14.17-34 極秘プロジェクト?34
ルシアたちが、あーでもないこーでもない、と議論していた一方、ワルツ、ウエンツ、マグネアの3人は、シーンと静まりかえっていた。月の植物を包み込むように、突如として石棺が出来上がった姿を見て、ウエンツとマグネアが唖然としていたからだ。ワルツ自身としては何も驚くことはなかったが、彼女は自ら話しかけるような性格をしていなかったので、他の2人が黙っていると、口を開きづらかったのである。
「(あれって……そんなに驚くことなのかしら?)」
我が妹ながら中々に良い判断だ——と思っていたかどうかは定かでないが、ワルツはルシアたちの行動を評価していたようである。未知の植物の花が咲くとなれば、そこに厄介事が絡むのはテンプレートのようなものだからだ。臭いのモノに蓋をするという判断は、ワルツも同意見だった。
「(あの中、どうなっているのかしら?ルシアの土魔法の欠点は、中がどうなっているのか、外からじゃ観察できない事よね……。まぁ、窓ガラスがあったら、それはそれで危険かも知れないけれど……)」
ルシアの土魔法は、その場の地面にある物質を強固に結合させつつ建物を形作る、というものである。地面に存在する物質が、ガラスのように透明な材質ばかりであれば、それらを固めて、透明に近い半透明の壁を作る事は可能だった。
しかし、月の表面、あるいは一般的な地面が、透明な物質ばかりで出来ているケースはまずありえず……。ルシアが作る建物は、基本的に不透明である。今回のように、謎の植物を観察するためには、透明な方が良いので、そこはルシアの魔法の改善点。ただ、この世界においては、未知の効果をもつ"光"を発する物体が存在しないとも限らなかったので、決して悪い事ばかりだとは言えなかった。
「特訓が必要ね」
ワルツは石棺を見つめながらポツリと零した。
そんな彼女の言葉でようやく我に返ったのか、ウエンツとマグネアがハッとした様子でワルツの方を振り向く。2人は思ったらしい。……ワルツはルシアの土魔法に満足していないのだ、と。まぁ、何に満足していないのかまでは理解していなかったようだが。
「えっ?何?」
急に2人が振り向いたために、ワルツは焦ってしまう。自分が何か拙いことを言ったのではないかと不安に駆られたらしい。
対する2人の内、マグネアが、ワルツに対して、感心半分、呆れ半分の様子でこう言った。
「あれほど立派な魔法を詠唱もなく使えるというのに、ワルツさんは納得されないのですね……」
そんなマグネアの言葉に、ウエンツも首肯する。
「あの娘と同じ事が出来る者など、この国にはおらん。にも関わらず更に上を目指させるとは……恐れ入った」
「……なんか2人とも、勘違いしている気しかしないのだけれど……」
そうは言いつつも、ワルツは思う。
「(……んん?でも、ガラス質の壁を作らせる特訓って、つまり2人が言っている事と同義なのかしら?)」
ルシアの魔法が上手くなったのは、自分の無茶な要望に応えようとした結果なのではないか……。彼女の他、カタリナやイブなども、同じ理由で魔法がうまくなったのではないか……。ワルツが真理(?)に辿り着こうとした——そんな時。
「あっ、いけない!」
ふと空を見上げたマグネアが慌てたように声を上げる。
「えっ?ちょっ……」
空から隕石でも降ってきたのだろうか……。そんなことを思うワルツは、一瞬、慌てて身構えてしまうものの、どうやらそういうわけではなかったらしい。
「そろそろ夕刻ですから、あの娘がまた学院長室にやってくる時間です」
「あの娘……あぁ、ミレニアのお母さん……っていうか、貴女の娘さんね?」
「えぇ、そうです」
ワルツはマグネアの相づちを聞きながら、彼女の視線を追って、空を見上げた。するとそこには、昼の青さと夜の暗闇との境目に差し掛かったとある大陸の姿が見えたようだ。学院のある大陸だ。その場に時計が無い変わりに、空に浮かぶ惑星そのものが、大きな時計のようなものだと言えるのかも知れない。
「そろそろ帰る時間ね。目を覚まさないほかの4人は、また明日、目が覚めてから対応することにしましょう」
ワルツの言葉に、ウエンツもマグネアもコクリと頷いた。




