14.17-37 遠く3
サブタイトルのナンバリングを修正したのじゃ。
「ふぅ……一時はどうなるかと思いました。何というか、お尻の方で、殺意を感じたというか……。もう少しで、楽器にされそうな気がしてなりませんでしたよ」
「ユリア……ちょっと貴女が何を言っているのか分からないのだけれど?」
食器棚にある小さな扉から上半身だけを覗かせていたユリアは、皆の協力を得て、どうにかワルツたちがいる側の空間に出ることに成功する。もしも身体が挟まった状態で抜けなくなってしまったなら、転移用魔道具に魔力を注ぎ込んでいる人物の魔力が切れた時点で空間の接続は解消され、ユリアの身体は真っ二つになっていたことだろう。まぁ、カタリナさえ呼べば、死ぬことはないはずだが、スプラッタな光景が広がっていたに違いない。
まぁ、それはさておき。
「えっと……そんな事よりもです!ワルツ様!噂を聞いたのですが……ワルツ様がカタリナさんにエンゲージリングを送ったとか?」
「は?なんでそうなるのよ……」
ワルツがカタリナに送ったのは、青い人工魔石が取り付けられたネックレスである。決してエンゲージリングなどではない。
「えっ?違うのですか?狩人さんから聞きましたが……」
ユリアはそう口にして、その場にいた狩人の方へと振り向いた。ついでに、ワルツも同じ方を向く。
すると狩人は、よく分からないと言わんばかりに首を傾げながら、ユリアに向かってこう言った。
「いや、エンゲージリングとは一言も言っていないぞ?カタリナが、ワルツから貰ったっぽいアクセサリーを薬指に絡めてうっとりしていた、とは言ったがな?」
「似たようなものですね」
「いやいやいや」
いったいどこからツッコミを入れるべきか……。ワルツは頭を抱えた。
しかし、彼女の思考の切り替えは早い。2人のやり取りには慣れていて、深く考えても仕方がない、とかなり前から割り切っているからだ。
「まったく、もう。仕方ないわね……」
ワルツはそう口にすると、近くの棚の中にあった大きめの瓶を取る。アステリアなどが変身の際に使用しているマナだ。より具体的に言えば、ルシアが魔力を込めた水である。尤も、少量の水に魔力を込めるとなぜか水かさが増すので、本当に水なのかは不明だが。
そんなマナの一部を空中に浮かべたワルツは、徐に手で掴むと、ギュッと握り締めた。するとどういう原理か、マナは固形化して、青色の宝石に変わってしまう。
「「「「おぉ……」」」」
「ん?なんか驚くことでもあった?」
皆が驚きの声を上げたせいか、ワルツが問いかけると、狩人が真っ先に口を開く。
「水……いや、あれはマナか。マナを握り締めて宝石に変えるなんて、世界のどこを探してもワルツしかいないと思ったんだ」
「んー、どうですかね?超重力でマナを圧縮しただけだから、ルシアも魔法を使えば出来るんじゃないかしら?」
ワルツの人工魔石作りは、極めて単純だった。重力制御システムを使い、マナに超重力を掛けて圧縮しただけである。
マナは外部から"超"が付くほどの圧力を受けると、どういうわけか、液体から固体へと変わり、最終的には人工の魔石に変わるのである。単なる水に超重力を掛ければ、氷のように固形化するものの、元の圧力に戻せば、また液体に戻る性質を持っている。そのことからも、やはりマナと水は別物と言えるのかも知れない。あるいは、マナが水の固形化を保持する役割を担っているか、だ。ちなみに、水を圧縮した"氷"は、普通の氷とは異なる性質を持っており、0度で溶けたり、100度で沸騰・昇華したりはしない。なお、自然界にもごく少量、圧縮された固体の水が存在し、"鉱物"として分類されていたりする。
ワルツは、そんな人工魔石をなぜか大量に作ると、金属塊を指先で弄ぶように作り出した鎖や留め具と共に組み合わせて、アクセサリーにする。それだけで見た目はカタリナに送ったネックレスとそっくりだが、最後にもう一つ、工程が残っていると言えた。転移魔法陣の書き込みだ。




