14.19-31 強襲?31
そう言って頭を下げてくるマリアンヌを前に、一瞬、ワルツとルシアの治療の手が止まってしまうが、2人はすぐに何も無かったかのように作業を再開させる。優先順位はマリアンヌへの対応よりも、怪我人への対応の方が圧倒的に高いからだ。
それでも、マリアンヌのことを放置するのは如何なものかと思ったのか、ワルツがマリアンヌに問いかける。
「申し訳ないって……何についての話?」
ワルツの問いかけは、捉え方によっては、申し訳ないことが大量にあるかのような問いかけ方だったが、意味はしっかりとマリアンヌに伝わっていたようだ。マリアンヌが頭を下げたまま返答する。
「ハイスピア先生に大怪我を負わせてしまった事です!」
「んー、まぁ、治った……って言って良いかは分からないけれど、ひとまず命は取り留めたらしいし、私たちには謝らなくても良いわよ。もしも謝るなら、目を覚ましたハイスピア先生に対して謝るべきね」
と、ワルツは返答しながらも、内心では悩み続けていた。
「(でも、マリアンヌが謝ったところで、事態は進展しないのよね……)」
学院の者たちに、ハイスピアのことを何と報告すべきか……。未だワルツは悩んでいたのである。
「(なるようになるかしら……)」
いっそのこと、本当の事を話してしまえば楽になるのではないか……。意外に、皆、ハイスピアのことを受け入れてくれるかも知れない……。ワルツがそんな事を考えながら怪我人鯛たちへの治療を進めていると、彼女の脳裏に、ふとアイディアが浮かんでくる。そのヒントは、救い上げた敵兵たちにあった。
「そういえば、マリアンヌってさ、魔法を使って人を操る事が出来るのよね?」
「えっ?え、えぇ……。出来ますわ?」
「それじゃぁさ、見た目が変わっちゃったハイスピア先生が、今まで通りに学院で教師が出来るように、学院関係者の思考を書き換える事もできる?」
ワルツの問いかけられたマリアンヌは、すぐには返答せず考え込む。はたして自分の魔法でハイスピアのことを救うことは出来るのだろうか……。
考え込んだ末、マリアンヌが導き出した結論は——、
「おそらく、出来ますわ?」
——肯定。ただし、100%保証できるかすぐには判断できなかったらしく、完全な肯定をすることは出来なかったようだ。
それでも、ハイスピアに大怪我を負わせてしまった以上、マリアンヌには逃げ出すという選択肢は残されていなかった。ゆえにマリアンヌは、ハイスピアが元通りの生活を送れるように尽力すること心に決めたようである。
対するワルツも、マリアンヌの返答が中途半端であることに気付きながらも、そこを追求するような真似はしなかった。
「じゃぁ、お願い。テレサも手伝ってくれるはずだから、2人で対応すればどうにかなるはずよ?」
幻影魔法が使えるテレサと、周期魔法を使えるマリアンヌが力を合わせれば、誤魔化しの効果は倍になるはず……。ワルツは、我ながら良いアイディアだと自画自賛しながら、人知れず胸をなで下ろしたようだ。
……だが、話はそう単純に片付くものではなかった。
ギュォォォォォッ!!
その場を強い風と、凄まじい冷気が吹き荒れる。今の季節ではあり得ない強い冷気だ。
「魔法?!」
魔力を感じ取れないワルツであっても、すぐに察したようである。自然現象を無視したような冷気の原因。それが誰かの放った魔法である事に。
いったい、誰の魔法か……。当省になるような強さは無いが、周囲一帯を凍てつかせるほどの大出力な魔法。例えるなら威嚇するかのような魔法だった。少なくとも、敵兵の生き残りが、ワルツたちを攻撃する目的で放った魔法ではなさそうである。
「……そう、一応話すつもりはある、ってことね」
どこの誰かは分からないが、威嚇するということは、話を聞く気はある、ということ……。ワルツは少しだけ安堵しながらも、いったい誰がこんな冷気を生み出したのかと、その場を見回した。
そして、魔法を使っただろう人物を見つけて、彼女は表情を凍り付かせた。もちろん実際に凍ったわけではない。想定外の人物がその場にいたのだ。
「ミレニア……。それに他の皆も来たのね……」
その場にやってきたのはミレニアを始めとした、特別教室の面々だった。




