいかなくて……それで……」
「フレアが一個、爆発した、ってことね?」
「うん……。特に、あのミレニアちゃんから出てる魔力が、一番キツい……」
「なるほどね……」
ルシアの人工太陽が誘爆した原因は、ミレニアが身体から漏れ出させていた魔力にあったらしい。
ルシアの身体で生成される魔力は、放っておけば彼女の身体を蝕むほどの量なため、安定した状態で大量に保存できる不活性状態の人工太陽として、空中に浮かべられていた。その維持管理を行っているのがオートスペルという補助魔法。ただし、オートという名前は付いているものの、維持にはある程度人力による調整が必要だった。
例えるなら、少し不安定な机の上に、複数のボールを置くようなものだ。机が平らになっていなければ、ボールは机の上から転がっていき、終いには、机の上からこぼれて、地面に落ちてしまうのである。
ここでの"ボール"とは人工太陽のこと。そして、"机"とは周囲の場そのもののことであり、ミレニアたちの魔力は、その"机"の傾き、あるいは吹き付ける風のようなものである。ルシアは人知れず、"机"を平らに調整したり、"机"の上からボールが落ちないよう、"机"から落ちそうになっている"ボール"の位置を"机"の真ん中に持ってくるような対応をしたりしていたのだが、ついにはボールの1つが机の上からこぼれ落ちてしまった——つまり爆発を起こしてしまった、ということらしい。
「また起きそう?」
「分かんない……。起きないとは言えないと思う」
「そう……。拙そうだったら言ってね?」
「う、うん。近くで魔法を使われたら、多分、また爆発させちゃうと思う」
「……分かったわ」
少なくとも、現状、転移魔法を使う事は出来ない……。ワルツは頭の中で状況を整理する。
ルシアが近くにいる状況では、如何なる魔法を使うことも出来ない。彼女が魔法を使えるようになるためには、ミレニアの身体から漏れ出る魔力を止めさせるしかない。
しかし、ミレニアたちには、ハイスピアの姿やユリアの姿を見られた可能性があって、その上、爆発の説明も出来ていないのである。状況は最悪の一歩手前。
「(さて、ミレニアたちにはどこまで見えたのかしら?)」
今からどんな言い訳をすれば、状況をひっくり返すことが出来るのか……。幸い、ハイスピア本人は、爆発の影響を受けたせいか、再び気を失っている(?)ようなので、彼女が勝手に動き出したり、喋り出したりする可能性は低かった。そんな彼女の姿は、テレサの幻影魔法が復活しているため、今は不可視の状態だ。
ハイスピアの姿が皆の目にさらされたのは、ごく短い時間のこと。ゆえに、ミレニアたちは、横たわるハイスピアに気付いていない可能性もあった。爆発現象は、何の前触れも無く突然起こったのだ。皆、爆発現象の方に意識を奪われて、ハイスピアの姿に気付かない可能性はかなり高いと言えるだろう。
……というワルツの希望的推測とは裏腹に、ミレニアの視線は、しっかりとワルツたちの方へと向けられていたようである。他のクラスメイトたちは爆発で混乱しているらしく、空を見たり、周囲を見回したり、その場に蹲ったりと、様々な反応を見せていたようだが、ミレニアだけは、真っ直ぐに、とワルツの足下付近——つまり横たわるハイスピアへと向けられていたのだ。
「(やっば……。あれ、完全に分かってる感じの表情じゃん……)」
ワルツは内心で狼狽えるが、それと同時に希望も見出した。
「(皆は気付いていないようだから、ミレニアだけをどうにかすれば良い、ってことね)」
どうにか彼女の記憶を消す方法は無いか……。最終的には、皆の記憶を消し去って、今日の出来事を無かったことにできるとなお良い……。ワルツがそんな事を考えた——その直後。
「どうして……どうしてハイスピア先生のことを隠そうとするの?」
やはりその場にハイスピアがいる事に気付いていたらしいミレニアから、質問が飛んできた。




