14.18-26 国家運営?26
ワルツとルシアが町の人々をどうすべきかで話し合っているその反対側で、アステリアの魔法の準備が進む。
とはいえ、詠唱類いがあるわけではない。アステリアは静かに植物を操作する魔法を練っていった。その様子を隣で見ていたテレサも、もうどうにでもなれ、といった様子で、一言も口にはしなかった。彼女には出来る事が何も無いので、今回は完全に傍観者だ。
それゆえに、ワルツとルシアは、アステリアの行動に気付くのが送れてしまう。2人が気付いたのは、アステリアが魔法の準備を整え終えて、実際に魔法を行使した後の事になった。
正確に言えば、2人はアステリアの魔法そのものに気付いた訳ではない。アステリアが魔法を使った結果、生じた物理現象に気付いたのだ。
ゴゴゴゴゴ……
「「地震?!」」
小刻みな振動と低い音が、町中に響き渡る。もちろん、地震などではない。アステリアの魔法の結果だ。
その証拠に——、
メキメキメキメキ……!!
——帝都にあった道の真ん中に、見る見るうちに一本の植物が生えてきた。それもただの植物ではない。
「あれは……いや、まさか……」
「あれって、月に生えていたのと同じ植物……だよね?」
地面から生えてきた植物は、高さが2mで、太さが30cmほどの、ゼンマイのような植物。しかもその表面は金属質で、月面研究所の所々に生えているなぞの植物だった。本来、惑星アニア上には生息しないはずの植物である。……少なくともワルツたちは、そう考えていた。
ゆえに、その植物を見た途端、ワルツは慌てて状況を整理しようとする。そもそも彼女は、この瞬間まで、アステリアが魔法を使ったことを知らなかったのだ。
「何が起こったの?!」
その疑問にルシアが答える。
「えっと……多分、アステリアちゃんの魔法?」
「ちょっと、アステリア?!もしかして、月から植物の種を持ってきちゃった?!」
ワルツは慌てて問いかけた。というのも、月の植物の植生が分からないので、地上で月の植物を育成することに問題が無いか、不安だったのだ。外国から輸入した外来種の植物が、在来種の植物や昆虫、あるいは動物を駆逐するのは良くある話。学院周辺で在来種の植物が大木化した件と比較しても、別次元の話なのだ。
ワルツのその慌てぶりに、アステリアもまた慌てて——、
「い、いえ、違います!適当に育てようと思って地面に魔力を通してみたら、月にあったものと同じ植物が生えてきただけです!」
——と首を横にブンブンと振りながら、月面研究所から種を持ち込んでいないことを主張する。
「……本当?」
「ほ、本当です!嘘じゃないです!」
アステリアは、必死になって、ワルツの追求を否定した。アステリアは本当に、月から謎の植物の種など持ち込んでいないのである。まったくもって単なる偶然。件の植物が生えてきたことに一番驚いていたのは、誰よりもアステリア本人と言えるかも知れない。
「(じゃぁ、いったいどうして……)」
実は惑星アニアにも普遍的に存在する植物なのだろうか……。ワルツが不可解な現象に頭を悩ませていると、周囲にいた人々が、アステリアの期待通りの反応を見せ始める。
「んおっ?!何だあれ?!」
「銀色の植物……?」
「見たことは——」
「いや待て!」
地面から生えてきた銀色の植物を見ていた一人が、何か事情を知っているらしく、こんなことを口にし始めた。
「あれはたしか……エンドプラントだと思う」
「「「「エンドプラント?」」」」
「俺も本でしか見たことがないが、放っておくとこの世界にあるすべての植物が、あの植物だらけになって、世界が滅びる……と書いてあったような気がする……いや書いてあった!」
「「「「え゛っ」」」」
その瞬間、周囲の空気が固まった。逃走にはちょうど良い隙だが、当のワルツたちもその場から動けずエンドプラント(?)を見つめて固まっていたようである。誰かが口にしたその植物の特性を聞いて、彼女たちも大きなショックを受けてしまったのだ。




