14.18-17 国家運営?17
後半の方の文章を修正したのじゃ。
殆ど洗脳、とも言えるテレサの演説は、帝都の人々の心にしっかりと突き刺さっていた。本来であれば、誰の声とも分からない空から降ってくる声を信じる者など誰もいないはず……。にも関わらず、人々はテレサの声に耳を傾け、熱狂したように喜んでいたのだ。
現状の閉塞感も、彼らの熱狂に拍車をかけた原因だと言えるかも知れない。黒い虫たちに支配されていた現状から、ようやく解放されるかもしれないのである。"飼われている"という現状を打破できるのなら、正体の分からない謎の声に縋るというのも吝かではない……。特に貪欲に商いをする商人たちや、一つの事に打ち込むことのしか能の無いような職人たちは、大喜びでテレサの話を聞いていたようだ。彼らにとっては、黒い虫たちが帝都を支配して以来、翼を捥がれてしまったことと同義なのだから。
一方で、顔を青ざめさせていた者もいる。貴族や官僚たちだ。
彼らは現在無職の状態。黒い虫たちに襲われてからは、資産どころか威厳すら残っていない状況だったのである。そんな中で、新しい政府を作ると言わんばかりの謎の声が聞こえてきたのだから、彼らが内心、危機感を抱くのは自然なことだった。……このままでは尚更居場所がなくなってしまう。地位と名声を取り戻すために、何か行動をしなければ……。少なくない者たちがそう考え、来たる未来に備えて準備を始めたようだ。まぁ、ポテンティアたちが跋扈している国の中で、反政府的(?)な行動を取ることは不可能なので、彼らに出来る事は知人たちへの根回しくらいのものだったようだが、それが日の目を見ることになるかどうかは不明である。
といったように、帝都の中ではテレサの演説に対して賛否両論あったものの、8割ほどの人々からは、前向きな捉えられ方をされていたようだ。帝都の隅々に点在するポテンティアが、彼の目から見た町の人々の反応を報告する。
『反応は上々。金ピカの市役所が無くなってしまった事について、疑問を持つ市民たちは限定的で、概ね、テレサ様の演説に前向きな反応を見せているようです』
「ふーん。それなら、良いんじゃない?」
どうやらワルツは、今回の件にあまり興味は無いらしい。彼女にとって、今回の帝都訪問の目的は、ポテンティアをエムリンザ帝国から引き上げるために、国の立て直しを行うこと、ではなく、視察という名の観光なのだ。
「もう次の場所に行きましょ?どうせ、コルテックスの中で、エムリンザ帝国の再建計画とか立ってるんでしょ?」
ルシアが作った巨大建造物は見飽きていることもあり、ワルツとしては、もう少し帝都の中を歩いて回りたかったようだ。国が違えば文化も違うので、もっと色々なものを見て回りたかったらしい。
対するコルテックスも、ワルツたちのことを引き留めても、現状に進展があるわけではないので、ワルツたちの事を引き留めようとはしない。
「えぇ、ポテちゃんがいれば、あとはどうとでもなりますから、お姉様方は、観光に出かけて頂いても、お帰り頂いても構いませんよ〜?ポテちゃん、手伝って下さいね〜。あぁ〜、嘆かわしいですね〜」
「あ、そう。じゃぁ遠慮無く」
やれやれ、と大げさに反応するコルテックスを完全に無視して、ワルツは踵を返した。
その直後、彼女はふと思う。
「ん?そういえば、さっき、テレサが壁をスイスイ登っていったのって……もしかして、身体のリミッターが外れているせい……?」
ワルツは普段、元人間のテレサが暴走しないよう、彼女の身体に出力制限のリミッターを掛けていた。ところが、さきほどのテレサは、まるでリミッターなど無いかのように、壁を軽々と登っていったのだ。しかも彼女の体重は、身体の骨格を構成する超合金のせいで、非常に重いはずなのだ。にもかかわらず、だ。理論的に、軽々と壁を登るなど、不可能なはずだった。
そもそも、である。今のテレサの尻尾の数は1本。そしてコルテックスの尻尾の数は3本。つまり——、
「いや、やっぱり、貴女がテレサじゃないの?!」
——テレサがコルテックスの真似をして話している可能性が極めて高いと言えた。少なくともワルツはそう結論づけていたようである。
しかし、どうやら、話はそう単純ではないらしい。登ったときと同じように、身軽に地面へと戻ってきたテレサはコルテックスの隣に立つと、コルテックスとこんなやり取りを始めた。
「いつも、このくらい身体が軽ければ……いや、これはこれで常に力の制御に気を配らねばならぬゆえ、普段の生活の中では逆に動き難いのかのう」すぽっ
テレサは自身の首元に手を置くと、首をそのまま持ち上げた。すると彼女の身体から首だけが外れる。
対するコルテックスも、テレサと同じように自分の首を——、
「妾の身体の出力制限は、触れる相手を傷付けないようにするためですからね〜。私のように根っからの機械なのであれば、出力制限無しでも良いのでしょうけれど、元人間の妾の場合は、ルシアちゃんたちを傷付けないようにするためにも、無難に出力を制限しておいた方が良いと思いますよ〜?」すぽっ
——と言いながら、テレサと同じようにして外した。
そして、その首をお互いに交換して——、
すぽっ……
「ふぅ、実家に帰ってきた安心感とは、このことを言うのかのう……」
「多分、違うと思いますよ〜?実家が無いので分かりませんが〜」
——と、お互い自分の身体に首を装着し直した。完全に同型の機械の身体だからこそ出来る芸当(?)である。
「……便利ね。貴女たちの身体」
「便利……なのかのう……?」
「まぁ、身体に何か不具合が生じても、ぽいぽいと取り替えられる点は、確かに便利ではありますね〜」
と、ワルツの問いかけに対し、それぞれ返答を口にするテレサとコルテックス。テレサの方は、あまり便利だとは思っていないようだが、不便とも思っていないらしく、コルテックスの言葉に相づちを打っていたようだ。
なお、この時、彼女たちのやり取りをワルツはジト目で、ポテンティアは苦笑で、マリアンヌとアステリアは白目を剥きながら見ていたようだが、約1名だけは——、
「……ふーん」にやぁ
——なにやら良からぬ事を思い付いたのか、人知れず口許を吊り上げていたようだ。




