14.18-06 国家運営?6
高度1000m。ワルツたちが転移した先は、空の真ん中だった。
「「ひぃやぁぁぁぁぁぁ?!」」
二人分の悲鳴が空に響き渡る。マリアンヌとアステリアの声だ。2人とも、まさか空中に転移するとは思わなかったのだ。それも真っ逆さまに落ちている状態。明らかに、転移魔法の軽い浮遊感ではなく、明確な落下だった。
まさか、転移魔法陣の実行に失敗したのか……。混乱の中で、2人とも、助けを求めるためにワルツの姿を探そうとしていると、
ブゥン……
——彼女たちの見ていた景色が、再びガラッと変わる。今度は空の上ではない。
「はい到着」シュタッ
ワルツが2回目の転移魔法陣を起動した結果、皆、今度は地面へと転移したのである。
そこは誰もいない、小さな森の中だった。帝都と思しき場所まで、歩いて30分ほどの距離である。
いったいなぜ、転移魔法陣で直接跳躍するのではなく、一旦空へと転移したのか……。落下に耐性(?)のあったルシアが、特に驚く様子も見せずに、普段通りの様子で姉へと問いかける。
「お姉ちゃん?今のは?」
それだけでルシアの言いたいことは伝わったらしい。ワルツは迷うことなくこう返答にした。
「一旦空に転移したのはなぜかって?あれは、転移魔法陣を使って転移した先で、他の物体と重ならないようにするためよ?一旦、空から転移先を確認して、確実に安全が確保出来る場所に転移した、ってわけ」
「ふーん……。間違えたら、地面の中に埋まっちゃうんだったっけ?」
「一応、地面に埋まらないよう転移魔法陣の改良はできたんだけど、その代わりちょっと別の問題が生じてね……」
「えっ……問題?(お姉ちゃんが"問題って言うときは、本当に問題が起こるからなぁ……)」
「"いしのなかにいる"状態を回避するために、転移した先にある物質を強制的に弾くようにしたのよ。空の上であれば、空気を弾くだけで済むから、ちょっと風が吹くだけで終わりなのだけれど、地面とかで同じ事をやると、そこにある石ころとか、虫とか、草木とか、人とか……転移に邪魔なものは、例外なく、すべて強制的に退けるようにした、ってわけ。そのおかげで一応、安全に転移できるようになったのよ」
「ふーん。安全なら、直接転移すれば良いんじゃないかなぁ?お姉ちゃんが何を心配しているのか、よく分かんないんだけど……」
「安全は安全よ?転移する私たちは、ね。問題は強制的に退けられる方よ」
「退けられる方?」
「うん。ちょっと、亜音速で吹き飛ばされるのよ」
「あ、うん……。何となく分かってた」
ルシアは納得した。ほぼ予想していた通りの展開だったらしい。
そして彼女は、それと同時に思う。
「(これ、いつか、誰か大怪我をするんじゃないかなぁ?)」
もしも、ワルツが転移した先に人がいた場合、亜音速で吹き飛ばされるのである。その人物がどうなるかは、敢えて言うまでもないだろう。少なくとも"大怪我"程度では済まないに違いない。当たり所(?)が良くても悪くても、吹き飛ばされれば、肉塊になるのは不可避。大事故では済まなかった。むしろ、事故の痕跡すら残らないかも知れない。
ワルツの説明にルシアが納得している一方、マリアンヌとアステリアは、納得できずにいたようだ。
「び、びっくりしましたよ!突然、何なんですか?あれは!」
「転移魔法の浮遊感ではないですわ!本当に落下していましたわよ!」
そんな2人に対して、ワルツは、「ごめんごめん」と謝罪しながら、問いかけた。
「髪が乱れないように空気の壁は作っていたつもりだけど、実害は出た?」
実害。その言葉を聞いた2人は、その意味を察して、静かに首を横に振る。内容についてはここで説明しない。非常にセンシティブな内容だからだ。
まぁ、それはさておき。
「帝都まで歩いて30分。さぁ、行くわよ?」
ワルツは森の中を歩き出した。手の中から、黒い枝とも雷とも言えない謎の物体を出し、それを使って皆のために露払いをしていく。
そんな彼女の後ろを歩きながら、アステリアはマリアンヌに向かって声を掛けた。
「あの、マリアンヌ様。ワルツ様が手にしている"あれ"って、何なんでしょう?」
「……アステリアさん。それは聞いちゃいけないことですわ?ただ触れただけで、小さな草木が吸い込まれるようにして消えるなんて、私も知らないですし、もしも原理を知ったら……いえ、この話はやめにしましょう。消されても知らないですわよ?」
「け、消され——」
「あっ、間違えた」メキョメキョ
「「ひっ……」」
ワルツが手にした黒い枝のようなものが、大木に当たる。その瞬間、大木は、超強力な掃除機に吸われるかのように、ワルツが持っていた枝(?)の中へと姿を消した。それも、強大な力でひねり潰されるようにして。
ワルツとしては、ミスだったらしい。彼女は恥ずかしそうに後ろを振り向くのだが——、
「……今、何か見た?」
「「…………」」ふるふる
——そこにいたアステリアとマリアンヌは顔を青ざめさせながら首を振るばかりで、なぜ、という疑問をワルツにぶつける事はなかったようだ。
そうこうしているうちに、一行は森を抜けた。
機械狐「……これが放置プレイか?!」
黒光りする何か『いえ、何も言わなかったので、構われなかっただけだと思いますよ?』」




