14.19-20 強襲?20
地下から出てきたワルツを見て、ベアトリクスは唖然とした。ただし、ワルツの背丈が、自分の記憶の頭二つ分くらい小さくなっていたことに驚いていたわけではない。2人は数時間前に顔合わせをしており、ワルツがなぜか縮んでいることを知っていたからだ。
ちなみに、驚いていたのはベアトリクスだけではない。ワルツの妹であるルシアも、そしてテレサもまた、ワルツの姿には驚きが隠せない様子だった。
「えっと……」
地下から出てきた途端、皆の視線が自分に釘付けになった挙げ句、3人共が黙り込んでしまう……。そんな状況に、ワルツもまた恥ずかしそうに、視線を宙に漂わせた。彼女も、皆が驚くだろう事を予想していたらしい。
いったい何が起こったのか……。答えは単純だ。
「お、お姉ちゃんが少し大きくなってる……」
「妾たちと同じくらいに……」
というルシアとテレサの言葉通り、ワルツの身長が地下室に入る前と後とで、文字通り身長が大きく異なっていたのだ。当然、"成長"などという生物学的な身長の伸び方ではない。ワルツの身体は機械で出来ているからだ。
ビフォーアフターで大きく異なるワルツの事を、ルシアたちが"ワルツ"だと認識できたのは、元の彼女の身長がもっと高いことを知っていたからだろう。もちろん、顔も似てはいたが、小学生の子どもがいきなり高校生になったとして、いったいどれほど知人が、その人物のことをすぐに見分けられるだろうか。
「やっぱり変?……っていうか、なんで神官がここに?」
「ご無沙汰しておりますわね。ワルツ様。ベアトリクスですわ?」
「あぁ、ベアトリクス……そういえば貴女、元々、カタリナに弟子入りしていたのだったわね」
「えぇ、そうですわ?最近ようやく、この服装も板に付いてきまして……」
「えっとね?ベアトリクス。私としては、別に神官とかいらないんだけど……」
と、ワルツが、神官の白衣を着たベアトリクスに対して、ストレートに苦言を呈しようとしていると、ルシアが横から首を突っ込んだ。
「ねぇお姉ちゃん。その背丈……どうしたの?テレサちゃんがたまに履いてるシークレットブーツとかじゃないよね?」
「ちょっ……妾は足袋や下駄しか履かぬのに、いつシークレットブーツを履くというのじゃ……って、そんなことはどうでも良くて、まさかワルツ……機動装甲が完成したのかの?」
元々、もう少し背の高かったワルツの身長が一気に低くなってしまった理由は、背の高い彼女の姿をホログラフィックによって映し出していた機動装甲が無くなってしまったことが原因だった。そしてワルツの身体は、成長しない100%機械の身体。つまり、彼女が新たな機動装甲を作り出すことに成功したから身長が伸びたのだ、とテレサは思ったらしい。
そんな彼女の問いかけに対して、ワルツは——、
「さぁて、どうかしらね?」にやぁ
——と返すだけ。否定も肯定もせず、ただ嬉しそうに笑みを浮かべた。
「なるほど。出来たのじゃな……。プロトタイプかの?」
「楽しみ!」
「あぁ、残念ですわ。私はそろそろお暇し無ければならないですもの……」
「えっと……皆?少しは疑問に思ってくれても……」
「「「えっ?」」」
「……何でもないわ(私、こんなキャラだったかしら?)」
誰も疑うこと無く、全員、ワルツの新型機動装甲を楽しみにしている……。そのことがハッキリと分かったのか、ワルツはゲンナリとして肩を竦めた。
少し話は変わるが、彼女は誰かに期待されることが苦手である。皆の注目を浴びることになるからだ。しかも、手札を切ったときに、その内容が、皆をがっかりさせる内容だとすれば、わざわざネタを隠すというのは悪手。ワルツはそれを理解しているはずだった。これまで何度も酷い目に遭ってきたからだ。
ゆえに、ワルツは、このとき何を隠しているのか、皆に明かしてもおかしくはないはずだった。そうすれば、恥を掻くことはないからだ。
しかし、彼女は、敢えて種明かしをしなかった。つまり、ワルツにとって今回のネタは、自信のある内容だったのである。まぁ、何に対する自信なのかは不明だが。
「……ふっふっふっふ……」
「なんか、お姉ちゃんが、テレサちゃんみたいな怪しい笑い方をしてる……」
「それは……褒め言葉と捕らえて良いのかの?」
ルシアとテレサは、ワルツが何を隠しているのか確信を持ちつつも、それ以上、追求することはなく、ワルツの出方をうかがうことにしたようだ。ワルツとの付き合いが長い2人は、ここでワルツに対して変なツッコミ方をすれば、彼女の機嫌を損ねるかもしれないことを理解していたらしい。
そしてベアトリクスと別れた後、一行は学院へと向かうことになった。……そう、すでに誰一人として敵がいなくなった学院へと。




