14.19-16 強襲?16
そして、学院で繰り広げられていた戦闘は、ピタリとスイッチを切るように終了する。
地上にいた学生たちからすれば、敵兵たちの動きは不気味に見えていたに違いない。大隊の兵士たちが動くとき、そこに意味の無い行動はなど存在せず、すべて上層部からの指示があってこその動きのはずだった。
しかも、戦闘は、学院側の一部が活躍していたとはいえ、学院側が物量差で圧倒的に不利な状況だったのである。そんな状況の中で兵士たちが撤退するなど、普通は考えられないことだった。兵法について理解のある一部の学生たちや教師たちにとっては、尚更、気持ちの悪い状況だったはずだ。
とはいえ、その思考も、空に浮かぶ"何か"を考慮に入れなければ、の思考である。空には想像を絶する黒い"何か"が浮いていて、その中には(?)ポテンティアが乗っているらしいのだ。
学生たちは皆、ポテンティアの名前を知っていた。いや、むしろ、学生たちは、特別教室の学生たち全員の名前を知っていたと言うべきか。
特別教室の学生たちは、皆、有名な存在。出生や能力など、様々な理由から、学院関係者の全員が、特別教室の学生たちの名前を把握していたのである。まぁ、名前が顔と一致しているかは、また別の話だが。
そんな特別教室の学生の一人であるポテンティアが、"何か"を駆って、敵に対して降伏宣言を行った後、兵士たちが学院から立ち去っていったという状況だったこともあり——、
「もしや、敵は本当に兵を引いたのか?!」
「私たち、助かったの?!」
「や、やったんだ……。俺たち、生き残ったんだ……」
——間もなくして、学院関係者たちの間に、安堵の色が広がっていく。皆、戦闘に勝利したことを悟り始めたのだ。
そんな中、特別教室の学生たちは、というと——、
「ポテくんが助けてくれたの?」
「らしいな。だけど……」
「「あれ、なんだろ……?」」
「……黒いから分からん」
——襲撃の中で生き残ったことに安堵するよりも先に、空に浮かぶ黒い物体——空中戦艦ポテンティアに対して興味を持っていたようである。
しかし、空に浮かぶポテンティアの方に、自分の正体を皆に明かすつもりは無かったらしい。彼は地面に降りること無く——、
ゴゴゴゴゴ……
——と何も言わずにその場から立ち去っていった。まぁ、彼の場合は、分体たちがどこにでもいるので、わざわざ下りる必要が無かったということもあるが、今、この瞬間だけは、知った顔に合うつもりは無かったようだ。
理由はいくつかある。船内にマリアンヌが乗っていて、2人で地面に降りれば、クラスメイトたちからなんと言われるか分かったこと。あるいは、大量の兵士たちをどこにやったのか、と問いかけられたとき、返答する言葉が準備出来ていなかったこと。そんなところだ。
しかも、彼はこれから、穴に落とした兵士たちの後始末と、ワルツたちへの説明内容を考えなければならないのである。今の彼としては、余計に、クラスメイトたちと会話をする余裕は無いと言えた。
「ポテくん……」
地上に降りてくること無く、そのままどこかに消えていったポテンティアのことを慮っているのか、荒れ地に立っていたミレニアが、空を見上げて、ポツリと零す。
その一方で——、
「ポテ様……」
——ポテンティアの艦内では、何やら考え込んでいるポテンティアに向かって、マリアンヌが申し訳なさそうに、ポテンティアのことを見つめていたようだ。どうやらポテンティアは、主に女性から心配される気質(?)の持ち主らしい。
そしてそのポテンティアは——、
『(ワルツ様やカタリナ様にどう説明したものか……。まさか、数万の兵士を駅に落としたので、駅の中は縦に人がいっぱい……いえ、そんな直球な状況説明など、僕には出来ません……)』
——やはり女性たちへの対応に苛まれていたようだ。尤も、繰り返しになるが、彼に性別は無いので、説明に困る相手が女性だろうと、男性だろうと関係は無い。しかし、どういうわけか、彼の周囲にいる人物は、ほぼ100%、女性だったようである。
そんなこんなで、ポテンティアは、彼自身が知らないうちに近くの女性たちに心配されつつ、そして別の女性たちへの対応について頭を悩ませながら、ワルツたちが待っているだろう公都へと、空を飛んで戻っていった。
やさマイクロマシン?




