14.18-09 国家運営?9
「ふむふむ〜」
コルテックスは辺りを見回した。彼女の目で見て、今の帝都がどういう状況なのかを判断しようとしたのだ。
「思った通り、敗戦国そのものですね〜」
やはり考えは、皆と同じだったらしい。わざわざワルツたちから事情を教えられずとも、彼女は彼女なりに、世界中から情報を集める手段を持っているので、なぜ帝都が荒廃(?)したのかを知っていたのである。
「さぁ、この国をどう料理しましょう?皆が楽しく暮らせるような、社会主義のお手本のような国にするのか〜……」
「いや、社会主義が成功した事例なんて、殆ど無いから無理でしょ。某国だって、底辺の労働者は、馬車馬のように働かされている訳だし……。まぁ、どこの国かは言わないけれど……」
「ですよね〜。かと言って、資本主義国家を本気で作れば、この大陸の覇権は、この国が持つことになりますよ〜?」
「良いんじゃない?別に」
「適当ですね〜。どうするのですか〜?お姉様方がいるレストフェン大公国のことは〜。大公のジョセフィーヌ様などは、とても困るのではないでしょうか〜?」
ワルツの適当すぎる返答に、コルテックスは半分、呆れていた。ただ、もう半分は、納得していたようである。つまり、コルテックスは、本気で、エムリンザ帝国を資本主義国家として再興しようと考えていたのだ。
だが、そのためには、周辺諸国を巻き込む可能性についても考えなければならなかった。いまだ中世から近代のように、国盗り合戦を繰り広げている世界において、強国を作ると言うことは、それ即ち、戦争の種を撒くということと同義。それでもいいのか、とコルテックスの言葉には、副音声が含まれていた。
対するワルツは、やはり深くは考えていないのか、それともちゃんと考えているのか……。コルテックスに対してこう返答する。
「何をしても同じ結果に辿り着くなら、別に良いんじゃない?今のこの、生きているのか死んでいるのか分からない国を放置するよりもさ?」
「まぁ、確かに、この国を放置して無駄に遊ばせておくよりも、この世界の発展を考えて、国を大改造するというのも手ではありますね〜。でも、ジョセフィーヌ様に対する説明はお願いしますよ〜?流石の私も面倒臭いので〜。もしも、ジョセフィーヌ様の方から面倒臭いことを言ってきたら、そのときは遠慮無く暗殺しますからね〜?」
「はいはい。まぁ、レストフェン大公国については、こっちの方で手を回しておくわ?レストフェンはレストフェンで、近代化させて、バランスを取るのが良いのでしょうね……きっと」
エムリンザ帝国がコルテックスの手によって資本主義国家となるのであれば、近いうちにレストフェン大公国がエムリンザ帝国に吸収されるのは確実。なら、吸収されないようにレストフェン大公国にも力を持たせれば良い……。ワルツはそんな安直な考えに至ったらしい。
そんな考えに至ったのは、彼女は既に、レストフェン大公国に対して、かなり手を入れていたからである。技術、食料、月面研究所の提供などなど……。未だ撒いた種が芽を出し始める状況には至っていなかったものの、いずれ近いうちに、レストフェン大公国には、新たな技術や研究者が誕生するのは確実だった。それを考えれば、レストフェン大公国を近代化させるという方針は、既に実施済みと言っても過言ではなかったのである。
と、ワルツは考えていたわけだが——、
「んん〜?なにかおかしいですね〜?」
——姉の発言を聞いたコルテックスは違和感を感じ取ったらしい。理由は単純だ。普段、ワルツは、この世界への介入や技術革新を、極力避ける傾向にあるのである。ところが、今回は、その気配がまったく無かったので、引っかかりを感じたのだ。
対するワルツは、妹に疑われていることを察していたようである。しかし、月面研究所計画は、コルテックスたちに話すつもりは無いので、彼女は話を誤魔化す事にしたようだ。
「それはそうと、どうするの?コルテックス。ここには、国を象徴する王宮だか、城だか、宮殿だかが建っていたらしいのだけれど、ポテンティアが完全に破壊したって話なのよ?何か建てるの?」
「今、誤魔化しませんでしたか〜?」
「ん?何が?」
「……まぁ、良いですけど〜」
シレッと話を流したワルツを前に、コルテックスはそれ以上追求できず……。彼女は仕方なく、姉の問いかけに返答する。
「城は作りませんよ〜?その代わりに、役所と銀行と証券取引所は作りますけれど〜」
「そうね……。城なんていらないわよね……。誰かに攻め入られる訳でもないし……」
かつてのエムリンザ帝国は、領土拡大に熱心だった。ゆえに、逆に攻められることも考えていて、文字通り籠城するために、塀に囲まれた宮殿、あるいは城と言えるものを作っていたのである。
しかし、コルテックスの考える資本主義国家においては、城など必要の無いものだった。戦いは、剣などの武器を使ったものから、ペンや貨幣を使ったものに変わるのだ。もはや、国を象徴する城など、前時代的なモニュメントでしかないのだから。




