14.19-25 強襲?25
「なんですか……これは……」
「流石のお主でも、この情報までは集め切れておらぬのじゃな」
テレサがミッドエデンから呼んだ助っ人——情報局長のユリアは、大量の死体と怪我人を目にして唖然とした。普段の彼女にとっては考えられないことだ。彼女は世界中で起こっている出来事をいち早く集めるだけの情報収集力を有しているのだから。
だが今回は、その力で情報を集めるよりも早く、テレサから声が掛かったらしい。
「どうやらポテがやったようなのじゃ」
「ポテンティア様が?」
「いや、正確には、ポテとマリアンヌ殿と言うべきかの。まぁ、敵ゆえ、本来なら全滅させても文句を言われない相手なのじゃがの?」
とテレサが口にしたところで、不意に空から声が聞こえてくる。
『あー、後片付けをする前に、皆様にバレてしまいましたか……』
ポテンティアが戻ってきたらしい。
彼は空を飛ぶための最低限の姿——小型の飛行機のような形状で戻ってきた。その中にはマリアンヌが乗っていて、その様子を見たテレサが不満そうな表情を浮かべる。
「いいのう……妾も一つ欲しいのう……」
「えっ?」
「いや、なんでもないのじゃ……」
ポテンティアが下りてくる様子を眺めながら、テレサはユリアへと説明する。
「詳細はポテたちが下りてきてから直接聞くとして……ユリアには、彼らの傷を癒やすための物資を提供して欲しいのじゃ」
と、テレサが口にすると、ユリアは「なるほど……」と口にした後で、訝しげな表情を浮かべる。
「それは構いませんが、公都を襲った者たちについては、回復魔法で怪我を治して、転移魔法でどこかに飛ばしてしまったのですよね?それは良かったのですか?」
「あれは、ワルツとア嬢が衝動的にやったことじゃからのう……。それに、公都にいた者たちは、大怪我とはいえ、裂傷や打撲程度の怪我だったと思うのじゃ。回復魔法を掛けておけば、あとは元通りに動けるようになるはずなのじゃ。じゃが、ここにおる者たちはそういうレベルではなく……もう、口に出すのも憚られるような大怪我を負っておるゆえ、単に回復魔法を掛けただけで放置しておけば、体力を失って死んでしまうはずなのじゃ。ゆえに、ミッドエデンから物資の供給をして欲しいと思っての?あ、妾の名義ではなく、ア嬢の名義で頼むのじゃ。救うと決めたのはア嬢なのじゃからのう」
「最上位権限ですね」
「……妾の権限、ア嬢の下か?」げっそり
何となく遣る瀬なさを感じつつ、テレサは普段通りの表情を浮かべた。
その内に、彼女たちの近くへと小型飛行機型のポテンティアが着陸した。そして、風に飛ばされるように小型飛行機の姿が消えると、中から人の姿のポテンティアと、彼に運ばれてきたマリアンヌが現れる。
そんな2人に対し、テレサはゲッソリとしたまま、事情を問いかけた。
「別に怒っておるわけではないが……なぜ彼らを全滅させたのじゃ?」
テレサが問いかけると、マリアンヌは久しぶりに会うユリアに礼をした後で、テレサに対してこう答えた。
「全滅させようと思って、全滅させたわけではありませんわ?ただ、皆様が私の臭気魔法の圏内にいただけ。私の魔法で作り出した匂いを嗅ぐと、この穴の中に飛び込みたくなる衝動に駆られるのですわ?」
「ふむ……。地形と風向きとマリアンヌ殿の魔法が上手く組み合わさって、こんなことになったのじゃな……」
マリアンヌの一言でテレサはおおよその事情を理解した。今回の件について、ポテンティアは殆ど関与しておらず、マリアンヌの魔法が上手く填まり込んで、大惨事が引き起こったのだ、と。
「ユリアも事情は理解出来たかの?」
「はい。今のマリアンヌ様のお言葉で理解しました。しかし、彼らに物資を提供するより、本国に帰した方が——」
と、テレサとユリアがやり取りをしていると——、
「えっ……ちょっ?!」
「嘘っ?!」
——少し離れた場所で、生きている怪我人を引き上げて治療をしていたワルツたちから声が上がる。
それとほぼ同じタイミングで——、
「誰かと思ったらワルツたちか」
「…………」
——学院でミレニアから斥候を任された騎士科の生徒、ジャックとラリーの2人が現れた。
そして彼らは大穴の中を覗いて、2つの意味で驚くのである。
「なん……だ……。この死体の山は……」
「まて……あれは……!」
ちょうどワルツたちが穴の中から救い上げていた人物。その姿を見て、ジャックもラリーも顔を青ざめさせた。
夜を照らす明るい月の光の中。暗い穴蔵のそこから引き上げられたのは——、
「ハイスピア……先生……」
——森の中で敵兵たちと戦闘を繰り広げていたハイスピアだった。




