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14.17-42 遠く9

「ごめん。私の聞き違いかも知れないのだけれど……今、チョーカーじゃなくて、首輪って言った?」


「えぇ、首輪が良いですわ?それも……えぇ、とっても無骨な見た目の首輪だと嬉しいですわね」


「なんで?」


 マリアンヌは、現皇帝と血のつながりはないものの、公式的にはエムリンザ帝国の姫である。それも第一皇女だ。そんな彼女がなぜ首輪を欲するのか……。ワルツは事情を聞き返す。


 ちなみにこの時、約一名のサキュバスが、ブルッと身を震わせて、手にしたペンダントに目を落とし、何やらブツブツと呪詛のようなものを呟いていたようだが、彼女についての話は省略する。


 ワルツが問いかけると、マリアンヌはシレッとした様子で返答した。


「もう、(わたくし)、皇女をやめようと思いますの。ですから、皇女には似つかわしくないものが欲しいのですわ?首輪なんか、ちょうど良くなくって?」


「まぁ、貴女がそれでいいって言うなら、首輪を作るけれど……(無骨なやつねぇ……)」


 ワルツはマリアンヌの発言の意図には踏み込まず、首輪のデザインを想像する。マリアンヌの話に足を突っ込むと、面倒な話に巻き込まれるような気がしてならなかったのだ。


 ただ、その代わりに、ポテンティアが口を開いた。


『よろしいのですか?マリアンヌさん。姫という立場を得るまでに、様々な努力や苦労があったと思うのですが、それらをすべて捨てるようなことになりますが……』


「ええ。問題はありませんわ?だって、こうして、ポテ様や皆様とお会いできたのですもの。いまさら、あのお城に帰るなどという選択肢はありませんわ?この際ですし、完全に縁を切って、ただの魔女に戻ろうと思いますの」


『マリアンヌさんがそう決められたのでしたら、僕から言える事は何もありませんね(まぁ、確かに、マリアンヌさんが戻れるお城は、エムリンザ帝国にはもう無いですからね)』


 ポテンティアはエムリンザ帝国の城や宮殿の類いを、完全に破壊してしまっていた。もしもマリアンヌが国に戻りたいと口にしたところで、彼女が戻る場所は存在しなかったのである。


 もしも、マリアンヌが国に戻りたいと口にしていたら……。ポテンティアはふと思うが、彼は思考を止めた。彼自身の力を使って城を元通りにする事も可能ではあったが、そこに元いた人々はおらず、マリアンヌがいた頃の状態に戻すことは不可能。IFを考えるだけ、時間の無駄だったのだ。


『(戻りたいと言われなくて良かったです)』


 エムリンザ帝国は、ポテンティアたちの活動により、政府、防衛、貨幣、物流といった国が国であるために必要な機能をすべて剥奪されていた。帝国自体が消滅したと言っても過言ではない状況である。今、エムリンザ帝国——いや、エムリンザ地方にあるのは、ポテンティアによる巨大な実験場。あるいは箱庭、または人間牧場とも言うべき場所だった。


 そこでは、人が何かをしようとすれば、どこからともなく黒い虫たちが押し寄せて、すべてを消し去ってしまうのである。だからといって、餓死者が発生するわけではなく、どこからともなく食料が供給されるという謎の国。それが今のエムリンザだった。檻のない牢獄と言っても良いかも知れない。


 すべてはポテンティアの完全な制御下にあると言えたが、ポテンティア自身は現状に悩んでいたようである。


『(いつまで続けましょうかね……)』


 現状、エムリンザは国の体を成しておらず、ポテンティアが手を引けば、飢餓や侵略などにより、国が滅びるのは明白だった。死人も数十万単位で出ることだろう。


 しかし、そんなことをマリアンヌには説明できず……。ポテンティアには黙るしか選択肢はなかったようだ。


『(あとでワルツ様と相談しますかね)』


 ポテンティアが内心でそんな事を考えているうちに、ワルツの作業が終わる。


「はい。こんな感じで良い?」


 そう言ってワルツがマリアンヌに手渡したもの。それは確かに無骨なデザインの首輪だった。むしろ、シンプルを極め過ぎたせいか、工業製品のデモ品のようで、逆に美しいとすら言える首輪だったようである。


 それを見たマリアンヌは、思わず問いかけた。


「あの……ワルツ様?これって王冠なのでは……」


 青色の人工魔石が取り付けられたそのリングは、鏡のように磨かれており、王冠だと言っても誰も疑わないような美しい見た目をしていた。シンプルイズベスト、というやつである。


 しかし、そのリングには、隠しボタンのようなものが取り付けられており——、


「ポチッとな」かぽっ


——ボタンを押すと、2つに別れるようになっていたようだ。


「ほらね?これで、リングを首に付けて、もとに戻せば……」カチッ


「あぁ……確かに首輪ですわ」


 そう言って自身の首に取り付けられたリングを、どこか嬉しそうに手で撫でるマリアンヌ。その様子を見ていた約一名のサキュバスが、「ムキーッ」と言わんばかりに悔しがっていたようだが……。まぁ、彼女の事は置いておこう。


元皇女「でも、やっぱりこれじゃないような……」

情報局局長「ムキーッ!」

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