6中-20 迷宮の外で3
そして修正したのじゃ。
うら若き女性(?)が怪しげな男に誘拐される・・・。
10割方、碌なことにはならないだろう。
しかし、捕まったのは魔王である。
普通なら捕まえる前に、逆に男の方がトンデモナイことになるはずなのだが・・・
「どうして捕まったの・・・・・・って、無理してたのね・・・」
ユキは、回復魔法を受けたとはいえ、先程まで迷宮の中で魔力を吸い尽くされていたのだ。
そんな病み上がりの状態で、膨大な冷気を発しながら走ったらどうなるのか。
・・・言うまでもなく、魔力も体力も失ってしまうはずである。
結果、弱ってしまった所を誘拐されてしまった、ということなのだろう。
「私たち、ユキさんのことを追いかけてたんですけど、途中で霧のようなものが出たせいで見失っちゃって・・・」
と申し訳なさそうな表情で報告するシルビア。
(空気が冷えすぎて、本物の霧が出たんでしょ?きっと)
恐らく、ユキの大出力氷魔法のために、周囲の気温が下って飽和水蒸気量が低下し、空気中の水分が凝結した結果、霧が発生したのだろう。
以前、サウスフォートレスに設置した霧発生装置が作り出すものと同じ原理である。
「その後、周囲を探したら、霧の出ていない場所に、火の付いた瓦礫が残っている場所がありまして・・・」
「で、その火に当たっていたと・・・?」
シルビアの言葉よりも先に結論を答えるワルツ。
彼女の中では、ユキ = 炎の精(?)なので、熱源があれば誘導ミサイルのごとく近づいていくと思っているらしい。
「えっと・・・私たちが気づいた時点で、意識を失っていたみたいでしたので、炎に当たっていたかどうかは分かりません。ただ、身長はずいぶん小さくなっていましたね・・・」
と言いながら、シルビアは、ワルツの後ろに浮かんでいたユキB〜Fたちに怪訝な表情を浮かべた。
が、直ぐに、まるで見なかったようにして、視線をワルツに戻す。
「それで、様子を見るために近付こうとしたら、黒いローブの男が・・・こう、ガッと」
「そうです。シリウス様をガッと・・・」
揃って、何やら腕で首を締める仕草をするシルビアとユリア。
2人共違う仕草で首を締めていたが・・・いずれにしても無事に生きていなさそうな首の締め方である。
「・・・よく分かんないけど・・・それで貴女たちはどうしたの?」
「もちろん、連れ去るのをどうにか妨害しようとしましたよ?・・・ですが、目の前で転移魔法を使われて・・・」
「命を賭すにも、既にシリウス様は・・・うぅ・・・」
「・・・そう。そればっかりはどうにもならないわよね・・・っていうか、ユリア?そこ命を賭すところじゃないと思うわよ?」
2人にそう返しながら、昨日、目の前でイブのことを連れ去った男のことを思い出そうとするワルツ。
するとユリアが、追加の情報を口にした。
「しかもあの男、去り際に意味不明なことを呟いていたんですよ。確か・・・『BBAには興味ない』・・・だったっけ?後輩ちゃん?」
「『JKにも興味はない。もっと下だ』、じゃなかったでしたっけ?一体、どういう意味なんでしょうか・・・?」
「・・・うん。多分、頭がおかしくなる呪いみたいなものだと思うから、知らなくてもいいと思うわ。私も知らないし、知りたくもないし。それでも、強いて言うなら、精神異常者か異常性癖者ね」
『はあ・・・』
ワルツの言葉に、それ知ってるって言うんじゃ・・・、と思わなくもないユリアとシルビア。
ちなみに、その話をしている間、近くにいたルシアの耳を、ワルツはさり気なく両手で塞いでいたりする。
(っていうか、完全にこの世界の住人じゃないじゃん・・・それも、犯罪者みたいだし・・・。捕まえたら、即、警察行きね・・・・・・無いけど)
ミッドエデンに警察機構を作ろうかと思いながら、ワルツは、ルシアの耳から放したその手を、今度は頭痛を押さえるようにして自分の額に持ってきた。
「ま、とりあえず、それはいいわ。今はとにかく、ユキがどこへ連れ去られたのかを探さないと。なんか、犯人の風貌を聞いた限りだと、私が昨日見たイブの誘拐犯と風貌が似てるみたいだし・・・。何より、急がないと彼女たちにどんな危害が加わるかも分からな・・・・・・イブはもうダメかもね・・・」
『えっ・・・』
突然諦めたワルツに、呆然とする3人。
ルシアは、直前のやり取りが聞こえていなかったので、全く理解できていない様子である。
「っていうか、見つけたとしても、転移魔法使われたら追いかけようがないじゃない・・・」
「え、えっと・・・カタリナお姉ちゃん、いないしね・・・」
ワルツが完全に諦めたわけではないことを知って、安堵の色を浮かべるルシア。
(この際、カタリナをここに呼ぶ・・・・・・のは無しよね)
そう考えながら、ワルツはボロボロになったプロティー・ビクセンの町並みの方へと目を向けて、難しい表情を浮かべた。
もしも、今の状態のビクセンにカタリナを連れてきたなら・・・相当なショックを受けることだろう。
「・・・もう、転移魔法を使われる前に問答無用で殺るしかないわね。サーチアンドデストロイよ?」
「・・・ですが、どこに行ったか皆目見当が付きませんよ?」
「・・・そうよね。無線機も持たせてないし・・・」
誘拐された2人を探そうにも、転移された時点で生体反応センサのマーカーは役に立たなかった。
あるいは無線機を持たせていたなら、ハッキングを掛けてビーコンを発生させ逆探知するという方法もあったが、そもそも無線機を持っていないので、この方法も使えなかった。
要するに、まさにお手上げの状態だったのである。
・・・但し、彼女の手の届く範囲に限定すれば、の話だが。
そしてワルツは、苦い表情を浮かて、頭を掻きながら後ろを振り返ると・・・・・・これまでの自分の行いを反省しながら、最後の手段に出るための準備を始めたのである。
一方、その頃。
「・・・・・・?」
どこか、がっしりとした部屋・・・所謂、牢獄のベッドの上でユキは目を覚ました。
彼女が目を覚ます時は、実は、いつも寒さで目を覚ますのだが・・・この時は寒いとは感じなかった。
どうやら、魔力が切れているためか、いつも勝手に垂れ流されるようにして生じる冷気が今は止まっているらしい。
彼女がそんな違和感を感じながら目を開けると、
「あ、気付いた?」
「・・・イボンヌ・・・ちゃん・・・?」
犬耳の少女イボンヌ・・・もとい、イブが、すぐ近くで自分の覗き込んでいた。
まだ身体が怠いためか、それともあまりに顔が近すぎたためか・・・イブの顔を見た後で、再び目を閉ざしながらユキがそう呟くと、
「違っ!だーかーらー、イーブーでーすーーーっ!」
イブは全力で抗議の声を上げた。
どうやら、元気だけはあるらしい。
だが直ぐに彼女は、ん?、という疑問の表情を浮かべると、不思議そうな顔をして、ユキに問い掛けた。
「あれ?どうして君は、私のことをワルツ様と同じ呼び方で呼ぶの?」
「えっ・・・?」
そんな彼女の問いかけに、ユキは違和感を感じる。
本当ならイブは、自分が変身する前と後の両方の姿を知っているはずだが、目の前の彼女は、自分のことをまるで初めて出会った人、といった様子で話しかけてきたのだ。
それも、先日までは『魔王様〜』と言って慕っていたにも関わらずである。
そんな時、ユキは、ここに来る前のことを思い出した。
「(あ・・・ボク・・・ワルツ様に顔を合わせられなくなって・・・・・・それから逃げて・・・・・・そして暖かい焚き火があったから、フラフラ〜って近づいて行ったら意識を失って・・・)」
つまり、今のボク、小さくなってるんですね・・・、と気付いた頃には、ようやくユキの意識もはっきりとし始めた。
「・・・あれ?そういえば、何でこんな所に・・・・・・って・・・イブちゃんがここに居るんですから、私も捕まったんですよね・・・」
自分が置かれている状況を把握し、深くため息を吐くユキ。
「えっ・・・誰・・・」
まるで、自分のことを知っているかのように話すユキ(小)に対して、そんな疑問を口にするイブ。
そんな彼女に自分の正体を説明しようと、ユキが身体を起こして、視線をイブに向けると・・・
「っ?!」
「・・・?」
・・・どういうわけか、一糸まとわぬ姿のイブがそこにいたのである。
「ど、どうして裸・・・!ま、まさかっ・・・?!」
「え?」
全裸姿のイブに、顔を青ざめるユキ。
「・・・こ、こんな子にまで手を出すほど異常な輩が・・・鬼畜の所業です!」
そして彼女は口に手を当てると、まるで自分のことにように涙を零した。
・・・が、どうやらユキが考えたようなことは起こっていないらしい。
「どうして裸かって?なんか、頑張って何度も逃げ出そうとしてたら、みぐるみはがされた?的な?・・・みぐるみって何か分かんないけど・・・・・・で、誰?」
「・・・えっ・・・そ、そうですか・・・よかったぁ・・・」
そんなイブの言葉に、ユキは胸を撫で下ろした。
・・・と、そこで、自分の手が直接胸に触れたことで、ユキはとあることに気づく。
「私も裸・・・・・・も、もしかして、襲われた?!」
薄手のシーツ一枚以外に何も身に着けていないことに気付いたユキは、再び青ざめた。
・・・だがやはり、暴行された、というわけではないらしい。
「多分、私が逃げ出さないようにだと思うんだけど、さっきそこで裸にされてたよ?」
と、牢屋の出入り口付近を指さすイブ。
「っていうか、君みたいな子ども、誰も襲わないと思うんだけど・・・もしかして、おませさん?・・・じゃなくて、ホント、誰?」
「・・・なんか・・・小さくて、ごめんなさい・・・」
イブに子ども呼ばわりされて傷つきながらも、自分の身体を弄って、異常が無いかを確認するユキ。
・・・結果、やはり問題は無いようである。
「変な子ども・・・」
ユキにジト目を向けるイブだったが、彼女が何者なのか全く語ろうとしないので、結局問いかけるのを諦めたようであった。
ちなみに、現在の身長は、イブが120cm(7歳児程度)、ユキが110cm(5歳児程度)。
普段から見慣れている者でなければ、例えイブでなくとも、誰も彼女がこの国の皇帝だとは思わないのではないだろうか。
まぁ、ワルツの後ろで寝かされているユキB〜Fは80cm台なので、それどころではないのだが・・・。
「うーん・・・でも、最近どっかで見たことある気がするんだけど、全然思い出せない・・・」
どういうわけか泣きそうな表情を見せながら自分の胸に手を当てているユキの姿に対して、変人を見るような視線を向けながら、イブがそんな独り言をつぶやいていると・・・
カツン、カツン、カツン・・・
牢屋の外の廊下を、2人分の足音が近づいてくる音が聞こえてきた。
「・・・ウゥゥゥ・・・」
そんな足音に、尻尾を膨らませながら、威嚇するようにして唸り声を上げるイブ。
そしてしばらくすると、なにやら黒いローブを頭から被った男2人組が牢屋の前までやってきて・・・
「・・・なんだ、新しいやつを捕まえてきたのか?」
「あぁ。外で行き倒れてたから可哀想になってな・・・」
「・・・殴っていいか?魔神に気づk」
「あ゛?こんなかわいい子どもに手ぇ出すと思ってんのか?」
「・・・」
・・・ユキとイブを見てから突然喧嘩を始め出した(?)。
「・・・まぁいい。お前の趣味は理解できないが・・・腕は買っているつもりだ」
「てめぇ・・・ロリコンのどこが悪いってんだ!あ゛ぁ?!しかも犯罪じみたことはしない、子どもに優しいロリコン(?)だっつってんだろ!」
「・・・すまない・・・理解できない俺が悪いんだ・・・気にしないでくれ・・・」
「・・・っ・・・!す、素直なのはいいことだと思うぞ?」
「・・・」
急に顔を赤らめた自称ロリコンに対して、疲れた・・・、といった様子のローブの男。
そんなローブの男が、ユキを見た瞬間、
「・・・?」
「・・・?!」
2人の間に衝撃(?)が走った。
何故なら彼が、
「誰かによく似てるような・・・」
「(カペラ・・・?!)」
ユキが大河を渡る時に、色々な意味で世話になった河渡しの男だったからである。
「わ、ワルツ・・・やめっ・・・あっ・・・なのじゃ・・・zzz」
「もう食べられないよ・・・zzz」
カサカサッ・・・
(じーっ・・・)
カサカサッ・・・
(・・・・・・・・・・・・!)
カサカサカサカサ・・・・・・




