14.19-06 強襲?6
吸引力の変わらない掃除機よろしく、公都周辺にいた兵士たちは皆、ジョセフィーヌの城に転移させられていき、一人一人丁寧に葬られていった。とはいえ、死人が出たわけではない。皆、ワルツたちから重い一撃を受けるなどして、昏倒させられたのだ。
そこに強さも弱さも関係無かった。新兵から老兵、傭兵から騎士、そもそも兵士ではない従者や商人に至るまで、老若男女、侵略行為に関わったすべての者たちが例外なく対象となった。
そして、一人残らず意識を刈り取った後は、強制送還だ。
「うわぁ……人混みだらけだね」
「えっ?人がゴミのようだって?」
「言い得て妙なのじゃが、一応、生きておる人間たちゆえ、ゴミ扱いはよろしくないのじゃ?」
と言いつつ、ワルツたちは相談する。
「で、通路に詰まるくらい連れてきた訳だけど、そろそろ最初に意識を刈り取った人たちが目を覚ますから、送り返さなきゃダメよね」
「でも、この人たちどこから来た人たちなんだろ?」
「知らぬのじゃ。ア嬢が必要なことを聞く前に昏倒させてしまったからのう」
「あ゛ぁ゛?」ビキビキ
「……まぁ、聞いたところで、正確なことを喋ったとは限らぬが……」
ルシアの眼力(?)に負けたのか、彼女から視線を逸らして小さく弁明するテレサ。
その間、ワルツは、何かを考えていたらしく、こんなことを言い始めた。
「あ、そうだ。ここの兵士たちだけど、例のブレスなんとかって国に送り込んでみない?」
ワルツたちが帝都にいたときに、超遠方から攻撃を加えてきた謎の国ブレスベルゲン。そんな国に嫌がらせをするために、ここにいる国籍不明の兵士たちを送り込めば良いのではないか、とワルツは思い付いたらしい。
「もしかすると、この人たち、元々ブレスなんとかって国から来たのかも知れないし……」
ジョセフィーヌが意識を取り戻せば、兵士たちがどこから来た者たちなのか、判別が付くはずだった。しかし、今のジョセフィーヌは、ボロボロになったベッドの上で就寝中。兵士たちがどこから来たのか聞ける人物は誰もいなかった。
本来であれば、ジョセフィーヌが起きるまで待って、兵士たちの処遇を決めるか、他に誰か事情を知っている者に聞くかをすべきなのだが、ワルツとしては正確な情報を得て対処をするよりも、ブレスベルゲンに対して嫌がらせをする方を優先したかったようである。今のところ、彼の国からは一方的に攻撃を受けただけで、ワルツたち側からは反撃していないのだ。反撃とまでは言わないものの、嫌がらせの一つでもしたいというのが、彼女の心情だったらしい。
そんなことをすれば、送り込んだ兵士たちの処遇が彼の国でどうなってしまうのか、分かったものではなかったものの——、
「あ、いいね。それ」
——ルシアも賛成だったようだ。彼女もやられっぱなしというのは、性格的に気に入らなかったのだ。
残り一人、テレサだけは——、
「あぁ……可愛そうに……」
——大きな声では言わなかったものの、これから先、兵士たちを襲うだろう苦難を慮って嘆いていたようである。それでも反対しなかったのは、基本的にはワルツたちの考えに賛成だったからか。
ちなみに……。ワルツたちは、集めた者たちが、ただの兵士たち、あるいはその関係者だと思っている。しかし実際の所は、ただの兵士たちや従者たちだけでなく、指揮を執る存在として貴族たちも含まれており、その中には北の国の王までもが含まれていた。常識的に考えて、どこか知らない場所に転移させてはならない人物だ。まぁ、片っ端から問答無用で黙らせていったので、誰が誰なのか、ワルツたちには分からなかったのだが。
そして——、
「ブレスベルゲンってどこかなぁ?」
「まぁ、適当で良いんじゃない?コルテックスから共有して貰った地図には、西北西の方角で、大きな森の向こう側って描いてたから……ここから2000km先ってところが妥当な距離じゃないかしら?」
「おっけー」
ブゥン……
情け容赦の無い重低音が、意識の無い兵士たちに襲い掛かる。転移魔法の音だ。その瞬間、公都の城の中にいた人々は、ここから2000km離れたどこか知らない場所に転移させられたのだ。その数、およそ3万人。場合によってはそれらの兵士たち、あるいは貴族、国王たちを含めて全員処刑されるかも知れないのだから、国家としては大損害。襲撃を受けたブレスベルゲンとしても、身代金の要求や、損害賠償をするための証拠となるので、やはり転移させるべきではないのだが……。政治に詳しくないワルツたちは、そこまで頭が回らなかったようだ。
戦争に勝ったとき、相手国に損害賠償請求をしないと国家が破綻する……。そんな気がしてならぬのじゃ。




