14.19-05 強襲?5
公都に入り込んだ兵士の数は今のところ不明である。1万人を下らないのは確かなはずだ。公都の壁は巨大であり、そう簡単に陥落するものではないからだ。
公都が陥落寸前にまで追い込まれ、城の中にまで兵士たちが入ってきたとなると、入り込んだ兵士たちの数は数百から数千といったところだろうか。まぁ、この際、数などはどうでも良い。多かれ少なかれ、城に入ってきた彼らにとって——、
ズドォォォォン!!
ドゴォォォォン!!
ドゴシャッ!!
——と碌な抵抗も出来ずに、吹き飛ばされていく光景は、ただひたすらの悪夢。しかも、それをやっているのが年端もいかない少女たちだというのだ。その光景が本当に夢なのではないかと疑ってしまうのは、兵士の数に関係無いと言えるだろう。
「邪魔」
ズドォォォォン!!
背の小さな少女が、分厚い鎧を着ているはずの兵士の鳩尾に、拳を突き立てる。むしろ、指を当てただけだ。それだけで、兵士の鎧はぐしゃりと変形し、重いはずの兵士の身体が軽々と吹き飛んでいく。
「お姉ちゃん、力加減ちゃんと調整してるのかなぁ?」
ドゴォォォォン!!
金色の髪の狐娘が、緑色の魔法を兵士たちへと叩き付ける。それは回復魔法特有の色だが、その戦場においては正しく凶弾。たとえ物陰に逃げようとも透過して人に当たり、当たった人間はトラックに吹き飛ばされたかのように地面を軽々と転がっていった。
「……少しは妾の心配もして欲しいのじゃが?」
ドゴシャッ!!
そんな中で異様だったのは、銀色の髪をもった狐娘だった。彼女は特に攻撃をしていたわけではない。彼女に近寄ったり、視線を向けたりするだけで、兵士たちはなぜか金縛りを受けたかのように固まり、動けなくなってしまうのだ。そんな兵士たちの存在に気付いていないかのように、その狐娘が廊下を真っ直ぐに歩いて行くと、当然、兵士たちにぶつかるわけだが、まるでその狐娘が圧倒的に重いかのように、皆、軽々と押し倒されていくのである。
例えるならシュレッダーだ。それそのものの速度は大した速さではないが、凄まじいトルクで対象を引き寄せて粉砕していくのである。その銀色の髪の狐娘の場合は——、
グシャァッ!!
「ギァァァァッ!!」
「おっと、失礼。また踏んでしまったのじゃ」
——身動きが取れなくなった兵士の上を歩くだけ。それだけで、兵士たちの鎧は軽々と拉げ、中にいた兵士が悲鳴を上げた。
「ちょっとテレサちゃん?怪我させてるの、テレサちゃんだけだよ?」
「仕方ないじゃろ?人混みの中を歩いておれば、踏んづけてしまうのは当然なのじゃ。気付いておるなら、ア嬢が回復魔法を掛ければ良いじゃろ?」
「骨折してるかも知れない人に回復魔法を?きっと拉げた鎧の中で、変な風に骨がくっついて、一生鎧を脱げなくなるんだろうなぁ……。それをやれって言うんだから、テレサちゃんはひどいなぁ……。別に私は良いんだけどね」
「…………」
そんなやり取りをしながら、3人の少女たちが前へ前へと進んでいく。
3人がしばらく進んでいくと、兵士の中でも相当腕の立つ部隊長のような人物と出会す。
「ヤーヤーヤー!我が名h——」ドゴシャッ
「喋っている暇があれば、逃げれば良いのに」
何かを言っていた兵士が吹き飛んでいった。
しかし、その吹き飛ばした少女——ワルツの発言とは裏腹に、兵士たちは逃げない。そればかりか、相手の方から近付いてくる。それも——、
「うぉぉぁぁぁぁぁっ?!」
「逃げられないぃぃぃっ?!」
「引き寄せられていくぅぅぅっ?!」
——皆、自分の意識とは無関係に、3人の少女たちの方へとものすごい勢いで引き寄せられていたようだ。
それを3人は、作業のように処理していく。
「ちょっと、ルシア?みんな、悲鳴を上げて近付いてくるんだけど、何かしてない?」
「えっと……逃げられたら追いかけるのが面倒だから、全員引っ張ってる?あと、外に逃げた人たちや、元々外にいる人たちも転移魔法で連れてきてる?」
「……なるほど。道理で、妾がたたらを踏んでおるだけで、足の下に人々が現れるのじゃな……」グシャッ
気付くと、城の中には、元々城の中にいた人々よりも多くの兵士たちが集まっていた——いや、集められていたようだ。その数は数万にも上り、通路という通路、庭という庭、広場という広場に、拉げた鎧や武器を持った兵士たちが積み上げられていた。
しかも全員、生きているらしい。中には意識があった者もいたようだ。
そんな、為す術無く積み上げられた兵士たちが何を思ったのかは不明である。ただ、彼らの内の誰かは、きっとこう思っていたに違いない。
……自分たちは、絶対に敵に回してはならない種類の化け物を、敵に回してしまったのだ、と。
剣技や魔法が使えたからといって、工作機械のプレスに耐えられるとでも?




