14.19-22 強襲?22
結論から言って、ワルツが転移先として選んだ場所が悪かった。もしも学院に跳んでいたなら、その悲劇とも言うべき光景を目の当たりにしなくても済んだのだから。
「なに……これ……」
「人……だったものの山、かの」
空に浮かぶ大きな月によって照らし出されたその光景を見て、ルシアは顔を青ざめ、テレサも苦々しげに目を細めた。それほどまでに凄惨な光景が、"駅"の大穴の中に広がっていたのだ。
2人の横で穴の中を覗き込んでいたワルツは、その光景だけで、おおよそのことを察したようである。
「(ポテンティアがやったのね……)」
穴の中に積み上がっていたのは、鎧を着た兵士たちばかり。学院の関係者は、そこに含まれていなかった。つまり、学院の関係者を守ろうとした結果、出来上がった屍の山がコレなのだろう……。
ポテンティア(?)の非人道的とも言える所業に気付いたワルツは一瞬、彼に対する憤りを感じるものの、学院の方で人の気配がする事に気付いて、一旦、思考をリセットする。
「(もう少しやり方ってものがあると思うのだけれど……まぁ、学院のみんなが無事なら仕方ないか。学院のみんなが害されていたら、私も……)」
そこまで考えたワルツはふと思った。
「(ん?"みんな"、ってどこまで?)」
学院で授業を受ける者たち、学院で授業を授ける者たち、その家族、関係者——ひいてはレストフェン大公国の国民に至るまで、自分はすべてを助けようとしたのではないか……。そんな事に気付いたらしい。
「(害する相手が、巡り巡って本来助けるべき人の関係者だったりしたら、本末転倒なのよね……)」
ゆえにワルツなら、こうするのである。
「(私なら……全部助けるか、やっぱり全部投げて逃げ出すか……)」
それが出来るのは、すべてを救うだけの力を持つ者か、あるいはすべてを捨て逃げられるほどの力をもった臆病者か……。いずれにしても、力ある者にしか選べない選択肢だった。どうやら、ポテンティア、あるいはマリアンヌの場合は、そのどちらでもなかったらしい。
「(手を出したんだから、全部救いなさい……っていうのは、ちょっと酷、か……)」
自分自身を客観的に見直したワルツの頭は、大分整理が付いていた。その間、1秒以下。高速思考空間の中で物事を考えられるワルツだからこそできる思考の整理方法だった。
一方、生身の人間であるルシアや、高速思考空間の使い方に慣れていないテレサは、未だ穴の底を見て固まっていた。余りのショックに、頭の中が真っ白になっているらしい。
自分の思考の整理が付いたワルツは、次にルシアたちをどうするかについて考えた。人は、大きなショックを受けると、予想だにしない行動に出ることもあるのだ。このまま2人をその場に置いておくというのは、ワルツとしては避けたい事だった。
しかし、結果として、彼女は行動しなかった。
その内に、ルシアが——、
「……っ!救える人だけでも!」
——と回復魔法を宙に浮かべて、それを穴の中へと叩き付ける。
その行動を、ワルツはただ見ているだけだった。ルシアが我に返って回復魔法を行使するまでの間、何秒もあったはずなのに、ワルツは何も行動しなかったのだ。ただ、じっと、ルシアの事を見ていただけ。
しかしそれは、彼女なりのルシアに対する考えがあってのことだった。
「(無理矢理別の場所に転移したとしても、それはきっとルシアのためにはならないわよね……。明らかに死んでる人まで救えるとは限らないけれど、でも、今、この場から逃げ出せば、きっとこの娘は後悔するはず)」
もしも自分が同じ状況に陥ったとき、自分ならどうしたいか、どうされたいか……。ワルツはそう考えて、ルシアのやりたいようにやらせたらしい。
ところが——、
「……ア嬢。"待て"」
——ワルツとは真逆の選択をする者が現れた。今まで考え込んでいたテレサである。彼女は言霊魔法を使って、ルシアの行動を強制的に縛り付けた。
難しい話なのか、単に眠いのか……。
筆が進まぬのじゃ。




