14.19-08 強襲?8
5人の神官の少女たちがワルツに向かって祈りを捧げていたその隣では、イブも危うく手を合わせそうになりながら、慌てて誤魔化していたようだ。一応、彼女は、ワルツが崇められたり、祀られたりすることを嫌がると理解していたらしい。
ちなみに、イブより更に年齢の低いローズマリーや飛竜は、何の疑問も抱くこと無く、ワルツに向かって手を合わせていたようだ。本心か、あるいは右に倣っただけかは不明だが、ワルツに祈りを捧げることに悪気といったものを感じていないようだ。なお、シュバルは虚空に出来た真っ黒空間のような存在なので、手を合わせているのかどうか不明である。
対するワルツは、手を合わせる神官たちに対して文句は言えなかったものの、神官長には文句の一つでも言ってやろうと考えていたようだ。
「ちょっとカタリナ?これ、どういうこと?」
「ワルツさんを崇め、倣うことで、学問の高みへと辿り着こう……皆にはそう教えております」
「なんかその教え、間違っているわよ?」
倣うのは別に構わないが、崇めるというのはどういうことなのか……。ワルツは説明を受けるも理解出来なかったようである。いや、頭が理解することを拒否していた。
カタリナやその周りの者たちにとって、"ワルツ"という存在は、崇められるほど大きな存在だったのだ。それに気付いていないのは、ワルツ本人だけ。そんな彼女は、なぜ自分が崇められるのか、考えた事は無かったようである。過去から今日まで。そして今日から未来にかけて、恐らくずっと。
まぁ、それはさておき。
「では、皆さん。早速、怪我人の方々を助けて回りましょう。まずはトリアージです。ここに来る前に説明した通りの経路で城の中を回り、重傷患者の順に治療を行っていきます」
「「「「「はい!カタリナ先生!」」」」」
「(いやいやいやいや、ここに来る前に、ってどういうこと?)」
ワルツはカタリナに問いかけたかった。しかし途中で言葉を止める。今、この瞬間も、命を落としかけている者がいるかもしれないのだ。下らない質問でカタリナたちの行動を止めれば、死人が出る可能性を否定できなかった。
「(事前にこの城のことを調査していたの?ここで戦争が起こることを予期していた?……いえ、そんな事はありえないわ。私だって、さっきまでレストフェンが戦争状態にあることを知らなかったんだもの)」
なぜカタリナたちは、公都の城の内部形状を把握しているのか……。そんな疑問を抱いたワルツは、薄ら寒さを感じていたようだ。可能性として考えられることは限られていたが、そのいずれもが碌な事ではなかったからだ。
「(流石に、この戦争を引き起こした原因がカタリナたちだってことはあり得ないでしょうけれど……そうじゃないとすると、ずっと私たちのことを監視しているか、私たちの行動範囲を常に調べ続けているってことよね……)」
いずれにしても、カタリナはヤバい……。ワルツは何度となく思ったその考えに今日もまた至っていたようだ。
ワルツが混沌とした思考に陥っている間も、カタリナと、彼女の弟子たちによって、城内の怪我人の手当が進められていく。死にかけた者たちや、心肺停止した者たちなどなど……。この世界の医療技術では救えないはずの者たちまで、片っ端から救っていく。
結果、城に押し入った敵兵士たちによって命を落とした者たちは0人。多少、後遺症が残る者はいるかも知れないが、人的な被害は可能な限り抑える事に成功する。
そして、一通り城の中での医療行為が終わった後は——、
「では、私たちは町に行きます」
——城の外での人命救助。町の中で怪我を負っただろう兵士、市民たちの治療だった。公都そのものが攻撃を受けたのだ。城の中だけでなく、町の中でも、同じような状況になっていたのである。城内を遙かに上回るような大きな被害が出ているに違いない。
カタリナに続いて外へと出て行くイブたちや神官たちの後ろ姿を見送りながら、ワルツは呟く。
「心強いというか、なんというか……」
この気持ちをなんと表現すれば良いのか……。ワルツは微妙そうな表情を浮かべていた。
そんな彼女の隣に、ルシアとテレサが立つ。
「すごいよね。カタリナお姉ちゃん」
「妾には辿り着けぬ高みなのじゃ」
「うーん……そうね……ちょっと、なんか……うーん……」
せめて2人には、カタリナのようになってほしくない……。本心ではそんな事を考えるワルツだったが、彼女は同時にこうも考えていたようだ。
……もう手遅れなのではないか、と。
神官5人が全員狐娘である可能性。




