14.18-12 国家運営?12
「うーん……」
ワルツは唸っていた。それも、酷く悩ましげに。キラッキラと輝く市役所(?)を見て、思うことがあったらしい。
「(これさ……別に、中身まで金ピカにする事はなかったんじゃない?)」
金閣寺のように表面だけ金箔を貼れば良かったのではないか……。ワルツとしては、柱の中まで、貴金属にしなくても良いのではないかと思ったようだ。
ちなみに市民たちの反応は、というと——、
「「「「 」」」」
——轟音を上げながら、作り上げられていく建物を見て、皆、ぽかーんと口を開けたまま固まっていたので、よく分かっていない。良いのか悪いかすら分からない様子だ。もしも、自分たちの貨幣や財産などが強制的に没収された挙げ句、それを使って建てられたシティーホールだと知ったなら、皆、激怒するのは間違いないはずだが、彼らがそのことを知る術は無い。恐らく今は、何だか輝かしい建物だ、程度にしか思っていないことだろう。
ちなみに、そんな市民たちから、ワルツたちの姿は見えていなかった。彼らに見えていたのは、黒い虫たちの姿だけ。プレス用の魔道具を振り回していたコルテックスの姿も、テレサの幻影魔法に隠れて見えなかった。コルテックス自身は、テレサに自分の姿を消すようには頼んでいなかったが、テレサが勝手に不可視化していたのだ。
一方、コルテックスは、長いプレス用魔道具を再び異空間——もとい、ミッドエデンにある彼女専用の格納庫へと仕舞い込むと、身軽な様子で、シュタッ、とシティーホールの屋上まで壁を駆け上り、そして屋上で振り向くと、どこからともなく取り出した拡声器を使って大きな声を上げ始めた。
『み〜なさ〜んっ!!きゃんゆ〜ひあみ〜?』
「なんで英語?」
ワルツが突っ込みを入れるが、コルテックスには届かない。いや、届いていても、反応はしない。
『これからこの国は新しく生まれ変わります!地上にある楽園のような素晴らしい国です!人々は生きる幸せと喜びを感じ、空腹に喘ぐ事なく、そして誰しもが雨に濡れない屋根の付いた家を持つ、そんな国です!』
「いや、それ、普通のことじゃないの?っていうか、幸せとか喜びとか、人それぞれだから、押しつけるな、って文句言われそうだけど?」
『以前、この国は、そういった普通のことすら国民が享受できない苦しく貧しい国でした。他の国々もそう。殆どの国の人々が、腐敗した政府から圧政を強いられ、日々生きることすら儘ならないのが現状です』
「ふーん。マリアンヌ?そうだったの?」
「 」ぽかーん
「あ、うん……(反応なんて出来ないか……)」
きっと皆、コメントに困っているのだろう……。ワルツは思い頭を抱えて深く溜息を吐いた。
「(っていうか、コルテックスはいきなり、何を言い出すのよ……)」
突然、革命家のようなことを言い出したコルテックスの行動が理解出来なかったワルツは、周囲の人々が、コルテックスの演説にどんなことを考えているのか気になっていたようである。自分なら、呆れてモノも言えなくなる……。そんなことを考えながら、ワルツは周囲を見渡した。
ところがワルツの考えとは裏腹に、町の人々の反応は好印象だったようだ。最初、死んだような眼で、ボンヤリとシティーホールを眺めていた町の人々の目には、いつしか輝きが戻ってきていて、皆、熱いと言えるような視線をシティーホールへと向けていたのだ。もちろん、シティーホールがきらきらと輝いていたことで、金に目が眩んだ、というわけではない。皆、コルテックスの演説に心酔していたのである。
『今、この国には暴力はありません。黒い虫たちが仲裁してしまうからです。侵略もありません。黒い虫たちが外敵を一掃するからです。更に言えば、魔物すらいません。毎朝、皆さんの食卓に新鮮なお肉として並んでいるからです。……そうこの国は、今、世界で唯一、暴力から切り離された国。現状、一時的に、交易やモノづくりを禁止していますが、これも今日からは可能になります』
その瞬間、町の活気に火が点いたかのように、人々がザワザワとざわめき始める。これまで抑圧されていたものが解消されると聞いたことで、一気に活気が吹き出たのだ。
そんな人々の顔に浮かぶ表情は、コルテックスの演説通り、笑みや喜びといったものだった。到底、まっとうな方法とは言い難いが、一応、彼女の言ったとおりに事は進み始めようとしているようだ。
しかし、コルテックスの計画には、依然として、大きな問題が立ち塞がっていた。今、この国には、貨幣が存在しないのだ。すべてシティーホールや、他の建物を建てるための建材として使用される見込みで、人々が手にする事は無いのである。
コルテックスの演説には、貨幣のことがすっぽりと抜け落ちていたのだが……。それでも人々が幸せそうに話し合っていた様子を前に、ワルツは複雑そうな表情を浮かべていた。
議長狐「貨幣?知らない子ですね〜」




