6中-22 迷宮の外(?)で1
『・』の数を3個にするか6個にするかで悩む今日このごろなのじゃ。
また、ユキの一人称を修正
「・・・プロティー・・・ビクセン・・・?」
プロティー・ビクセンの迷宮内にある施設。
その中でも、砂漠の領域にある第5王城。
・・・以前、ワルツたちと食事に来ようとして、結局来れなかった場所だった。
「どうしてここに・・・」
何故、自分の城に捕らえられていたのか分からず、ユキは呆然とする。
そんな時、不意に、
「・・・っ!」
グイッ・・・
「えっ・・・」
急にイブに引っ張られて、
ドン!
通気口の穴に押し込められた後、
「(しっ!)」
口を塞がれてしまった。
「・・・?」
「(誰か来た!)」
「・・・!」
狭い通気口の中から、普段は垂れている犬耳を少しだけ持ち上げながら、気配を探るイブ。
すると、彼女達からは足だけしか見えなかったが・・・
『クソっ!あの野郎・・・本気で殴ってくるとは・・・。・・・こういう時は、ロリっ子たちを眺めて荒んだ心を癒やすに限るぜ・・・へっへっへ・・・』
・・・などと言いながら、ロリコンが牢屋のある部屋の中へと入っていった。
その独り言を聞く限り、どうやら手の施しようのない変態らしい。
「(ちょっと予定よりもバレるのが早かったかもだね・・・。でも、ここまで来れたんだから、もうあと一息?頑張れ私たち!)」
そう言いながら、通気口の奥に押し込んだユキの、更にその先に広がっている暗闇に目を向けるイブ。
そんな彼女の視線を追うかのようにして、ユキもこれから進むだろう方向を振り向いた。
「(この通気口・・・どこに繋がっていたでしょうか・・・)」
「(え?)」
「(・・・いいえ。独り言です)」
自分の呟きを誤魔化すユキ。
城の持ち主とはいえ、通気口の経路までは分からなかったらしい。
「((どこにつながっているのか分からなくて)怖いですけど・・・行きましょうか)」
「(えっ・・・)」
そんなユキの言葉に、どういうわけかイブが固まった。
「(・・・暗くて・・・狭い・・・)」
「(・・・もしかして、暗いところが苦手ですか?)」
ユキがそう問いかけると、
「(そ、そんなわけ無いでしょ!さぁ、い、行こう?!)」
そう言ってイブは、まるでロボットのようなぎこちない動きをしながら、ユキの隣を無理やり追い越して、前へと進んでいった。
どうやら、自分よりも小さい子どもに負けたくない、と思ったらしい。
その際、
「(あれ?やっぱりこの子の匂い、どこかで嗅いだことがある気がするんだけど・・・)」
ユキの匂いで彼女のことを思い出しそうになったイブだったが・・・結局、思い出すことはできなかった。
「(ウゥゥゥ・・・)」
・・・通気口の中を進み始めてからというもの、ずっと小さい声で唸り続けているイブ。
なお、一般的には、犬の獣人とはいえ、威嚇する際に唸り声を上げるなどという習性は無い。
・・・要するに、彼女が唸っているのは、彼女特有の癖・・・小二病(?)のようなものである。
もしも、獣人にそのような習性があるのなら、狩人辺りは四六時中ワルツに纏わりついて、喉をゴロゴロと鳴らし続けることだろう。
「(何かあったのですか?イブちゃん?)」
「(な、なんでもないもん!)」
時折、大きな通路と繋がっている穴の方から差し込んでくる光はあるものの、その殆どの場所が薄暗い闇に包まれた通気口である。
まだ幼いイブにとっては、何かバケモノが潜んでいそうな暗闇に見えているのかもしれない。
「(・・・もしも怖いのでしたら、歌うと怖くなくなりますよ?)」
「(こ、怖くなんかないもん!)」
そんなやり取りをしながら、暗い通気口の中を2人は進んでいく・・・。
「(〜〜〜♪)」
「(あ、その曲知ってます)」
「(ほんとっ?!あまり好みじゃないんだけど、よく、とーちゃんが口ずさんでいたから耳から離れなくって・・・)」
「(そうだったんですね・・・)」
「(〜〜〜♪)」
「(〜〜〜♪)」
ピタッ・・・
「(・・・ん?どうしたんですか?)」
「(べ・・・別に怖いとか、そういうわけじゃないんだからねっ!)」
「(そうですか・・・。じゃぁ、ボクは怖いから歌わせてもらいますね)」
「(えっ・・・)」
「(〜〜〜♪)」
「(・・・)」
「(〜〜〜♪)」
「(・・・〜〜〜♪)」
・・・薄暗い通気口の中で、2人の合唱は続いていく・・・。
それから1時間ほど経って、たまに通路の方で、忙しなくバタバタと走る職員たち(?)の足音が聞こえてくるようになった頃。
少女たちは、通気口の中で、2股に分かれた道に差し掛かった。
片方は、これまで通り、廊下に近い場所を通るルート。
もう片方は、完全な真っ暗闇へと繋がる不気味な穴である。
「(・・・ど、どうしよう)」
分かれ道の角で立ち往生するイブ。
だが、どちらに行くかを悩んでいて、そう口にしたわけではない。
「(・・・外にいる者達の雰囲気から察するに、皆、ボクたちのことを探しているはずです。このままでは、いつ、この通気口も調べられるか分かりません・・・)」
壁の向こう側に居るだろう大人たちが通気口の中を覗きこまないか気を張りながら、立ち止まったイブに対して声を掛けるユキ。
目の前で道が二股に分かれているとはいえ、選択の余地は無かったのである。
「(わ、分かってるもん・・・)」
ユキの言葉を聞いてもなお、躊躇している様子のイブ。
ここまで来る間、怖くはない、と何度も口にしていたイブだったが、流石に目の前の真っ暗闇へと足を進める決心がつかないでいたのだ。
「(・・・では、ボクが先行しましょう)」
「(えっ・・・んー・・・えっ・・・ん゛〜〜〜・・・!!行くっ!私が先に行くもんっ!」
「(そうですか。ムリしないでくださいね)」
「(うぅ・・・)」
年下(?)のユキにカッコ悪いところは見せられないと思い、泣きそうな表情をしつつも、穴蔵に飛び込むことを決めたイブ。
・・・そんな時のことだった。
カツンカツンカツン・・・
『・・・この辺の通気口はまだ確認してなかったよな』
『あぁ。・・・しっかし子どもが2人逃げただけで、ずいぶんと大げさだよな』
そんな話をしながら2人の王城職員(?)が、ユキたちのいた場所の近くの通気口の方へとやってきたのである。
「(イブちゃん、早く!)」
「(う、うん!)」
少々ドタバタとしながら、二股の通路を暗い方へと進むイブとユキ。
そして間一髪の所で・・・
『・・・いねぇな』
『そりゃいるわけねぇだろ。こんな暗い所に入るとか、俺ならチビっちまうぜ・・・』
『だよなー。噂だと、たまにシリウス様が挟まってるとか聞いたことあるしな・・・』
『暗くて狭くて寒くて怖いとか、ホント誰得だよな・・・』
『シリウス様も、そんなことばっかしてるから、いつまで経っても貰い手が見つからないんだよ。あ、貰われ手か』
彼女たちを見つけられなかった職員たちは、そんな会話をしながら、どこかへと立ち去っていった。
「(・・・)」
「(・・・)」
そんな職員の会話に、震える2人。
イブは顔が真っ青に、ユキは真っ赤になっていたが、何故そんな顔色で震えているのかについては・・・・・・まぁ、説明するまでもないだろう。
それはさておき。
どうやら城の職員たちは、ユキに対して反旗を翻したわけではないようであった。
どういった理由でユキたちを監禁していたのかは分からなかったが・・・・・・少なくとも職員たちは、単に逃げ出した子どもたちを探している、といった様子である。
もしかすると、末端の職員までは、どうして子どもたちが捕らえられていたのかという理由を聞かされていないのかもしれない。
そう考えるなら、ここでユキが大人しく出て行って、職員たちに正体を明かすことも一つの手であった。
・・・だが、今の幼い姿の彼女が魔王シリウスであると分かってもらえない可能性を否定出来ない以上、カペラたちの手に再び渡ってしまうかもしれないという危ない橋を渡るよりも、このまま逃げ続けた方が良さそうである。
そう、この城で逃げている限り、時間をかければ、他のユキたちがやって来る可能性もゼロではないのだから。
・・・というわけで。
職員たちに助けを求めずに、真っ暗な穴の中を進むユキとイブ。
そして辺りが完全な闇に包まれた頃。
最早、歌を歌うことも小声で喋ることもなく、心底怖がっている様子で、イブはユキに話しかけた。
「・・・ねぇ・・・なんか寒くない?」
どうやら彼女は、先ほどの職員たちの話を聞いたためか、暗闇から魔王シリウスが、ヌッ、と現れるかもしれないと思っているようである。
・・・尤も、慣れ親しんだ魔王ではなく、その他の『得体のしれないモノ』が出てくることを恐れているようだが。
「(魔力が徐々に戻りつつあるので、冷気が漏れ始めたのかもしれませんね)・・・頑張って抑えます」
と言葉を返すユキ。
ただ、首についた魔力拘束具が原因で、どの程度魔力が回復したのかを把握することは出来なかった。
「え?ごめん。ちゃんと聞こえなかった・・・」
服が擦れた音と体勢的な問題か、はたまた、予想した答えとは大きく異る回答が返ってきたためか・・・・・・イブにはユキの声が良く聞こえなかったようである。
「いえ。大したことは言ってませんよ?すこし寒いかも知れません、という話です」
「・・・やっぱり?やっぱり君もそう思う?!」
泣きそうな顔をしながら、ユキに問いかけるイブ。
そんな彼女に、
「・・・少し休みましょうか」
ユキはそう提案した。
ただし、徐々に溜まってきた疲れや、怖がっているイブの事を考えた、という理由だけではない。
その理由をイブが口にする。
「・・・うん。もう、いい加減、手も足も痛くなってきちゃった・・・」
そう言って移動を止めると、その場で体育座りをして、イブは痛そうに膝と足を確認し始めた。
ずっと石の上を四つん這いで移動してきたために、常に地面に擦れる膝や足の甲が擦り切れていたのだ。
もちろんそれは、ユキも例外ではない。
故に、彼女は休憩を提案したわけだが・・・
「暗くてよく見えないね・・・」
「そうですね・・・」
真っ暗闇の中だったので、残念ながら、2人とも自分の身体の傷すら確認できなかった。
それからユキは、息遣いなどの気配だけでイブの居場所を察して彼女の隣に座ると、自分の傷への対処を始める。
「こういう時は」
ビリビリッ・・・
手の感触だけで、再びシーツを千切るユキ。
それを更に小さく分割すると、膝と足、そして手に巻きつけた。
即席の包帯兼サポーターである。
「これでよしっと。イブちゃんの方は自分で包帯巻けますか?」
「んー、巻きたいんだけど、真っ暗で見えないんだよね・・・」
そう言いながらも、どうにか自分のシーツを千切ろうとしている様子のイブ。
だが、うまくいかないらしく、半端ところまで破けては止まる・・・といった音だけが辺りに響いていた。
「・・・じゃぁ、ボクが巻きますね」
そう言ってユキは、
ビリビリッ・・・
再び自分のシーツを破って細かく分割すると、イブの足や手に巻きつけた。
その際、
「・・・すっごく暖かい・・・」
ユキの手が肌に触れて、そんな感想を漏らすイブ。
「暖かいですか・・・。よく、冷たそうだ、って言われるんですけどね・・・」
雪女だから、という理由だけで、これまで散々冷たい思いをしてきたユキ。
ミッドエデンでの冷たい食事も、その一例と言えるだろう。
「全然冷たくないよ?むしろ熱いくらい・・・って、風邪ひいてる?!」
そう言うとイブは、ユキの手を手繰り寄せて、感覚だけで彼女の額を探し当てる。
「いえ、これが私の普通の体温です」
自分よりもひんやりとしたイブの手を額に感じながら、苦笑を浮かべるユキ。
今の感覚だけで言うなら、余程イブのほうが、雪女に近いのではないだろうか。
「んー、なんかちょっと心配だけど、君がそう言うなら・・・・・・でもさ・・・」
すると、何か腑に落ちないことがあったのか、暗闇の中でイブは怪訝な表情を浮かべながら言った。
「なんか・・・・・・おでこが大っきい気がする・・・」
「え?」
イブのそんな言葉を聞いてから、なんとなく通路が狭く感じる・・・・・・ユキがそう思った瞬間だった。
グラッ・・・
「えっ・・・んなぁぁぁぁぁ・・・」
突然、イブの手が額から離れて、叫び声を上げたかと思うと、不意に彼女の気配が消えたのである。
「?!」
真っ暗闇の中で起った出来事に驚くユキ。
そして彼女がイブのいただろう空間に手を伸ばすと・・・
グラッ・・・
そこにはイブはおらず・・・・・・それどころか壁も無かった。
「えっ・・・なんっ・・・!?」
ズザザザザザ・・・
体勢を崩して、滑りだすユキ。
彼女が手を伸ばした真っ暗闇の向こう側では・・・
「きゃっ・・・!!」
・・・急な斜面が口を開けて待っていたのである。
次回、ユキ、暁に死す・・・・・・冗談なのじゃ。
・・・・・・いや、イブも死にはせぬぞ?
さて。
今日は、ワルツの所に押しかけてきた主殿と共に、久々のドライブに出掛けたのじゃ。
主殿は大切な人に会うとか言っておったが・・・どう見ても人ではなかったのじゃ。
で、どんな御仁かというと・・・ぬ?何じゃ主殿?ネタバレになるからやめろ?
・・・まさか、あの御仁を物語に出すと申すのか主殿・・・。
え?この物語ではない?
何じゃ・・・それなら言っても構わぬではないか・・・。




