14.18-15 国家運営?15
ブレスベルゲンという名前を聞いても、ワルツにはピンとこなかった。まったく知らない名前の町だったからだ。世界中の様々な情報を集めているコルテックスですら、古い地図でしか知らない町だというのだから、当然と言えるだろう。
ただ、その場には一人だけ、ブレスベルゲンについて、少しだけ知っている人物がいたようである。エムリンザ帝国の元皇女であるマリアンヌだ。
「あれは……この大陸で絶対に手を出してはならない国、と言われているのを聞いたことがありますわ?」
「「えっ?」」
ぽつりと呟いたマリアンヌの言葉に、ワルツとコルテックスだけでなく、他の者たちも反応する。
対するマリアンヌは、まさか自分の発言で、皆の注目を集めることになるとは思っていなかったのか、少し慌てた様子で言葉を続けた。
「あ、いえ、私も詳しくは知らないですわよ?でも、前に大臣たちが言っているのを耳にしましたの。……極小国家でありながら、この大陸で最も裕福な国で、ドラゴンたちを飼い慣らし、周辺諸国を武力と財力で従えさせている。国の代表は2人いて、私よりも小さな女の子たちが国を治めている……そんなことを言っておりましたわ?」
「女の子2人で治める強大国家?意味が分からな——」
ワルツは途中まで言葉を口にして、ふと、コルテックスやテレサに視線を向けた。具体例が目の前にいたらしい。
「なんか……同じ臭いを感じるわね……」
「えっと……ワルツ?そんなに妾、臭うかの?ア嬢にも良く言われるのじゃが……」
「いや、くさいとかじゃなくて、雰囲気の話よ?雰囲気の話」
と答えつつ、ワルツはブレスベルゲンという国について、考えを巡らせた。他人事ではない何かを感じたらしい。
結果——、
「……うん。できるだけ関わらないようにしましょう」
——ブレスベルゲンとは直接接するのを避ける事にしたようだ。どう考えても、面倒ごとになる未来しか想像出来なかったのだ。
対するコルテックスやポテンティアは、ワルツの決定に首を傾げていたようだ
「くわしく調べなくても良いのですか〜?」
『距離がどれくらい離れているのか分かりませんが、ひとっ飛びしてくれば、偵察くらいは出来ますよ?』
対するワルツの表情は険しい。
「さっきのあれ、見たでしょ?今のところ、たった一発しか飛んできてないけど、あの砲弾はまず間違いなく警告だと思うのよ。こちらからは見えていないけれど、あっちからは見えているぞ、っていう警告。なんていうか、縄張りを荒らされるのを嫌がった、って言えば良いのかしら?あれだけの質量体を極超音速で打ち出せる技術がある国に手を出したら、多分ヤバいことになると思うのよ。下手をすれば、エムリンザどころか、レストフェンやミッドエデンまで巻き込んで、大戦争になるわ」
そんな後ろ向きな考えを持つ姉を前に、コルテックスは「そんなものでしょうか〜」と、困り顔を浮かべ……。ポテンティアは『マイクロマシンをを使って秘密裏に侵入すれば分からないと思うのですけれどね……』と、反論を口にする。
しかしそれでもワルツは、反対だったらしい。
「相手は間違いなく、地球出身者が絡んでいるわ?それも、前に相手にしたエクレリアなんか比較にならないくらい、高度な技術を持った誰かが、ね。そんな連中とは関わり合いになんかなりたくないわ?これが友好的な関係なら、まだ話は別かも知れないけれど、もうすでに一発、撃ち込まれたもの……。向こうだって、こちらのことを敵視しているはずだから、仲良くなんて出来ないでしょうし……」
ワルツから明確な拒絶を受けたコルテックスとポテンティアは、ブレスベルゲンについて直接調査することを諦めた。ただ、気にはなっていて、ワルツの目の届かない場所で調べるべきかどうかを、内心で悩んでいたようである。
そんな2人の内心を知ってか知らずか……。ワルツは2人に対して釘を刺した。
「良い?喧嘩を売って、戦争に発展するような事だけはしないでね?向こうだって、こっちが変な事をしなければ、何もしてこないはずだから」
そう言った後で、ワルツはもう一言追加した。ただし、西北西の空を見上げて、かろうじてその場にいる者たちに聞こえるくらいの、とても小さな声で。
「少なくとも……私の機動装甲が無いときに、争い事をするのだけはやめて」
最悪の事態に発展したとき、今の自分には皆を守る力は無い……。そんなワルツの想いが言葉となって滲み出たのかも知れない。
???「しかし、国中の貨幣を集めて建物を建てる方々ですか……。まともな思考をしているとは思えませんね」
???「しかも、警告攻撃を無効化されてしまいましたし……。なにか特別な力を持っているのは間違いなさそうです」
???「どうされますか?」
???「不用意に藪を突くのはやめておきましょう。しばらくは様子見です」
???「ノーチェも金でお城を建てたい……」
???「「…………」」




