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6中-19 迷宮の外で2

ドゴォォォォ!!


何もない空間から次元を切り裂いて現れる、直径20cm程の漆黒の鉄杭(てっくい)

久しく目にすることのなかった、アルタイルの転移魔法攻撃である。


()の者の攻撃は、その名を口にしないかぎり飛んでこないはずなのだが・・・どうやらユキF(オリジナル)は、自殺するつもりで、小さくアルタイルの名を呟いたらしい。

恐らく、ワルツたちに知られれば妨害されかねないので、気取られたくなかったのだろう。


・・・だが、


「・・・・・・?」


いつまで待っても、鉄杭がユキFの身体を貫くことはなかった。

何故なら・・・


「仕事ほっぽり出して逃げる気ですか!」

「他国に攻め入られた時の防衛をどうするんですか!」

「メイドを雇うのにもお金かかるんです!」

「魔王の葬式費用馬鹿にならないんですよ!」


ユキたちが現れた鉄杭を、氷魔法で地面に凍りづけにしていたからである。


「・・・いい妹たちを持ったわね・・・いえ、娘達かしらね?」


「うん・・・私たち、出番なかったね」


現れた鉄杭に即座に反応して、重力制御(魔法)を掛けようとワルツとルシアは構えたが、それはユキたちも同じだったようである。


「っていうか、アル○○(ピー)ル、復活したのね?」


「そういえばそうだね。お腹壊してたんじゃないかなぁ?」


「それはどうかしら・・・」


ともあれ、どうやらこれからは、不用意にアルタイルの名前を口にできなくなったようだ。


さて。

そんな、妹たちに難しい表情を向けていたユキF。

彼女が全盛期の力を持っていたなら、もしかすると、ここで世界を揺るがすような姉妹喧嘩が始まっていたかもしれない。

だが・・・


「一人で死なせてもくれないのですね・・・」


最早、彼女には、どうする力も残っていたかったようである。


「まぁ、私としても、貴女に死なれると色々と困るんだけどね・・・。イブの居場所を調べるのまだ終わってないし、詳しい原因究明がまだ終わってないし・・・。っていうか、特に後者の方は厄介よね。このまま放置して帰ったら、多分ユキが追いかけてくるか・・・いえ、絶対に追いかけてくるわね・・・」


「ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません・・・」


と、ユキF本人も、ユキAが暴走する可能性を否定できなかったのか、ワルツに頭を下げた。


「それもそうなんだけど・・・貴女、ウチの国の情報収集もしてたんでしょ?何ヶ月も前から準備してたみたいだし。ならさ?テンポとか、コルテックスのことも、知ってんじゃないの?」


「・・・えっ?」


「えっ・・・もしかして、知らなかったの?」


「申し訳ございません。一体、何の話ですか?」


「・・・」


どうやらユキFは、テンポやコルテックスたちがホムンクルスであることを知らないようである。


(ふーん。うちの国の情報部もちゃんと仕事してんのね・・・)


と、ユキFの耳に余計な情報が入っていないことに、少し嬉しくなるワルツ。

それで気を良くしたから・・・というわけではないが、ワルツは結局、情報を開示することにした。


「・・・貴女が250年以上、追い求めてきたもののよ。こう言えばいいかしら?人を犠牲にせずにホムンクルスを作る方法、って」


「・・・!?」


「ま、数十年とか数百年後の面倒なんて見れないから、セルフサービスだけどねー」


今、ユキたちの年齢が17歳だとするなら、次身体の交換が行われるのがおよそ80年後。

それまでに工学的に、かつ生物学的に知識を深めることができれば、あるいは人々に犠牲を払わずに身体の取り換えが可能になるのではないだろうか。


ただ、技術を悪用された場合、トンデモナイことになるのは間違い無いだろう。

故にワルツは条件を付けることにした。


「知識を与えてもいいけど、誰か一人だけね。もしも、漏らしたりなんかしたら、国民ごと国を滅ぼすわ・・・っていうか、多分、勝手に滅びると思うけど。それでもよければ、協力してあげてもいいわよ?」


すると、間髪入れずに、


「是非っ、お願い申し上げます!」


ユキFはワルツに(すが)り付くかのようにして、深く頭を下げた。

それに連なって、他のユキ達も頭を下げる。


そして、顔を上げたユキFは、そのまま言葉を続けた。


「あの娘を・・・アインス(ユキA)人身御供(ひとみごくう)に・・・」


「えっ・・・いや、言うと思ってたけどさ・・・・・・ぶっちゃけ、そういうのいらない」


「えっ・・・未婚で処女なの彼女だけですよ?どうしてか、250年間、一度も縁談が無かったんですよ。もしかして性格が暗いのでしょうか・・・」


「えっ・・・余計にいらない・・・」


「えっ・・・・・・魔神様、もしかして、特殊な性癖をおm」


「違っ!っていうか、貴女たち結婚してたの?」


「それはもちろんそうでございます。今から200年ほど前に最初の夫を失ってから『もう二度と結婚するものか』と思っておりましたが、身体を取り替える度に、こうムラムラとしたものが押さられなくなり・・・あ、この体に替えてからはまだ独り身ですよ?なんでしたら私でも・・・」


と言って、顔を赤らめながら、モジモジし始めるユキF。


「・・・」


(・・・いや、まぁ、身体が若返ってるんだから、ホルモンバランスとかそういうものがあるんでしょ?きっと。よく分かんないけど。それに、雪女もサキュバスの一種みたいなものだしね?でもさぁー・・・)


と思いながら、眉間にしわを寄せつつ、ジト目をユキFに視線を向けるワルツ。


すると、


「ねぇ、おねえちゃん?さっきからよく分かんない会話してるけど、何の話?」


と首を傾げながらルシアが問いかけてきた。

そんなルシアに、ワルツはニッコリと微笑んでから、口を開く。


「・・・ルシア?ちょっと待っててね?すぐ終わるから。・・・ユキ?・・・死ぬ前に遺言だけ聞いてあげるわ?」


ゴゴゴゴゴ・・・


『え?』


まるで別人のようにスイッチが切り替わったワルツを前に、表情が固まるユキたち。


「やっぱり、そういう話ってー・・・ルシアの教育に良くないと思うのよねー」


そう言うとワルツは、妙に影の濃いニッコリとした表情を浮かべて真っ黒な姿になり・・・


ドゴォォォォン!!


・・・ありったけの殺意(ロックオン)と超音波と熱線とその他色々なものをユキ()()に容赦なくぶつけて、全員、再び夢の世界へと送り返すのであった。


ちなみに、ユキF以外のユキたちが攻撃を受けたのは、単なる()()()()()である。

・・・決して、見分けが付かなかったから面倒になって全員吹き飛ばした・・・というわけではない・・・はずだ。

なお、言うまでもなく、遺言は聞いていない。




それからルシアに水魔法の行使を頼み、水分の補給を受け、再びユキたちを一直線に浮かべた後、ワルツたちはどこかへと走って行ってしまったユキAや、彼女を追っているだろうユリアとシルビアのところへ向かうことにした。


「・・・あ、ユキFに、今回の件に協力した奴のことを聞くの忘れてた。っていうか、これって無差別殺人とか裁かれ・・・ないわね。魔王を裁くとか勇者の仕事だろうし・・・」


まぁいっか、の一言で、ユキFの一件を形付けることにしたワルツ。


「ねぇ、お姉ちゃん。ところで、ユキFって誰?」


「え?ユキAのお姉ちゃん?」


「・・・ユキAって誰・・・」


どうやらルシアには、ワルツ内言語が理解できなかったようである。


そんなやり取りをしながら、ワルツ達が荒れ果てた畑の中を、ユキAたちが消えた方向へと歩いていると、


「わ、ワルツ様!」

「ユ、ユキさんが・・・!」


そんな慌てた声をを上げながら、ユリアとシルビアが飛んできた。


「え?言っておくけど、まだ殺してないわよ?」


と言いながら、後ろで並んで浮かびながら、幸せそうに眠っている少女たち(身長80cm)に視線を向けるワルツ。


『えっ・・・』


そんなユキたちの様子に、一瞬、言葉を失う2人だったが、どうやらそっちのユキたちの話ではないらしい。


「そ、そうじゃないんです、ワルツ様!」


「・・・何となく先が読めるから聞きたくないんだけど・・・」


と呟くワルツだったが、


「シ、シリウス様が、黒いローブの男に拐われました!」


・・・残念ながら、予想通りの言葉が、ユリアの口から飛んできたのである。

最近、不思議な事が起こるのじゃ・・・。

気づくと、服を着たままお風呂で浮いておるのじゃ。

一体、何が起ったのじゃろうか・・・まぁよいがのう。


何やら昨日、ルシア嬢が妾の存在が云々という話をしておったが、アレは事実らしいのじゃ。

じゃが、プランAの話の方でも妾が登場しないわけではなくて、結局どこかで出すつもりじゃったようじゃぞ?

そもそも、妾という存在は、宇宙の法則が乱r・・・いや、何でもないのじゃ。

(ちなみに、含みではないぞ?)


さてと、なのじゃ。

あとがき、のう・・・。

書くこと無いんじゃよなぁ・・・。

最近修正が進まぬとか、最近妾の出番がないとか、妾の出番が無いとか、妾の・・・。


・・・妾の・・・出番・・・。

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