14.19-23 強襲?23
「んなっ……な、何で止めるのさ?!」
「お主がいましておる事は、適切とも言えぬし、効率的とも言えぬゆえ」
テレサは穴の中を見下ろして、そこで一部に動いている人を確認しつつ、言った。
「回復魔法が単に怪我人の治癒力を高める魔法ではなく、色々と制約があることをお主も知っておろう?今、ここで無差別に回復魔法など使ったら、救える命も救えなくなるし、助かった者たちも悲惨な助かり方をしてしまうのじゃ」
テレサが言うとおり、回復魔法とは怪我人の治癒力を高めて、傷を癒やしたり、病気を治したりする魔法である。もっと細かく言えば、細胞の活動を活発化、あるいは加速させることで、治癒力を高めているのだ。
今、"駅"の穴の中には、多くの死人がいるその上に、怪我人が積み上がっているという状態である。しかも、骨折をしていたり、出血をしていたり、あるいは見るも無惨な状態でかろうじて生きている者までいる状況である。
そこに向かって無差別に回復魔法を打ち込めばどうなるのか……。より具体的に言えば、骨折している者に対して、正しい位置に骨を戻さずに回復魔法を掛ければどうなるのか。出血している者たちに、輸血をせずに回復魔法をを掛ければどうなるのか。自分や他人が持っていた武器などが身体に刺さった状態の者に、回復魔法を掛ければ、どうなるのか……。まともな結果にならないのは明白だった。
ルシアがしようとしていたことは、つまりそういうことだ。人を助けようとして、逆にトドメを刺すことに他ならないのだ。
「彼らを殺害するつもりでやっておるのなら止めはせぬ。しかし助けるつもりでやっておるなら、止めさせて貰うのじゃ。少しは頭を冷やすが良い」
「…………」
ルシアはその場にへたり込んだ。ようやく、自分の行動の意味が理解出来たらしい。
そんなルシアから一旦顔を上げ、テレサはワルツに対して問いかけた。
「ワルツはどうするつもりだったのじゃ?彼らを見殺しに……いや、敢えて手を出さなかったのかの?」
対するワルツは、肩を竦めて言った。
「すべて、2人に任せるつもりだったわ?もしも私に彼らを救うつもりがあったなら、今頃もう行動に出ているはずよ?」
「ふむ……(つまりワルツには、彼らを救うつもり……いや、関わるつもりは無い、ということか……)」
縦穴の中に積み上がっているのは、一言で言うなら"敵"なのである。救ったところで見返りは無し。そればかりか、彼らの傷が癒えるまで、彼らを捕らえておかなければならず、食事も提供しなければならないのだ。まさに、ワルツの嫌いな面倒事である。
他にも問題はあるが、それらをすべて解決する方法を、ワルツたちは幸いにも持ち合わせていた。しかし、果たしてその方法を選ぶことが適切か、と考えた時、ワルツは"否"と結論を出したらしい。ルシアたちが救おうと考えるなら、それを手伝おう……。それがワルツの結論だった。
「仕方ないのう。手は貸してくれるのじゃろ?」
「えぇ、貴女たちが彼らを救おうって言うなら、手を貸すわ?その逆の時も、ね」
「ふむ……ア嬢の性格的に、逆は無いの。ほれ、ア嬢。いつまでもへたり込んでおるでない。お主にはお主にしか出来ぬことがあるじゃろ」
「いや、でも……」
「こういう時、お主はヘタレじゃのう……。まぁ、何も出来ぬ妾が言えた義理ではないが……あぁ、一つだけあったか」
そう言いつつ、テレサはルシアの尻尾を手に取り、そこから魔力を吸収すると、どこからともなく拡声器を取り出して……。そして、大穴の中に向かって叫んだ。
「穴の中に落ちた者たちよ!”そなたたちの身体から今から1日間、痛みが無くなるのじゃ!”」
その瞬間、テレサの尻尾が1本を残してすべて無くなる。言霊魔法を使ったらしい。
「……妾には、怪我人たちから痛みを取り除くことくらいしか出来ぬ。後はア嬢がやらねばならぬのじゃ」
テレサの問いかけを前に、ルシアは一瞬ボンヤリとした表情を浮かべていたものの——、
「う、うん!」
——すぐに元の表情に戻って、彼女はすぐに立ち上がった。
「……ありがと」
「えっ?」
「あーあ、また魔力を吸い取られちゃった」
「それはお主が——」
「貸しね?」
「は?」
「貸しは貸し。やっぱりお寿司かなぁ」
ルシアは元の調子を取り戻した様子で、作業を再開する。ただし今度は回復魔法だけでなく、重力制御魔法なども織り交ぜながら。




