1.2-02 町への旅2
それから街道を歩くことおよそ5時間。
辺りはすっかりと明るくなって、空では2つの太陽が、今日も眩しく輝いていた。
その間、何度か休憩を重ねつつも、3人は順調に歩き続けて……。
今日一日で、すでにかなりの距離を移動していたようだ。
「〜〜〜♪」
「うん?お姉ちゃん。その歌、何?」
「ん?そうねぇ……私の国で流行ってた歌かしら?ひたすら動物の鳴き声を真似るだけの歌なんだけど、耳から離れないのよね……」
「ふーん」
「……〜〜〜♪」
「なんか、耳に残る曲だな……〜〜〜♪」
そんな会話を交わしながら、3人で歌を歌いつつ、また一つ丘を越えて行く3人。
彼女たちが歩いていた丘は、一面が緑一色に染まっていて……。
赤や黄色、紫や青、といった様々な色の花たちが咲き乱れていたようである。
その様子や気温などから推測するに、今の季節は、春を少し過ぎたくらい、といったところだろうか。
当然そこには虫もいて、花から花へと蜜を求めて飛び回っていたようである。
それを見て思いついたのか……。
ルシアがワルツに対し質問した。
「ねぇ、お姉ちゃん。その曲って、虫さんの鳴き声とかは無いの?」
「虫は……無いわね。でも虫って、ミーンミーンとリンリン以外に、何か鳴いたっけ?」
その瞬間――
「「えっ……」」
と驚いた表情をワルツへと向けるルシアと狩人。
どうやらこの世界には、セミやスズ虫の類がいないか、あるいはワルツの知らない多種多様な虫の鳴き声に満ち溢れているらしい……。
そんなルシアたちの反応を見て、地雷を踏んだことを察したワルツは、慌てて話の内容をすり替えることにしたようである。
奇しくも、丁度、目の前には、鬱蒼と茂った森の姿が見えてきたので……。
彼女はそれを話題として上げることにしたようだ。
「えっと……あ!もしかして、あれが、例の森じゃないですか?」あせあせ
「ん?あぁ、そうだ。あの森だ」
「あの森?」
「そうか。さっきルシアは眠ってたから聞いてなかったんだな」
狩人はそう口にすると、先程ワルツと交わしていた内容を、ルシアにも説明し始めた。
「実はあの森、悪い奴らが巣食ってるんだ。もしもルシアみたいな可愛い女の子が、1人で森を通過するようなことがあったら……」
「……森ごとみんな吹き飛んじゃう?!」
「「えっ……」」
真剣そうな表情を浮かべたルシアから戻ってきた言葉が、予想していたものと少しどころか大幅に違ったためか、同時に耳を疑うような素振りを見せるワルツと狩人。
その際、彼女たち2人ともが、『いや、それはない』とすぐに否定しなかったのは、ルシアの魔法を考えるなら、絶対に起こり得ない話ではなかったためか。
一方で。
ルシア本人は、自分の言葉におかしな点が含まれていたことに気づけなかったらしく、ワルツたちの様子を見て、思わず首を傾げてしまったようだ。
「んーと……私、何かおかしなこと言ったかなぁ?」
そんなルシアの問いかけに対し――
「……いや。その通りだと思う。何もおかしいことはないぞ?」
「そうですね……。私も同意見です……」
と、それ以外に答える言葉が見つからなかった様子のワルツたち。
そんな彼女たちは、ルシアに向けた表情を変えることは無かったが……。
その内心では、とめどなく冷や汗が流れていたに違いない。
なにしろ、彼女が言った『吹き飛ぶ』対象には、おそらく自分たちも含まれているはずなのだから……。
◇
それから間もなくして、一行は森へとたどり着く。
「うわぁ……お城みたい?」
「真っ黒な壁、って感じね……」
その森の入り口付近で、一旦、足を止めて、森の様子を眺めるワルツとルシア。
そんな彼女たちの視線の先では、葉の密度の高い木々が、ひしめき合うように生育していて……。
森を貫く街道を除けば、木陰は真っ暗になっていた。
何か得も言われぬバケモノが潜んでいても、おかしくはない――そんな見た目である。
まぁ、狩人の話によると、実際、盗賊たちが根城を構えているようだが。
「このまま行けば、夕方前には通過できるはずだが……気は抜くなよ?」
「うん。抜かないよ?」
「(ルシア……まさかとは思うけど、勘違いしてないかしら?)」
と、道端に生えている草花に駆け寄っては、嬉しそうな表情を浮かべていたルシアが、実は『気』と『木』を間違っているのではないか、と思わなくもなかったワルツ。
それから彼女は、ルシアから眼を離して、思考を切り替えると……。
隣りにいた狩人に対して質問した。
「あの、狩人さん?もしも、襲われるようなことがあったとして、防衛のために相手のことを傷つけたり、最悪、殺害するようなことがあった場合って……罪に問われたりするんでしょうか?」
「いや、向こうが最初に襲ってきた場合は、反撃によってたとえ相手が一方的に被害を被ることになったとしても、罪に問われることはない。特に、相手が盗賊だと分かってる場合は、むしろ討伐すれば報奨金が支払われるくらいだ。まぁ、相手が盗賊であることを証明できなかったり、正当防衛であることを認められなかった場合は、ちょっと面倒なことになるが……そのときは私がどうにかするから、ワルツたちは自由にやっちゃっていいぞ?」
「えっ……私がどうにかするって……狩人さん、どうにか出来るんですか?」
と、狩人の言葉を聞いて、眉を顰めるワルツ。
彼女としては、辺境の村の”狩人”が、どうにか出来るような話だとは思えなかったらしい。
しかし、狩人としては、確固たる自信があったようである。
「あぁ。色々とツテがあるからな。まず、絶対に大丈夫だと思うから、大船に乗ったつもりでいてくれ。……いや。大船に乗っているのは私の方か」
彼女は、そう言って、苦笑を浮かべると、ワルツたちから2歩ほど前へと先行し……。
どこからともなく2本のダガーを取り出して、そしてそれを腰の鞘へと仕舞い込んだ。
どうやら、彼女は、ワルツに預けた以外にも、自身の得物を隠し持っていたようである。
そんな彼女の後ろ姿へと――
「「…………」」
なんとも言い難い微妙そうな視線を向けるワルツとルシア。
そんな2人の表情から察するに……。
ワルツたちは、狩人に対し、一言では言い表せないような複雑な感情を抱いていたようだ。




