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6中-17 迷宮の中で5

環境になれるまで、読みにくい文が続くかもなのじゃ。

・・・読みやすい文が書けた覚えはないがのう・・・。

現代世界において、爆弾に対して最初にビープ音を付けようと思ったのは、一体誰で、どういう理由からだったのだろうか。

まぁ、それが誰なのかはとりあえず置いておくが、理由については幾つか考えることが出来るだろう。


例えば、周囲の人間に注意喚起を促すため。

これについては言わずもがなである。

採掘現場などでは、サイレンによるものが多いだろうか。


あるいは、緊迫した様子を演出するため。

例えばゲームや映画などで見受けられる手法である。


そして・・・製作者自身が自分の身を守るため。

ふとした拍子に信管のカウントダウンが始まってしまった時、爆発する前に止めなくては、作った本人も大変なことになってしまうのである。

そのための、爆発前通知手段、というわけだ。


もしもこれが、現代世界にある部品を活用していいというのなら、わざわざ爆発前に通知しなくとも、暴発を未然に防ぐ安全装置付きの起爆装置を作ることは容易である。

しかし、ここは異世界。

マイコンもなければ、簡単に手に入るような目覚まし時計も無いのである。

あるのは、信頼性の低い自作の部品だけなのだ。


そう考えると、ビープ音やインジケータなどの警報装置を使わずに爆弾等危険物を作るなど、まともな神経を持った人間には、怖くてできたものではないだろう。

まぁ、ビープ音を作り出す回路を一体どこから用意するのか、という話は、また別に考えなくてはならないのだが・・・。


ドゴォォォォン!!


「ピエゾっ!」


「・・・何で急に変な声を上げてるんですか?ワルツ様?」


「え?独り言だから気にしないで・・・」


目の前で爆発した剣の(つか)の部分に、更に吸引力を上げた真っ黒な掃除機マイクロブラックホールを押し当てながら、なにやら訳の分からないことを口走ったワルツに、ユリアはジト目を向けた。


「んー、残念だけど、爆発しちゃったから、証拠は残ってないわね。残った刃の部分だけで何か分かるかしら・・・」


「えっ・・・爆発したんですか?私には、ワルツ様がいきなり剣を破壊したようにしか見えなかったんですけど・・・」


今もなお、剣に喰らいつく(?)黒い球体に眼を向けながらそう口にするユリア。


「爆風や音を全部吸い込んだから、ユリアには分からなかっただけよ?・・・でも、まさか、爆発するとは思ってなかったわ・・・」


(ん?前にもどこかで同じことを言ったような気が・・・ま、気のせいね)


「そうですか・・・じゃぁ、また私のことを助けてくれたんですね?流石、未来の旦那さm」


「そう・・・またフラグを立てたいのね?」


「うぅ・・・」


ニッコリ、と暗黒微笑を浮かべるワルツを前に、ユリアは嬉しそうな表情から一転、泣きそうな表情を浮かべた。


「それにしてもねぇ・・・」


ワルツはそう呟いてから、爆発してしまった剣の柄のことを思い出して、内心で頭を抱えた。


(・・・この世界にとっては、完全にオーバーテクノロジーじゃない・・・)


言うまでもなく、自分自身のことを無視して考えるワルツ。

尤も、都市結界などの高度な魔道具も、オーバーテクノロジーと言えなくはないのだが。


(そういえば前にカタリナが、転移者ばかりを集めた国があるって言ってたわね・・・・・・ん?転生者だったっけ?それとも召喚者だっけ?・・・そもそも、カタリナが言ってたんだったっけ?)


・・・何れにしても、彼らの関与が強く疑われることに変わりは無いだろう。

そうでなくては、この世界の人々が知らないはずのビープ音の説明がつかないのだから。


「ホント、面倒ね・・・。世界を跨いで、戦争でもするつもりなのかしら・・・」


そう口にしながら、ワルツがゲンナリとしていると、


「あっ・・・」


そんな彼女の顔を見たユリアが、何かに気付いたような声を上げて、急に申し訳無さそうな表情をしながら口を開いた。


「あの・・・すみませんワルツ様。私がちゃんとトラップのチェックさえしていれば、ワルツ様の手を(わずら)わせることは無かったはずですよね・・・」


どうやら彼女は、自分の不手際のために、重要な証拠を失ってしまった、と思ったようである。


「ん?いいえ、そんなことはないわよ?今回の爆発は、魔法と関係ないと思うし・・・多分、ユリアがどんなに頑張っても分からなかったと思うわ」


「・・・え?魔法が関係ない?」


「えぇ・・・。ただ、証拠が消し飛んじゃったから、詳しいことまでは分かんなくなっちゃったけどね」


「そうですか・・・残念です」


「ま、この刃の部分だけでも持ち帰って、分析してみましょうか」


「はい」


そしてワルツ達は、迷宮の核までやってきた通路を一旦少しだけ戻り、外に向かって一直線に穴を掘り始めるのであった。

もちろん、重力制御を壁に展開して、内部の通路の形状が変わらないように注意しながら・・・。




「あぁ・・・み、水ぅ・・・」


穴を掘り始めて20分ほど経った頃。

ワルツ達は無事に迷宮の外へと戻ることができた。


そして、外へ出て開口一番にワルツが口にした言葉がこれである。

要するに、再びガス欠に陥っていたのだ。


「わ、ワルツ様!また、私で良ければ・・・」


そう言ってユリアは、襟を大きく広げながら、自分の首筋をワルツに見せてきた。

どうやら、自分の血を吸え、ということらしい。

・・・その際、同時に、胸元を強調しようとするのは・・・やはりサキュバスだからだろうか。


「・・・なんか、イラッとするから、その肉の塊、さっさと仕舞ってくれない?」


「えっ・・・・・・ひ、ひぃ?!」


これまでに感じたことがない程のワルツの殺気に、慌てふためくユリア。

なお、どうしてワルツが殺気を発したのかは・・・・・・いや、その説明については割愛しよう。


「それに、折角外に出られたのに、何が悲しくて血なんて飲まなきゃならないのよ・・・」


そう言って溜息を吐いた後、既に雨が()んで青い色が見え隠れしている空に対して視線を向けながら、まるで今まで狭い場所に閉じ込められていた、といった様子で背伸びをするワルツ。

そして彼女は、そのままその視線を、今しがた自分たちが出てきたデフテリー・ビクセンの方へと向けた。


「・・・無残ね」


その光景を見て、ワルツは、短く、そんな感想を漏らした。


彼女たちが迷宮の内部侵入する前のデフテリー・ビクセンには、間違いなく足が付いていて、それを使って移動していたはずなのだが、どういうわけか今では綺麗に無くなって、まるでイモムシのような形状になったのである。

その上、随分街から離れた場所まで移動しており、挙句、何やら巨大クレーターのようなものに埋る形で、全く身動きが取れなくなっていたのだ。


果たして一体、デフテリー・ビクセンに何が起ったというのか・・・。

まぁ、原因は一つしか無いのだが。


ワルツがそんな光景に()()を浮かべていると、


「・・・おねぇぢゃーーーん!!」


・・・早速、その原因(ルシア)が、音速近い速度で、半べそをかきながら突っ込んできた。


ドゴォォォォ!!

ポフッ・・・


「心配だったよぅ・・・!」


「・・・ごめんね。ちょっと、面倒なことになってて・・・」


そう言いながら、ワルツが胸に飛び込んできたルシアを宥めていると、


「・・・ワルツ様ぁーーーっ!!」


と、涙と鼻水まみれのシルビアも突っ込んできたので、彼女は近くにいた(ユリア)を盾にした。


ドゴォォォォン!!


『フベッ?!』


・・・そんな不可解な音を上げた後、2人がきりもみ状態になって、どこかへと吹き飛んでいったが・・・まぁ、いつものことなので、問題はないだろう。


「そうそう、ルシア。ユキ達に回復魔法を掛けてもらえない?・・・そのついででいいから、ユリアとシルビアにも」


「え?う、うん!分かった!」


姉が戻ってきたことがあまりに嬉しかったためか、ルシアはユキ達に気づかなかったようである。


(魔力が吸い取られたのに、回復魔法で治るのかしらね・・・)


ルシアの超強力な回復魔法を受けているユキ達に視線を向けながら、現代世界の知識であるHP(体力)MP(魔力)の関係について考えるワルツ。

最悪、サウスフォートレス産のマナに漬けておくしか無いわね、などと彼女が思っていると・・・


「うぅ・・・」


回復魔法を受けていたユキ?が眼を覚ました。

どうやらルシアの回復魔法は、迷宮の魔力ドレインにも有効だったらしい。


「えーと、貴女は誰かしら?自分の名前、分かる?」


「・・・わ、私は、ユークリッド=N=シリウス・・・」


「・・・誰だろ・・・」


ユキをAからFで判別していたワルツには、ミドルネームで誰が誰なのかを判断することが出来なかったらしい。


「・・・私・・・死ななかったんですね・・・」


「えぇ。助け出したからね」


「そう・・・でしたか・・・」


そう言いながら大きくため息を付いて、眼を瞑るユキ(N)?。

まさに、満身創痍、といった様子である。


その直後、


「はっ?!み、皆さん!逃げ・・・あれ?」


意識を取り戻した瞬間に飛び起きる別のユキ?。


「・・・貴女は誰?名前は何?」


「あっ、ワルツ様!あの、ボクです。ユークリd・・・」


「あぁ、ユキね」


「・・・はい」


自分の名前を最後まで言いたかったのか、ユキAはシュンとした表情を浮かべた。

だがすぐに、必死な表情に戻って、


「・・・そ、それで、市民たちは?!」


そう口にしながら、ワルツに詰め寄った。


「・・・どうなったの?ルシア」


ユキの言葉を引き継ぐ形で、ルシアに市民たちの治療の結果を問いかけるワルツ。

彼女自身も、彼らを外に送り出しただけなので、詳しい容態を知らなかったのである。


「うん!みんな無事だよ?今は、多分、街の方(プロティー・ビクセン)に居ると思う」


「そうですか・・・よかったぁ・・・」


「そう・・・」


ルシアのその言葉に、避難を最初に呼びかけたユキも、そしてワルツも胸を撫で下ろした。

・・・だが、ワルツの表情は再び曇る。


「・・・ごめんねユキ。多分、全員は救えなかったと思うのよ・・・。例えば、デフテリーの町とは別の空間にあった城に勤務してた人たちとか、研究者たちとか・・・」


そう言って、まるで自分が殺してしまったかのような表情を見せるワルツ。

そんな彼女に対して・・・ユキは少々視線を伏せながら言葉を返した。


「彼らは・・・職についた時点で、いつかこうなるかもしれないと覚悟を決めていたはずです。それに、そもそも迷宮の中に町を作ること自体、無謀だったのです。なので、ワルツさまが悪いということは決してありませんよ・・・」


そう言ってから、後悔・・・とは少し違う複雑な表情を、ピクリとも動かないデフテリー・ビクセンへと向けるユキ。


「・・・そう」


そんな彼女にワルツは・・・それ以外に掛けられる言葉が見つからなかった・・・。




その後も、順次意識を取り戻していくユキたち。


そして全員が眼を覚ました所で、


「じゃぁ、はいこれ」


と言いながらワルツは、持ってきた剣の刃の部分をユキAに渡した。


「・・・なんですかこれ?」


「迷宮の核って所に刺さってた剣の成れの果てよ?」


「はあ・・・・・・え?」


まだ目覚めたばかりで、頭が回っていないのか、状況が飲み込めない様子のユキ。


「だから、迷宮が暴れだした原因よ?」


「・・・?!」


ワルツのその言葉に、ようやく剣が何であるかを理解したユキは、驚愕の表情を浮かべた。


「じゃ、じゃぁ、こ、こ、これを調べれば・・・」


「まぁ、迷宮が暴れだした原因が分かるかもしれないわね。ついでに犯人と」


「っ!軍務大臣!」


「はっ!」


「直ちにこれの解析を進めなさい!」


「畏まりました!」


そう言って、ユキAから剣の刃を受け取るユキC。

そんな彼女たちの様子を見て、


(・・・変身解けてるの、そのままにしておいて良いのかしら・・・)


と思うワルツ。

まぁ、彼女には変身の効果が分からないので、既にユキたちが再び変身している可能性も否定は出来ないのだが・・・。


そしてワルツが、ユキ達にそのことを指摘するかどうかを悩んでいる時のことであった。


「・・・いいえ。調べる必要はありません」


・・・最初に意識を取り戻したユークリッド=N=シリウスが、目を瞑りながら突然割り込んだ。


『・・・え?』


突然、ユキ(N)が言い出した言葉に、一斉に疑問の表情を浮かべるユキたち。


そして彼女は・・・


「犯人は・・・私です」


・・・唐突にそんな言葉を口にしたのである。

今日も眠いのう・・・。

自分の部屋でないと、気が抜けてしまうのじゃろうか・・・。


ところでじゃ。

今朝起きると、枕元に見慣れぬ大きな小包が、これまた見慣れぬ靴下と共に置いてあったのじゃ。

あれが『くりすますプレゼント』というやつじゃろうか・・・。


それで、朝食の時に小包を開けてみたのじゃ。

すると中には、なんと、妾が作るクッキーよりも巨大なクッキーのようなものが入っておって、香ばしい匂いを放っておったのじゃ。


妾は直感したのじゃ。

コレはルシア嬢が作った危険なクッキーじゃと・・・。


じゃがのう?

反対側の席で、ルシア嬢がなにかキラキラとした視線をこちらに向けておったせいで、食べる以外の選択肢を取れなかったのじゃ。


じゃから・・・妾は覚悟を決めて食べたのじゃ。

・・・するとどうじゃろう。


鼻腔をくすぐる磯の香り。

口中に広がる濃厚なダシの味。

そしてふっくらとしていて、尚且つ外側はカリカリとした食感・・・。


最早クッキじゃのうて・・・もう、説明せんでも良いかのう・・・。

ルシア嬢がクッキーを作ると、お好み焼きになるようなのじゃ。


というわけでじゃ。

妾のくりすますプレゼントは、靴下だったのじゃ・・・。

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