14.19-21 強襲?21
「果たして、ポテンティアがどのくらい片付けてくれたのか……」
ワルツは学院へと繋がる転移魔法陣を空中に浮かべつつ、それと同時に、学院を取り囲んでいるという敵兵士の姿を想像した。そんな彼女の想像では、背の低い塀で囲まれた学院は、すぐに敵の侵入を許し、短時間で制圧されてしまうという結果が出ていたわけだが、ワルツはその結果を信じなかったようである。不確定要素として、ポテンティアとマリアンヌが存在していたからだ。
問題は、2人がどのくらいの間、兵士たちを押し返せるかだった。ワルツ自身、ポテンティアとマリアンヌの戦力がどの程度のものなのか計りかねていて、2人が数万人の兵士を相手にどこまで戦えるのか、分からなかったのだ。一応、頭の中で行っていたシミュレーションの結果は出ていたものの、シミュレーションを行う度に結果はバラバラ。数時間ほど兵士たちの足止めをして、結果的に足止めしきれず、敗北するか……。あるいは、圧倒的戦力差で、ポテンティアが勝利し、襲撃者たちを一瞬で蒸発させるか……。
「(ポテンティアもマリアンヌも、よく分からないのよね……)」
想像しきれない事柄だったためか、ワルツはそう言って眉を顰めた。
一方、ルシアとテレサは、学院で起こっているだろう出来事をまったく気にしていなかったようである。
「コンロの火は止めたかの?」
「うん。誰も使ってないから、そもそも点いてないはず」
「鍵は掛けたかの?」
「何言ってるのさ。鍵を掛けたのってテレサちゃんじゃん?私は掛けてないよ?」
「……掛けた記憶が無いのじゃ。っていうか、鍵を持っておるのはア嬢の方じゃろ?」
「えっ?持ってないよ?」
「えっ?あっ……普段はポテが常に家におるゆえ、留守番は任せきりで、そもそも家に鍵が付いておること自体覚えておらぬのじゃ……」げっそり
学院で凄惨な出来事が起こっているかも知れないというのに、2人は自宅を出る際にありがちなやり取りを普段通りに交わしていたようである。まぁ、正確には、ポテンティアがいないので、"普段"とは多少違うと言えるのだが。
そんな2人に対し、ワルツは問いかけた。
「2人とも普段通りね。緊張したり、怖かったりしないの?」
ワルツとしては、ルシアたちから緊張も恐怖も感じられない事が気になったらしい。少なくともワルツ自身は、緊張していた上、知人の学生や教師たちが害されていないかと恐怖も感じていたのである。それがまったく無さそうな2人の様子に、ワルツは少し羨ましいとすら思えていたようだ。
対するルシアは、「んー」と考えた後、ワルツに対してこう言った。
「怖いよ?だけど、お姉ちゃんたちがいるから大丈夫かなぁ?」
テレサも口を開く。
「この世界に、ア嬢以上に恐ろしい存在がいると?ありえぬ……ありえぬのじゃ」
「は?」
「いや、お主がその気になったら、この世界が終わるじゃろ?」
「そんなことしないし」
「……試しに太陽の位置を転移魔法で移動させようとしておった者がいたと聞いたのじゃが、あれは誰だったかのう……」ちらっ
「ぐぬっ……」
「あー、うん。2人とも緊張していないことは分かったわ。そうね……ルシアの言うとおりかも知れない。皆で行けば怖くない、か。さっさと行って、片付けてきちゃいましょ!」
「うん!」「うむ!」
そしてワルツは転移魔法陣を起動して、転移した。行き先は学院の外。彼女たちが作成した"駅"だ。
なぜ駅に転移したのか。もしも敵の兵士たちが学院を取り囲んでいるのだとすれば、"駅"は兵士たちの後ろ側になる場所なのである。学院の内部にいるだろうポテンティアと連携し、挟撃すれば、より効率よく敵を撃退できる……。ワルツはそう考えたのだ。
だが——、
「うわ……」
「なに……これ……」
「ひ、酷いのじゃ……」
——駅へと跳んだワルツたちが見たものは、屍の山。折り重なるようにして駅の縦穴を埋め尽くしていた敵兵士たちの亡骸だった。




