14.18-34 国家運営?34
「アステリア殿が得意な事は何かの?」
人は誰しも、苦手なことだけではなく、得意な事、あるいは好きな事を、何か一つは持っている生き物である。例えばテレサの場合。森の中に入って、誰よりも先に、狐の気配を感じ取る特技があったりなかったり……。
そんな特技が、アステリアにもあるのではないか、とテレサは考えたらしい。そして、彼女の特技を伸ばしてやれば、劣等感に打ち勝たせることができるのではないか……。それがテレサのアイディアだった。鉄板と言えば鉄板な方法である。
対するアステリアは、テレサに言われるがまま、得意な事が無いかを探そうとした。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………?」
「………………思い付かないです」
「いやいや、何かこう、あるじゃろ?」
もはや、劣等感の塊である事が特技なのではないか、とすら思えるほど、特技を思い付けなかったアステリアからは悲壮感が漂っていた。
そんな彼女に代わって、テレサが特技を考えてみる。
「植物魔法とか、走るのが速いとか、寿司の気配を感じ取ることに長けておるとか……」
「寿司の気配……?」
「ア嬢の話ゆえ、忘れて欲しいのじゃ。まぁ、そんな感じで、アステリア殿にもあるはずなのじゃ。特技が」
「寿司の気配……」
「いやもう、それは忘れて欲しいのじゃ」
例として悪かっただろうか……。後ろから何やらレーダーのようなもの(?)を起動し始めた狐娘の気配を感じ取ったテレサは、少しだけ後悔する。アステリアに対する助言になっていなさそうだったことも、後悔の理由かもしれない。
だが、どうやらその考えは杞憂だったようだ。もちろん、後者の話だ。アステリアは何かを思い付いたらしく、ふと明るい表情を見せる。
「え、えっと、お金を数えるのは得意です!」
「お、お金を数えること……?」
「たとえば、小銭がたくさんあったとしても、すぐに全部でいくらあるのか、数える事が出来ます。妹も似たような特技があったので、種族的な特徴なのかも知れません」
「種族……遺伝的に、金を数える特技があるとな……(代々、お金に困っておる家系なのかも知れぬのう……)」
はたしてそんな事などありえるのだろうか……。そう考えつつも、しかしテレサは否定しない。ここでの目的は、アステリアに劣等感を払拭して貰うことだからだ。
「では、その特技を発展させてはどうかの?」
「発展させる?お金を数える特技をですか?」
「短時間で貨幣の数を数えられるというのであれば、貨幣以外のものを数えることも出来るはずなのじゃ」
「えっ……いえ、そのようなこと……」
「例えば、ほら、ここから見える帝都民の数はいくらかの?」
「えっ?124550人ですけど……」
「……じゅ、じゅうに……」
「124550人。あっ、今、赤ちゃんが産まれたようなので、124551人になりましたね」
「な、なぜ分かる……」
「なぜ分かるって……あっ……」
どうやらアステリアには、壁の向こう側に隠れている人の数まで把握する力——いや、正確には、何かを一瞬で数える力があるらしい。れっきとした特殊能力だ。
その能力に、アステリア本人が気付いていなかったらしく、彼女はテレサに言われずとも、その力を使って、色々なものの数を数え始めた。
「鳥は大小含めて2032羽、家の件数は——」
アステリアは嬉しかった。劣等感の塊であるはずの彼女からしても、その能力は特殊と断言出来るほどのものだったからだ。
ゆえに、彼女は、数えてはならないものを数えてしまう。
「ポテ様の数は————あっ」
バタッ
アステリアの意識が暗転する。能力の限界を超えるほどの数を数えようとして、負荷が掛かったらしい。
そんなアステリアのことをテレサはすぐに支えた。この時、テレサは、責任を感じていたようだ。アステリアの能力を発掘したはいいが、時と場合を考えるべきだったか、と。
アステリアのことを心配するテレサに対して、後ろから声が飛んでくる。
「テーレーサーちゃーん?」じとぉ
その声が、誰の声で、どのような声質だったのかは、言うまでもないだろう。そして、もう一つ。アステリアを抱えるテレサの表情が、どのような表情になっていたのかについても同様だ。
なお、アステリア殿の妹の方は、数える事より集めること、作り出すことの方が、得意なのじゃ。




