14.18-35 国家運営?35
魔神「(ま、拙いわ……。2人の話について行けない……)」
後ろから飛んできたジトッと粘つくような呼びかけに対し、テレサは一瞬本心を表情に出してしまったものの、幸い、その表情を誰かに見られる事は無かった。ゆえに、一旦、彼女は心を落ち着かせて、そして冷静に考える。
対して、問いかけたルシアからすると、テレサは自分の問いかけに答えず黙っているように見えていたようだ。まるで怒っているかのように。
「……?テレサちゃん?」
今度はまともな口調で問いかける。すると、ようやくテレサが返答した。
「……考えておったのじゃ」
「考えてた?何を?」
「アステリア殿の劣等感を払拭する方法を、の」
「……アステリアちゃんの毛並みの触り心地を、じゃなくて?」
「…………」
「否定しないんだ」じとぉ
未だアステリアを抱えたテレサに対し、再びジト目を向けるルシア。それから彼女は、意識の無いアステリアのことを空中に浮かべて、自身の手元に移動させた。アステリアを抱えるテレサの手つきが怪しく見えたらしい。
「あっ……」
「何?」
「い、いや……なんでもないのじゃ……」げっそり
そう言って、ゲッソリ——いや、しょんぼりとするテレサ。そんな彼女は、なんでもない、と言った手前、しょんぼりとしていた姿を指摘されたくなかったためか、すぐに表情を改めて……。そしてルシアに問いかける。
「一部始終を見ておったゆえ分かるとは思うのじゃが、アステリア殿には特殊な能力があるようなのじゃ」
「何かを数えるのに、人混みとか壁とか関係無くて、しかも一瞬で数えられちゃうって能力だよね?」
「うむ。それを生かして、アステリア殿の劣等感を払拭する方法は無いかと思っての?」
それはアステリアのことを心配した本心の発言だった。ルシアもそのことは否定しない。彼女も同じように、アステリアのことを心配していたからだ。
ただ、ルシアの場合は、少し違う観点でアステリアの能力を見ていたようだが。
「アステリアちゃんのあの能力ってさ、多分、魔法でしょ?壁の向こう側にいる人の数まで一瞬で数えられるとか、それ以外に考えられないもん」
「まぁ、そうじゃろうのう」
「ポテちゃんの数を数えようとして倒れちゃったのって、多分、魔力切れなんだと思う。ポテちゃんって数多いし。億どころか、兆の単位でいるんじゃないかなぁ?」
「ふむ……。矛盾はしておらぬかのう」
「で、思うんだよね。アステリアちゃんの使う魔法って、単純な魔法じゃないんじゃないかな、って。多分、複合魔法」
「……壁の向こう側を覗き見る魔法と、数える魔法……いや、更に細分化できる、とな?」
「詳し事は分かんないけど、アステリアちゃんは、複数の魔法をいっぺんに使っちゃう癖っていうか、特技っていうか……そんな感じなんだと思う。そこを修正したほうがいいのか、伸ばしたほうがいいのかは分かんないけど、どうにかすれば、すごい魔法の使い手になるんじゃないかなぁ、って思うんだよね」
自身のようにあり余る力を振りかざすタイプの魔法使いではなく、様々な魔法を細かく組み合わせることで色々な事が出来る器用な魔法使い。アステリアなら、そんな者になれるのではないか、とルシアは考えたようだ。
それは、ルシアだからこそのアイディアだった。彼女は魔力の権化とも言えるような自分のあり方について常に考えていて、その逆に、保有する魔力が少なくても、器用に魔法を使いこなす魔法使いが世界のどこかに存在するのではないか、とも考えていたのである。力を持て余す魔法使いがいるのなら、器用すぎて意味が分からないほど複雑な魔法を使える魔法使いもいるはず……。そんな考えだ。
「未だ分かんないけど、化けるんじゃないかなぁ……アステリアちゃん」
「まぁ、リアルタイムで化けてはおるらしいがの」
「えっ?」
「いや、何でもないのじゃ」
そう言って、テレサは話を誤魔化した。現状、アステリアの正体を知っているのは、テレサとポテンティアの2人だけだからだ。まぁ、テレサたちは知らない体を装っているので、アステリアは誰も自分の正体を知らないと思っているようだが。




